桃屋の創作テキスト置き場
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■こんぺいとう5 ウェディング!! 1 ■
「早く起きすぎたかぁ・・・」
とある連休の初日の朝。
公演舞台が終わったばかりで、しばらくの休みだ。
当然、公演以外でも仕事はあるが、今日明日は連休で、久々に惰眠を貪ってやる!
と昨日のうちから息巻いていた千影だったのだが。
ベッドから起き上がり、洗顔を済ませてキッチンへ向かい、素晴らしく丁度いいタイミングで手渡されたコーヒーをすすりながら、千影は一人で呟いた。
「いつもどおりでしょ?」
新聞を、これまた素晴らしいタイミングで手渡しつつ、輝愛が答える。
「いや、せっかくの休みなのに、もうちょっとゆっくりでも良かったなーって」
「でも、お友達の結婚式でしょ」
言われて、はた、とカレンダーに目をやる。
「え・・・・そうだったっけ・・・?」
「ちょっと、カワハシ?」
未だ僅かに寝ぼけ眼をこすりながら、カレンダーに顔を近付ける。
そこには、はっきりくっきりと赤い文字で、『結婚式に無理やり参加させられる』と書いてあった。
「・・・まさかとは思うけど、忘れてたとか言う?」
「聞いて驚け。そのまさかだ」
「もー!」
呆れる輝愛だったが、呼ばれている披露宴の開始時刻は15時なので、別に遅刻しそうな訳でもないのだが。
「あ、スーツださなきゃ」
「昨日カワハシが寝た後に、ちゃんと出しときました」
「祝儀袋とふくさ」
「こないだクローゼットから発掘しときました」
今更言い出す千影に、しかし輝愛は呆れ顔ながらも、準備したものを指差す。
なかなかどうして、大変良くできた娘分のおかげで、特に今から買いに走るものは無さそうだ、と、安堵のため息をつく。
「まったく、たまにちょこっと大胆に抜けてる時あるよね、カワハシ」
「疲れてんの」
悪びれる様子も無い彼に、しかしそれも最もなので、彼女は苦笑するのだった。
「招待状と、ご祝儀袋ね。中身は自分で入れてね。で、ふくさそこね。スーツはそこのハンガーにかけてあるブラックのやつでしょ?で、アイロンかけたワイシャツはそっちのハンガー。何色がいいか分かんなかったからね、色んなの出てるから選んでね。ネクタイは白でいいのかな?他のもそこにかけてあるから。で、靴は磨いといたから玄関に出てるやつね。あとはカワハシの身一つよ」
「誠に有難うございます。お嬢様」
ははあ、と頭を大きく垂れて大袈裟に礼を述べながら、届いてからロクに目も通していなかった招待状を眺める。
本来なら、招待状に同封されているハガキで、出席の有無を通知するのだが、今回に限っては、アクションチームのほぼ全員が『強制参加』状態になっており、有無を言わさず『参加』扱いになると言われていたので、別段、詳しく内容を把握していなかったのだ。
輝愛に限っては、まだ面識がないのと、入団して間もない事もあり、強制参加にはなっていないのだが。
今回の新郎新婦は、千影本人もチーム全体にもとても深く縁のある二人で、新郎は演出家、新婦は女優。
新郎の方は、チームの仕事でも、そのほかの舞台の仕事でも、しょっちゅう顔を合わせる大学時代からの先輩で、新婦のほうも、そこかしこの舞台で見かける実力派であり、業界関係者も注目するカップルの挙式なのである。
「あれま、直筆?」
目を落とした招待状には、今まで気づかなかった、直筆のメッセージが。
呟いて、久しぶりに見る先輩の字を目で追って、
「うげ」
かえるがつぶされたような声を出す。
「ん?どしたの?」
招待状を持ったまま固まってしまった千影を、下から覗き込む輝愛。
「・・・・・トーイ、お前、今日、暇?」
「うん。大掃除しようと思って。丁度いいことに怠け者カワハシが出かけるし」
若干、最後の方に気になる台詞があったが、今の千影にそこを突っ込む余裕は、最早皆無だった。
「今何時!?」
「え?11時ちょっと過ぎたとこ」
答える輝愛の台詞に、千影の顔がさあっ、と青くなって行く。
「取り合えず、着替えろ!即効!」
「へ?え?なんで?」
「いいから早く!!!!」
怒鳴って、自分も大急ぎで先ほど指し示されたスーツ一式などをかばんに詰め込み始める。
「ちょちょちょ、何が起こったの?」
「今からだぞ!?」
「はあ?」
完全に顔色を失って、蒼白になった千影が、若干寝癖の残る頭を抱えながら、
「今から服買って靴買って髪の毛いじってメイクして!?」
「カワハシ化粧するの?」
「馬鹿、仕事でもないのにするかよ」
「じゃあなんで」
圧倒的に、事態を把握する術を与えられないまま圧されまくってる輝愛が、目を見開いて唖然としたまま、何とか口を動かす。
「お前だよ!」
「はあ?」
千影はバッグに整髪料やら財布やら祝儀袋やら、取り合えず突っ込みながら、
「お前も行かなきゃいけなくなったの!」
「どこに」
何でわかんねぇんだこいつ
と言う顔で、千影が怒鳴る。
「結婚式!!!」
「早く起きすぎたかぁ・・・」
とある連休の初日の朝。
公演舞台が終わったばかりで、しばらくの休みだ。
当然、公演以外でも仕事はあるが、今日明日は連休で、久々に惰眠を貪ってやる!
と昨日のうちから息巻いていた千影だったのだが。
ベッドから起き上がり、洗顔を済ませてキッチンへ向かい、素晴らしく丁度いいタイミングで手渡されたコーヒーをすすりながら、千影は一人で呟いた。
「いつもどおりでしょ?」
新聞を、これまた素晴らしいタイミングで手渡しつつ、輝愛が答える。
「いや、せっかくの休みなのに、もうちょっとゆっくりでも良かったなーって」
「でも、お友達の結婚式でしょ」
言われて、はた、とカレンダーに目をやる。
「え・・・・そうだったっけ・・・?」
「ちょっと、カワハシ?」
未だ僅かに寝ぼけ眼をこすりながら、カレンダーに顔を近付ける。
そこには、はっきりくっきりと赤い文字で、『結婚式に無理やり参加させられる』と書いてあった。
「・・・まさかとは思うけど、忘れてたとか言う?」
「聞いて驚け。そのまさかだ」
「もー!」
呆れる輝愛だったが、呼ばれている披露宴の開始時刻は15時なので、別に遅刻しそうな訳でもないのだが。
「あ、スーツださなきゃ」
「昨日カワハシが寝た後に、ちゃんと出しときました」
「祝儀袋とふくさ」
「こないだクローゼットから発掘しときました」
今更言い出す千影に、しかし輝愛は呆れ顔ながらも、準備したものを指差す。
なかなかどうして、大変良くできた娘分のおかげで、特に今から買いに走るものは無さそうだ、と、安堵のため息をつく。
「まったく、たまにちょこっと大胆に抜けてる時あるよね、カワハシ」
「疲れてんの」
悪びれる様子も無い彼に、しかしそれも最もなので、彼女は苦笑するのだった。
「招待状と、ご祝儀袋ね。中身は自分で入れてね。で、ふくさそこね。スーツはそこのハンガーにかけてあるブラックのやつでしょ?で、アイロンかけたワイシャツはそっちのハンガー。何色がいいか分かんなかったからね、色んなの出てるから選んでね。ネクタイは白でいいのかな?他のもそこにかけてあるから。で、靴は磨いといたから玄関に出てるやつね。あとはカワハシの身一つよ」
「誠に有難うございます。お嬢様」
ははあ、と頭を大きく垂れて大袈裟に礼を述べながら、届いてからロクに目も通していなかった招待状を眺める。
本来なら、招待状に同封されているハガキで、出席の有無を通知するのだが、今回に限っては、アクションチームのほぼ全員が『強制参加』状態になっており、有無を言わさず『参加』扱いになると言われていたので、別段、詳しく内容を把握していなかったのだ。
輝愛に限っては、まだ面識がないのと、入団して間もない事もあり、強制参加にはなっていないのだが。
今回の新郎新婦は、千影本人もチーム全体にもとても深く縁のある二人で、新郎は演出家、新婦は女優。
新郎の方は、チームの仕事でも、そのほかの舞台の仕事でも、しょっちゅう顔を合わせる大学時代からの先輩で、新婦のほうも、そこかしこの舞台で見かける実力派であり、業界関係者も注目するカップルの挙式なのである。
「あれま、直筆?」
目を落とした招待状には、今まで気づかなかった、直筆のメッセージが。
呟いて、久しぶりに見る先輩の字を目で追って、
「うげ」
かえるがつぶされたような声を出す。
「ん?どしたの?」
招待状を持ったまま固まってしまった千影を、下から覗き込む輝愛。
「・・・・・トーイ、お前、今日、暇?」
「うん。大掃除しようと思って。丁度いいことに怠け者カワハシが出かけるし」
若干、最後の方に気になる台詞があったが、今の千影にそこを突っ込む余裕は、最早皆無だった。
「今何時!?」
「え?11時ちょっと過ぎたとこ」
答える輝愛の台詞に、千影の顔がさあっ、と青くなって行く。
「取り合えず、着替えろ!即効!」
「へ?え?なんで?」
「いいから早く!!!!」
怒鳴って、自分も大急ぎで先ほど指し示されたスーツ一式などをかばんに詰め込み始める。
「ちょちょちょ、何が起こったの?」
「今からだぞ!?」
「はあ?」
完全に顔色を失って、蒼白になった千影が、若干寝癖の残る頭を抱えながら、
「今から服買って靴買って髪の毛いじってメイクして!?」
「カワハシ化粧するの?」
「馬鹿、仕事でもないのにするかよ」
「じゃあなんで」
圧倒的に、事態を把握する術を与えられないまま圧されまくってる輝愛が、目を見開いて唖然としたまま、何とか口を動かす。
「お前だよ!」
「はあ?」
千影はバッグに整髪料やら財布やら祝儀袋やら、取り合えず突っ込みながら、
「お前も行かなきゃいけなくなったの!」
「どこに」
何でわかんねぇんだこいつ
と言う顔で、千影が怒鳴る。
「結婚式!!!」
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■こんぺいとう5 ウェディング!! 2 ■
「はいはいもしもし・・あら、ちかちゃん?」
「そうそう、俺俺」
二回目のコールが鳴り終わらないうちに、珠子の声が電話口から聞こえてくる。
早々に出てくれて感謝するが、それでも彼にはその2コールすら長く感じた。
「どしたのちかちゃん。まだ披露宴まで時間あるでしょ?」
「その事で相談、もとい頼みが」
業界関係者が多く招待されており、チーム全員強制参加と来れば、当然、珠子も出席者である。
「どしたの?えらく焦り気味じゃない?珍しい事」
「面倒くさいから率直に言う。悪い、化粧してやってくれ」
輝愛の腕を掴みつつ、かばんを引っ掛けた方の手で携帯を握り、殆どダッシュしながら、彼は彼の姉貴分に懇願する。
「・・・・・・やぁだ、ちかちゃんに化粧したら気持ち悪いじゃない」
「ちっがーーう!!」
思わず急ぎまくってるのを忘れ、立ち止まって携帯に向かって怒鳴る。
「なによーぅ、おこんないでよー」
電話の向こうで、むすくたれてる声が聞こえるが、余裕の無い千影に取っては、それこそ取るに足らない事だ。
「俺じゃねえ。トーイだトーイ」
「輝愛ちゃん?いいけど、なんで?」
千影は事の次第を珠子に即効で告げる。
勿論、先ほど止まった足も、今は駐車場に向かって動いている。
「おっけ、そーゆー事なら了解よ。会場のメイクルームでやったげる」
「悪い、今度なんか奢るわ」
車の後部座席にかばんをぶち込み、助手席に娘分を投げ入れて、自分も運転席に乗り込む。
「ドレスも貸そうか?枚数ならあるわよ?」
有り難い珠子の申し出に、しかし千影は一瞬の逡巡する隙もなく、
「だめ!」
「あら、なんでよ?」
問いかける珠子に、一瞬目線を隣に座っている輝愛に向けた後、
「お前のじゃ、露出高すぎ。以上!」
言うだけ言って、とっとと電源ボタンを押して、通話を終了させてしまう。
そして大急ぎでエンジンをかけ、車を発進させた。
「・・・・くっくっく」
珠子は、通話の終わった携帯を握り締めたまま、お気に入りのクッションを抱きかかえた状態で、腹を抱えて笑っていた。
「聞いてるこっちが、恥ずかしいわ」
あのちかちゃんが、あんなに言うなんてねえ。
自分よりも大分大きく成長してしまった弟分の、珍しくも初々しい姿に、目を細める。
「すっかり父親の意見だったけど、それ以外の主観も強そうね」
『露出が多いから、だめ』だなんて、今までの千影からは想像もできない台詞だった。
珠子は立ち上がって、一つ伸びをする。
メイクボックスに、自分用に用意したもの以外に、必要なものを追加して、微笑んだ。
「変わってきたんじゃない?それも、かなりいい方向に、ね」
「何がだ?」
「んーん、何でもないわ」
妻のおかしな行動には慣れ親しんでいる夫紅龍だが、普段より嬉しそうな彼女に微笑みながら問いかける。
彼女も、笑顔のままで答える。
「ただね、ちょっと微笑ましかったのよ」
そう言うと、ああ、と的を居たりな表情になった紅龍は、手にしていたマグカップのコーヒーを一口すすりながら、
「ちかの奴か」
「そゆこと」
もう一つのマグカップを、目に涙を浮かべて笑う妻に渡すと、夫は若干懐かしそうな口調で、
「あいつも、まーあ、青くなっちゃって」
その台詞に、愛しい夫に淹れてもらったコーヒーを飲みながら、妻はまたひとしきり笑った。
「ここは一つ、お姉ちゃんが磨いてあげなきゃね」
―――ちかちゃんがびっくりして、惚れ直すくらいに、ね。
そう心の中だけで呟いて、夫に寄りかかって、また笑った。
◇
「あのぅ・・」
助手席に投げ込まれ、何も理解出来ていないままの娘分は、シートベルト握り締めながら、情けない声を出す。
「一体全体、何がなにやら・・・」
横でハンドルを握る千影は、ようやく一息ついたのか、信号で止まった際に、例の招待状を彼女に手渡す。
「読んでみ」
「えっと」
受け取って、中身を読む。
そこにはごくありふれた、結婚式のお誘いの文章。
別段、特に変わったところは無い。
直筆のメッセージだって、ちょっとマメな人間だったら、やってもおかしくは無い。
ただ、読み進めたその内容が、普通のそれとは、若干、かけ離れ気味だったりもするのだが。
『千影君、元気?この度、残念な事に結婚する事になっちまいました。で、前々から見せろって言ってた、お宅の娘、絶対連れて来いよ?
10代のぴちぴちなんだろ?お披露目しろよな。このメッセージを無視すると、この先の千影君のお仕事に多大な影響を与える事になっちゃうぞ☆(うけけ)』
『川ちゃんお久しぶり!馬鹿旦那がごめんね!でも私もかわいい女の子見たいので、是非つれて来なさい~♪連れて来ないと、嫌がらせしちゃうぞ!じゃあね』
「・・・・・・・・・えーっと」
「読んだだろ?」
「はあ、一応」
しかし、なんともテンションの高い文章である。
新郎は40ちょい前、新婦も30代真ん中だと言っていたので、お互い大分、元気な人なんだろうか。
「これ、ただのギャグとかじゃない?別にあたしがいなくても・・」
「甘い!!!」
彼女の言葉を遮って、千影は眉間にしわを寄せて、頬に冷や汗垂れ流しつつ、ハンドルを力一杯握り締める。
「アイツ・・あの先輩は、あの珠子も足元にも及ばないレベルでの恐ろしさ・・・しかも嫁になるやつもやつで、一緒になって後輩をいびるのが大好きっちゅー、最悪なやつらなんだ」
なんか、すごいことになってるなあ・・
と思いつつ、千影のこんな焦って、もしくは若干脅えている姿なんぞ見るのは初めてで、輝愛は場違いになんだかちょっと嬉しかった。
「なので」
気を取り直したように千影は言葉を続ける。
「俺はまだまだ死にたくないし、食いっぱぐれるのも勘弁なんで、頼むぞ、トーイ」
「うえ・うえええええ!?」
彼は、華麗にハンドルをさばきながら、
「恥かくわけにも、かかせる訳にもいかん。ってことで」
「ってことで・・・・?」
いつになく真剣な目の千影に、輝愛は身を引いて引きつった顔で答える。
「お前を、いい女にせにゃならん」
「はいはいもしもし・・あら、ちかちゃん?」
「そうそう、俺俺」
二回目のコールが鳴り終わらないうちに、珠子の声が電話口から聞こえてくる。
早々に出てくれて感謝するが、それでも彼にはその2コールすら長く感じた。
「どしたのちかちゃん。まだ披露宴まで時間あるでしょ?」
「その事で相談、もとい頼みが」
業界関係者が多く招待されており、チーム全員強制参加と来れば、当然、珠子も出席者である。
「どしたの?えらく焦り気味じゃない?珍しい事」
「面倒くさいから率直に言う。悪い、化粧してやってくれ」
輝愛の腕を掴みつつ、かばんを引っ掛けた方の手で携帯を握り、殆どダッシュしながら、彼は彼の姉貴分に懇願する。
「・・・・・・やぁだ、ちかちゃんに化粧したら気持ち悪いじゃない」
「ちっがーーう!!」
思わず急ぎまくってるのを忘れ、立ち止まって携帯に向かって怒鳴る。
「なによーぅ、おこんないでよー」
電話の向こうで、むすくたれてる声が聞こえるが、余裕の無い千影に取っては、それこそ取るに足らない事だ。
「俺じゃねえ。トーイだトーイ」
「輝愛ちゃん?いいけど、なんで?」
千影は事の次第を珠子に即効で告げる。
勿論、先ほど止まった足も、今は駐車場に向かって動いている。
「おっけ、そーゆー事なら了解よ。会場のメイクルームでやったげる」
「悪い、今度なんか奢るわ」
車の後部座席にかばんをぶち込み、助手席に娘分を投げ入れて、自分も運転席に乗り込む。
「ドレスも貸そうか?枚数ならあるわよ?」
有り難い珠子の申し出に、しかし千影は一瞬の逡巡する隙もなく、
「だめ!」
「あら、なんでよ?」
問いかける珠子に、一瞬目線を隣に座っている輝愛に向けた後、
「お前のじゃ、露出高すぎ。以上!」
言うだけ言って、とっとと電源ボタンを押して、通話を終了させてしまう。
そして大急ぎでエンジンをかけ、車を発進させた。
「・・・・くっくっく」
珠子は、通話の終わった携帯を握り締めたまま、お気に入りのクッションを抱きかかえた状態で、腹を抱えて笑っていた。
「聞いてるこっちが、恥ずかしいわ」
あのちかちゃんが、あんなに言うなんてねえ。
自分よりも大分大きく成長してしまった弟分の、珍しくも初々しい姿に、目を細める。
「すっかり父親の意見だったけど、それ以外の主観も強そうね」
『露出が多いから、だめ』だなんて、今までの千影からは想像もできない台詞だった。
珠子は立ち上がって、一つ伸びをする。
メイクボックスに、自分用に用意したもの以外に、必要なものを追加して、微笑んだ。
「変わってきたんじゃない?それも、かなりいい方向に、ね」
「何がだ?」
「んーん、何でもないわ」
妻のおかしな行動には慣れ親しんでいる夫紅龍だが、普段より嬉しそうな彼女に微笑みながら問いかける。
彼女も、笑顔のままで答える。
「ただね、ちょっと微笑ましかったのよ」
そう言うと、ああ、と的を居たりな表情になった紅龍は、手にしていたマグカップのコーヒーを一口すすりながら、
「ちかの奴か」
「そゆこと」
もう一つのマグカップを、目に涙を浮かべて笑う妻に渡すと、夫は若干懐かしそうな口調で、
「あいつも、まーあ、青くなっちゃって」
その台詞に、愛しい夫に淹れてもらったコーヒーを飲みながら、妻はまたひとしきり笑った。
「ここは一つ、お姉ちゃんが磨いてあげなきゃね」
―――ちかちゃんがびっくりして、惚れ直すくらいに、ね。
そう心の中だけで呟いて、夫に寄りかかって、また笑った。
◇
「あのぅ・・」
助手席に投げ込まれ、何も理解出来ていないままの娘分は、シートベルト握り締めながら、情けない声を出す。
「一体全体、何がなにやら・・・」
横でハンドルを握る千影は、ようやく一息ついたのか、信号で止まった際に、例の招待状を彼女に手渡す。
「読んでみ」
「えっと」
受け取って、中身を読む。
そこにはごくありふれた、結婚式のお誘いの文章。
別段、特に変わったところは無い。
直筆のメッセージだって、ちょっとマメな人間だったら、やってもおかしくは無い。
ただ、読み進めたその内容が、普通のそれとは、若干、かけ離れ気味だったりもするのだが。
『千影君、元気?この度、残念な事に結婚する事になっちまいました。で、前々から見せろって言ってた、お宅の娘、絶対連れて来いよ?
10代のぴちぴちなんだろ?お披露目しろよな。このメッセージを無視すると、この先の千影君のお仕事に多大な影響を与える事になっちゃうぞ☆(うけけ)』
『川ちゃんお久しぶり!馬鹿旦那がごめんね!でも私もかわいい女の子見たいので、是非つれて来なさい~♪連れて来ないと、嫌がらせしちゃうぞ!じゃあね』
「・・・・・・・・・えーっと」
「読んだだろ?」
「はあ、一応」
しかし、なんともテンションの高い文章である。
新郎は40ちょい前、新婦も30代真ん中だと言っていたので、お互い大分、元気な人なんだろうか。
「これ、ただのギャグとかじゃない?別にあたしがいなくても・・」
「甘い!!!」
彼女の言葉を遮って、千影は眉間にしわを寄せて、頬に冷や汗垂れ流しつつ、ハンドルを力一杯握り締める。
「アイツ・・あの先輩は、あの珠子も足元にも及ばないレベルでの恐ろしさ・・・しかも嫁になるやつもやつで、一緒になって後輩をいびるのが大好きっちゅー、最悪なやつらなんだ」
なんか、すごいことになってるなあ・・
と思いつつ、千影のこんな焦って、もしくは若干脅えている姿なんぞ見るのは初めてで、輝愛は場違いになんだかちょっと嬉しかった。
「なので」
気を取り直したように千影は言葉を続ける。
「俺はまだまだ死にたくないし、食いっぱぐれるのも勘弁なんで、頼むぞ、トーイ」
「うえ・うえええええ!?」
彼は、華麗にハンドルをさばきながら、
「恥かくわけにも、かかせる訳にもいかん。ってことで」
「ってことで・・・・?」
いつになく真剣な目の千影に、輝愛は身を引いて引きつった顔で答える。
「お前を、いい女にせにゃならん」
■こんぺいとう5 ウェディング!! 3 ■
フィッティングルームの前で、千影は頭を抱えていた。
「・・・・・・・・お前さあ」
「はい~」
呼ばれた輝愛も、疲れたような声である。
もう既に、何着目の試着だろうか。
輝愛としては、状況もよく分からず、出来ればとっとと終わらせるか、どちらかと言うとなかったことにして、帰りたいくらいなのだが。
しかし、フィッティングルームの前で待機する、千影のOKが出ないのだ。
「これなんぞいかが」
なかば投げやり気味に、カーテンをシャッ、と開く。
「お前、スカートにあわねぇなあ」
「そんなしみじみ言われても」
半眼で言う彼に、そこまで言われると、若干悲しくなってくるのだが。
「大体、似合わないのばっかり選びすぎ」
と、彼女が適当に選んで試着し、没になった洋服の山を見た。
「だって、スカートなんて、中学の制服でしか着た事ないし・・・」
しょんぼりうなだれる輝愛。
実際なら、高校に通っている年齢ではあるが、千影と出会う前の彼女は、経済的に進学を選ぶ余裕はなかった。
高校で制服着てたら、多少はスカートに抵抗感ないかも知れないけど。
心の中で、ちょっぴり愚痴を零してみたり。
「トーイね、セットアップ似合わねぇな」
「結婚式のお洋服なんか、分かんないよー。いかなくてもいいでしょー」
「だめ。俺が殺される。火あぶりもしくは八つ裂きで」
「うえええ」
二人が、はたから見ると漫才の様な会話を交わしていると、
店員が見かねたのか、声をかける。
「いかがですか?」
「いかがもなんも、だめだそうです」
答える輝愛に、千影は悪びれもせず、
「だって似合わねーんだもん」
店員も苦笑して、
「お肌の色と、お洋服が合ってないご様子でしたので、何着かお持ちしましたよ。あと、お客様の雰囲気ですと、セットアップよりも、こういった感じのものがお似合いになるんじゃないかしら」
千影とおよそ同い年くらいに見える店員の女性は、にっこりと微笑んで、千影にピックアップして来た洋服を差し出す。
どうやら、先ほどからの二人の会話を聞いて、気を利かせてくれたらしい。
「を、これ着て」
渡されたドレスの中から、千影が気に入ったらしい一枚を抜き取る。
「ひ!こんな高いの無理!」
断ろうと、青ざめて店員に差し出すが、千影は聞いていない。
「こちらはお色もシックで上品ですし、ラインも綺麗に出ますよ。お素材も上質なものですし、なにより、お似合いになると思いますけど」
「だそうだ。お似合いになるそうだから、取り合えず着ろ」
「ででででも」
一枚の、ブルーグリーンのドレスを渡されて、冷や汗をたらす輝愛。
・・・・やだよーこんな高いの。払えないよー・・・
「五月蝿い。早くしろ。時間がねえ。それとも」
千影は半眼になって凄むと、輝愛にぐっと顔を近付けて、
「一人で出来ないなら脱がせてやるけど?どうする?」
「ひ、一人で出来ます!!!」
千影の据わった目を本気と取ったのか、青くなったまま大急ぎでカーテンを閉める輝愛。
彼の横では、店員がくすくす笑っている。
「可愛らしい恋人さんですね」
「だといいんですけどね」
と、肩を落として苦笑する。
お洋服に合う小物もお持ちしましょうか
と言う店員の言葉を二つ返事で承諾し、
バックと靴、アクセサリーを一式頼む。
しばらくすると、目の前のカーテンがおずおずと開かれた。
「無理です隊長」
「なんだ隊長って。いいから首から下見せろ」
カーテンから首だけを出して、泣きそうになっている娘分に、情け容赦ない父親分。
「だから無理ですってば!こんなの恥ずかしい!死ねる!」
「死んでも生き返らせてやるから見せろ」
「ひどーい」
半泣きの彼女を無視して、千影はカーテンを開ける。
一瞬、言葉が出なかった。
「とてもお似合いですよ」
店員の言葉で、はっと我に返り、
「さっきのより、大分マシ」
と頷いた。
「ミニスカートいや・・はずかしい・・」
半べそになりながら、ドレスの裾を押さえる娘を無視して、千影は店員に向き直り、何か話している。
輝愛は観念した様に、今着てきた自分の服に着替えるため、本日何回目か分からないくらい開け閉めしたカーテンを、再び閉めた。
娘分が着替えをしている間に、千影は店員が用意してくれた小物類すべてを合わせて、とっとと会計を済ませた。
さすがはデザイナーズブランド。頭の先から足の先まで一箇所で揃ったのは有り難い。
ようやく腕時計に目をやると、時間は何とか間に合いそうだった。
「お待たせ致しました」
「どーもー」
微笑みながら、かなり大きなショッパーを渡された千影は、フィッティングルームから出てきた輝愛を引っつかんで、すたすたと店を出て行く。
「あうー、カワハシー」
「ん?どした?」
殆ど抱えられている状態の輝愛は、なぜかその異様に大きな紙袋を見て、
「・・・・何故にそんなに大きいの・・・そして全部でいくらだったの・・・」
「は?何で?」
きょとんとする彼に、彼女は脅えたように肩をすくませて、
「だって、袋が絶対大きいんだもん・・・」
「ああ、だって一式頭から足まで買ったし」
「全部・・・・・・・・・・」
意識が軽く遠のく位の金額になっていることは明白で、輝愛は青ざめる。
・・・・だって、ドレス一枚であの値段だよ・・?全部って、なにそれいくらたすけて・・・
「ぜんぶでいくらだったの?分割払いとかでいい?一括じゃあたし払えないよぅ・・・」
「値段聞くと、お前泣くかも知んないから、やめとけ」
「ひー」
既に半分以上泣いている娘分を抱えたまま、再び助手席に放り込んで、一路、珠子が待つホテルを目指す。
助手席で死に掛けている娘分に、シートベルトをしてやりながら、
「気にするな。お前の為じゃなくて、ほぼ俺のためなんだから」
「でも、着るのはあたしでしょ?」
不安そうに上目遣いで問い返す。
その仕草が妙に子供っぽくて、千影は苦笑する。
「じゃあ、貢物ってことで」
「はあ?」
「買ってやるって、言ってんの」
エンジンをかけ、駐車場から出ようと、バックミラーとサイドミラーを交互に目で追う千影に、輝愛は首をかしげる。
「なんで?」
「んー、なんでって言われてもなぁ。必要だし」
「でも・・」
買ってもらう理由なんて、ないのに。
そう一人呟いて、シートベルトを握り締める。
その様子を見て、再び苦笑して、彼は左手で優しく彼女の髪の毛を撫でた。
「案外似合うかも知れんぞ」
「まっさか」
答えてため息つく彼女に、心の中だけで言葉を紡ぐ。
必要なのは最もだけど、それ以上に俺が買ってやりたかったんだよ。
だってたまには見たいじゃないか、可愛い娘分の、可愛い姿。
口が裂けても、本人には言えないけど。
未だに妙に遠慮深すぎるこの年頃の娘は、こんな事でもない限り、自分からの贈り物を受け取りはしないかも知れないから。
だとしたら、それを理由に、今までの分ちょっとまとめてしまったって、悪くは無いだろ?
「要するに、俺のためな訳だ」
そう呟きながら、アクセルを踏んだ。
フィッティングルームの前で、千影は頭を抱えていた。
「・・・・・・・・お前さあ」
「はい~」
呼ばれた輝愛も、疲れたような声である。
もう既に、何着目の試着だろうか。
輝愛としては、状況もよく分からず、出来ればとっとと終わらせるか、どちらかと言うとなかったことにして、帰りたいくらいなのだが。
しかし、フィッティングルームの前で待機する、千影のOKが出ないのだ。
「これなんぞいかが」
なかば投げやり気味に、カーテンをシャッ、と開く。
「お前、スカートにあわねぇなあ」
「そんなしみじみ言われても」
半眼で言う彼に、そこまで言われると、若干悲しくなってくるのだが。
「大体、似合わないのばっかり選びすぎ」
と、彼女が適当に選んで試着し、没になった洋服の山を見た。
「だって、スカートなんて、中学の制服でしか着た事ないし・・・」
しょんぼりうなだれる輝愛。
実際なら、高校に通っている年齢ではあるが、千影と出会う前の彼女は、経済的に進学を選ぶ余裕はなかった。
高校で制服着てたら、多少はスカートに抵抗感ないかも知れないけど。
心の中で、ちょっぴり愚痴を零してみたり。
「トーイね、セットアップ似合わねぇな」
「結婚式のお洋服なんか、分かんないよー。いかなくてもいいでしょー」
「だめ。俺が殺される。火あぶりもしくは八つ裂きで」
「うえええ」
二人が、はたから見ると漫才の様な会話を交わしていると、
店員が見かねたのか、声をかける。
「いかがですか?」
「いかがもなんも、だめだそうです」
答える輝愛に、千影は悪びれもせず、
「だって似合わねーんだもん」
店員も苦笑して、
「お肌の色と、お洋服が合ってないご様子でしたので、何着かお持ちしましたよ。あと、お客様の雰囲気ですと、セットアップよりも、こういった感じのものがお似合いになるんじゃないかしら」
千影とおよそ同い年くらいに見える店員の女性は、にっこりと微笑んで、千影にピックアップして来た洋服を差し出す。
どうやら、先ほどからの二人の会話を聞いて、気を利かせてくれたらしい。
「を、これ着て」
渡されたドレスの中から、千影が気に入ったらしい一枚を抜き取る。
「ひ!こんな高いの無理!」
断ろうと、青ざめて店員に差し出すが、千影は聞いていない。
「こちらはお色もシックで上品ですし、ラインも綺麗に出ますよ。お素材も上質なものですし、なにより、お似合いになると思いますけど」
「だそうだ。お似合いになるそうだから、取り合えず着ろ」
「ででででも」
一枚の、ブルーグリーンのドレスを渡されて、冷や汗をたらす輝愛。
・・・・やだよーこんな高いの。払えないよー・・・
「五月蝿い。早くしろ。時間がねえ。それとも」
千影は半眼になって凄むと、輝愛にぐっと顔を近付けて、
「一人で出来ないなら脱がせてやるけど?どうする?」
「ひ、一人で出来ます!!!」
千影の据わった目を本気と取ったのか、青くなったまま大急ぎでカーテンを閉める輝愛。
彼の横では、店員がくすくす笑っている。
「可愛らしい恋人さんですね」
「だといいんですけどね」
と、肩を落として苦笑する。
お洋服に合う小物もお持ちしましょうか
と言う店員の言葉を二つ返事で承諾し、
バックと靴、アクセサリーを一式頼む。
しばらくすると、目の前のカーテンがおずおずと開かれた。
「無理です隊長」
「なんだ隊長って。いいから首から下見せろ」
カーテンから首だけを出して、泣きそうになっている娘分に、情け容赦ない父親分。
「だから無理ですってば!こんなの恥ずかしい!死ねる!」
「死んでも生き返らせてやるから見せろ」
「ひどーい」
半泣きの彼女を無視して、千影はカーテンを開ける。
一瞬、言葉が出なかった。
「とてもお似合いですよ」
店員の言葉で、はっと我に返り、
「さっきのより、大分マシ」
と頷いた。
「ミニスカートいや・・はずかしい・・」
半べそになりながら、ドレスの裾を押さえる娘を無視して、千影は店員に向き直り、何か話している。
輝愛は観念した様に、今着てきた自分の服に着替えるため、本日何回目か分からないくらい開け閉めしたカーテンを、再び閉めた。
娘分が着替えをしている間に、千影は店員が用意してくれた小物類すべてを合わせて、とっとと会計を済ませた。
さすがはデザイナーズブランド。頭の先から足の先まで一箇所で揃ったのは有り難い。
ようやく腕時計に目をやると、時間は何とか間に合いそうだった。
「お待たせ致しました」
「どーもー」
微笑みながら、かなり大きなショッパーを渡された千影は、フィッティングルームから出てきた輝愛を引っつかんで、すたすたと店を出て行く。
「あうー、カワハシー」
「ん?どした?」
殆ど抱えられている状態の輝愛は、なぜかその異様に大きな紙袋を見て、
「・・・・何故にそんなに大きいの・・・そして全部でいくらだったの・・・」
「は?何で?」
きょとんとする彼に、彼女は脅えたように肩をすくませて、
「だって、袋が絶対大きいんだもん・・・」
「ああ、だって一式頭から足まで買ったし」
「全部・・・・・・・・・・」
意識が軽く遠のく位の金額になっていることは明白で、輝愛は青ざめる。
・・・・だって、ドレス一枚であの値段だよ・・?全部って、なにそれいくらたすけて・・・
「ぜんぶでいくらだったの?分割払いとかでいい?一括じゃあたし払えないよぅ・・・」
「値段聞くと、お前泣くかも知んないから、やめとけ」
「ひー」
既に半分以上泣いている娘分を抱えたまま、再び助手席に放り込んで、一路、珠子が待つホテルを目指す。
助手席で死に掛けている娘分に、シートベルトをしてやりながら、
「気にするな。お前の為じゃなくて、ほぼ俺のためなんだから」
「でも、着るのはあたしでしょ?」
不安そうに上目遣いで問い返す。
その仕草が妙に子供っぽくて、千影は苦笑する。
「じゃあ、貢物ってことで」
「はあ?」
「買ってやるって、言ってんの」
エンジンをかけ、駐車場から出ようと、バックミラーとサイドミラーを交互に目で追う千影に、輝愛は首をかしげる。
「なんで?」
「んー、なんでって言われてもなぁ。必要だし」
「でも・・」
買ってもらう理由なんて、ないのに。
そう一人呟いて、シートベルトを握り締める。
その様子を見て、再び苦笑して、彼は左手で優しく彼女の髪の毛を撫でた。
「案外似合うかも知れんぞ」
「まっさか」
答えてため息つく彼女に、心の中だけで言葉を紡ぐ。
必要なのは最もだけど、それ以上に俺が買ってやりたかったんだよ。
だってたまには見たいじゃないか、可愛い娘分の、可愛い姿。
口が裂けても、本人には言えないけど。
未だに妙に遠慮深すぎるこの年頃の娘は、こんな事でもない限り、自分からの贈り物を受け取りはしないかも知れないから。
だとしたら、それを理由に、今までの分ちょっとまとめてしまったって、悪くは無いだろ?
「要するに、俺のためな訳だ」
そう呟きながら、アクセルを踏んだ。
■こんぺいとう5 ウェディング!! 4 ■
「あら、思ったより余裕な時間で登場ね」
ホテルに到着し、車を地下の駐車場に預け、またまた輝愛と自分の荷物と、追加さっき購入したフルセットを抱えて、千影は珠子の待つ部屋へ向かった。
結構な勢いで珠子からメールで指定された部屋へ向かうと、丁度良く珠子と紅龍が立っているのが見えた。
「悪い、本気で頭から全部頼むわ」
言うが早いか、千影は珠子に、例のフルセットの紙袋を手渡すと、両膝に手をついて、大きくため息をつく。
「あらあら、お疲れねちかちゃん。時間あるから大丈夫よ」
クスクス笑う珠子は、既に深紅のドレスに身を包んでいる。
「おはよう、輝愛ちゃん。いきなりでびっくりしたよね」
それこそ本当の保護者の様な顔で、紅龍が輝愛に苦笑する。
「未だに脳みそ追いついてないですよぅ」
情けない声で、千影に小脇に抱えられたまましょぼくれる輝愛に、紅龍は再び苦笑しながら、
「まあ、珠子とちかのためにちょっと我慢してあげて」
「はあ」
「うちのかみさん、輝愛ちゃんをメイクできるの、喜んでたからさ」
「・・・恐れ入ります」
この場合の『恐れ入る』は、それこそ色んな意味での『恐れ入る』な訳だ。
「まあ、あの魔女みたいな顔で乙女回路搭載されちゃってるからさ、我慢してやって」
「をとめかいろ・・・」
素面でやたら素敵指数の高い台詞を吐くあたり、やはり社長は社長だなあと、輝愛は改めて実感する。
しっかし、あたしには搭載されてなさげだなあ、をとめかいろ・・・・
思案する輝愛の腕に、魔女珠子はそれこそ嬉しそうに手を添えると、
「で?いつまでいるわけ?覗く気?着替えを?このうら若き乙女の着替えを?返答次第ではあっさり殺すわよ?」
と、嫌みったらしく目の前の男二人に言い放つ。
旦那は心得たもので、
「お前で見飽きてるからいい」
と言うが早いか、背を向けてロビーラウンジのある方向に歩き出す。
「で?ちかちゃんは?」
半眼で見据えられると、いささか寝癖の残った髪の毛をくしゃりとやると、
「心の底から遠慮致します」
と息を吐くと、「俺も着替えなきゃいけねーなあ」などと呟きつつ、紅龍が歩く後ろを面倒くさそうについて行った。
「輝愛ちゃん、べっぴんさんにしたげるからね!」
「恐れ入ります」
紙袋抱えて、お辞儀をする彼女に、すっかり母親だか姉だか気分の珠子は微笑む。
輝愛の言う「恐れ入ります」は、それこそ色んな意味での「恐れ入る」である。
室内に入り、紙袋を置くと、珠子に促された椅子に腰掛ける。
珠子は珠子で、早速千影の戦利品の物色を始めたかと思うと、ドレスをハンガーにかけ、小物類のパッケージやらをひっぺがし、鏡の傍にある小さめのテーブルに鎮座させていった。
そして、自分の荷物の中からメイクボックスを引っ張り出し、たんたんっと軽い音を立てて、小瓶などを並べていく。
「軽くパックしましょか」
「はあ」
されるがままになっている輝愛は、取り合えず前髪を七三のようにピンでとめ、額を全開にされたかと思うと、使いきりタイプの美容液パックを顔に乗せられ、会話が難しい状態にさせられる。
「時間少ないから、じっくりやってあげられないのが残念だけどね、やるとやらないとじゃ、出来が違うのよ~」
珠子は嬉しそうに微笑みながら、ジェイソン状態になった輝愛の横で、支度をしている。
その珠子をこっそり眺めつつ、輝愛は小さく気づかれないようにため息をついた。
・・・お葬式にしか、縁が無かったからなぁ・・・
彼女の両親は、彼女が2歳の頃、自動車事故で亡くなっている。
そのときの葬儀の様子は、ほとんど覚えてなどいないけれど、大好きなばあちゃんが泣いて、泣いて、泣いてたのだけは覚えてた。
そのあとちょっとして、ずっと具合の良くなかったじいちゃんが亡くなって。
それで、最後はばあちゃんだ。
結婚式には縁がなかったけれども、今までの人生でお葬式には縁があった。
『見送る側の人間』なんて、言われた事もあったっけ。
そう言う運命の人間なんだって。
それがかなりショックだったりもしたな。
結婚式って、どんな空気なんだろう・・・
「輝愛ちゃん?」
不安げな顔で覗き込まれて、はっとする。
「どしたの?具合での悪い?」
「あ、違います、ぼーっとしちゃって。大丈夫です」
「そお・・?」
「はい、これ、はじめてマスクしました。ひやひやできもちくて、寝そうになりました」
えへへへと、申し訳なそうに笑う輝愛に、珠子はそれ以上問いはしなかった。
「お化粧、しよっか。ちかちゃんがびっくりするくらい、綺麗にしちゃおうね」
微笑む珠子に、輝愛も眉尻を下げて頷いた。
「あら、思ったより余裕な時間で登場ね」
ホテルに到着し、車を地下の駐車場に預け、またまた輝愛と自分の荷物と、追加さっき購入したフルセットを抱えて、千影は珠子の待つ部屋へ向かった。
結構な勢いで珠子からメールで指定された部屋へ向かうと、丁度良く珠子と紅龍が立っているのが見えた。
「悪い、本気で頭から全部頼むわ」
言うが早いか、千影は珠子に、例のフルセットの紙袋を手渡すと、両膝に手をついて、大きくため息をつく。
「あらあら、お疲れねちかちゃん。時間あるから大丈夫よ」
クスクス笑う珠子は、既に深紅のドレスに身を包んでいる。
「おはよう、輝愛ちゃん。いきなりでびっくりしたよね」
それこそ本当の保護者の様な顔で、紅龍が輝愛に苦笑する。
「未だに脳みそ追いついてないですよぅ」
情けない声で、千影に小脇に抱えられたまましょぼくれる輝愛に、紅龍は再び苦笑しながら、
「まあ、珠子とちかのためにちょっと我慢してあげて」
「はあ」
「うちのかみさん、輝愛ちゃんをメイクできるの、喜んでたからさ」
「・・・恐れ入ります」
この場合の『恐れ入る』は、それこそ色んな意味での『恐れ入る』な訳だ。
「まあ、あの魔女みたいな顔で乙女回路搭載されちゃってるからさ、我慢してやって」
「をとめかいろ・・・」
素面でやたら素敵指数の高い台詞を吐くあたり、やはり社長は社長だなあと、輝愛は改めて実感する。
しっかし、あたしには搭載されてなさげだなあ、をとめかいろ・・・・
思案する輝愛の腕に、魔女珠子はそれこそ嬉しそうに手を添えると、
「で?いつまでいるわけ?覗く気?着替えを?このうら若き乙女の着替えを?返答次第ではあっさり殺すわよ?」
と、嫌みったらしく目の前の男二人に言い放つ。
旦那は心得たもので、
「お前で見飽きてるからいい」
と言うが早いか、背を向けてロビーラウンジのある方向に歩き出す。
「で?ちかちゃんは?」
半眼で見据えられると、いささか寝癖の残った髪の毛をくしゃりとやると、
「心の底から遠慮致します」
と息を吐くと、「俺も着替えなきゃいけねーなあ」などと呟きつつ、紅龍が歩く後ろを面倒くさそうについて行った。
「輝愛ちゃん、べっぴんさんにしたげるからね!」
「恐れ入ります」
紙袋抱えて、お辞儀をする彼女に、すっかり母親だか姉だか気分の珠子は微笑む。
輝愛の言う「恐れ入ります」は、それこそ色んな意味での「恐れ入る」である。
室内に入り、紙袋を置くと、珠子に促された椅子に腰掛ける。
珠子は珠子で、早速千影の戦利品の物色を始めたかと思うと、ドレスをハンガーにかけ、小物類のパッケージやらをひっぺがし、鏡の傍にある小さめのテーブルに鎮座させていった。
そして、自分の荷物の中からメイクボックスを引っ張り出し、たんたんっと軽い音を立てて、小瓶などを並べていく。
「軽くパックしましょか」
「はあ」
されるがままになっている輝愛は、取り合えず前髪を七三のようにピンでとめ、額を全開にされたかと思うと、使いきりタイプの美容液パックを顔に乗せられ、会話が難しい状態にさせられる。
「時間少ないから、じっくりやってあげられないのが残念だけどね、やるとやらないとじゃ、出来が違うのよ~」
珠子は嬉しそうに微笑みながら、ジェイソン状態になった輝愛の横で、支度をしている。
その珠子をこっそり眺めつつ、輝愛は小さく気づかれないようにため息をついた。
・・・お葬式にしか、縁が無かったからなぁ・・・
彼女の両親は、彼女が2歳の頃、自動車事故で亡くなっている。
そのときの葬儀の様子は、ほとんど覚えてなどいないけれど、大好きなばあちゃんが泣いて、泣いて、泣いてたのだけは覚えてた。
そのあとちょっとして、ずっと具合の良くなかったじいちゃんが亡くなって。
それで、最後はばあちゃんだ。
結婚式には縁がなかったけれども、今までの人生でお葬式には縁があった。
『見送る側の人間』なんて、言われた事もあったっけ。
そう言う運命の人間なんだって。
それがかなりショックだったりもしたな。
結婚式って、どんな空気なんだろう・・・
「輝愛ちゃん?」
不安げな顔で覗き込まれて、はっとする。
「どしたの?具合での悪い?」
「あ、違います、ぼーっとしちゃって。大丈夫です」
「そお・・?」
「はい、これ、はじめてマスクしました。ひやひやできもちくて、寝そうになりました」
えへへへと、申し訳なそうに笑う輝愛に、珠子はそれ以上問いはしなかった。
「お化粧、しよっか。ちかちゃんがびっくりするくらい、綺麗にしちゃおうね」
微笑む珠子に、輝愛も眉尻を下げて頷いた。
■こんぺいとう5 ウェディング!! 5 ■
「おはよーござーまーす」
「はよーす」
いつもの感じで、徐々に集まってきたメンバー達。
実力派女優と、売れっ子演出家の結婚式は、さながら業界のパーティーのような顔ぶれである。
所謂一種の社交界的な要素も多く含んだこの場で、皆、個々に挨拶周りやら、久々に合う俳優仲間に近況報告やらなにやらで、忙しい。
披露宴の受付が始まり、会場に通される。
流石一流ホテルの一番良い宴会場なだけ、広さも何もかも申し分ない。
当然、報道陣やらも控えており、お呼ばれした人間達は、半分仕事のようなものでもあるのだ。
今時珍しく、中継が入る結婚式なので、その規模もでかい。
メイクと着替えを終わらせて、ようやく部屋から出た輝愛だったが、その辺り一面の、一種異様さに気おされていた。
「か・・・帰りたいんですけど」
「大丈夫よ、誰も取って食ったりしないわよ」
・・・多分ね。
へこたれる輝愛に微笑み、珠子は心の中だけで付け加える。
「最近ちかちゃん、暴走気味だものねえ。それよりも茜ちゃんも気になるところだし、まあここは安パイの大ちゃんと一緒がいいかなあ」
ぽそぽそと、輝愛の横で呟く珠子に、当の本人の輝愛は首をかしげる。
「あんぱいって、何ですか?」
「ん?安全な牌ってことよ。牌ってのは、マージャンの牌ね」
思わず苦笑しながら答えると、珠子は目ざとく、ようやくラウンジから戻ってきた旦那を見つける。
「紅ちゃーん、遅い遅ーい」
「悪い」
深紅のロングドレスに、ピンヒールを物ともせず、旦那の下へ駆け寄る珠子。
「た、たまこさーん」
慣れないヒールにふら付きつつ、輝愛も何とかその後を追う。
・・ひー、この靴走りにくいよー。
若干よろよろしつつも、チームメンバーが固まっている場所までたどり着き、挨拶をする。
「お、おはようございます」
「おはよ・・って、あれ、輝愛ちゃん?」
「うわーマジで!変わるもんだなー」
誉めているのか居ないのか、勇也と修太郎が目を見開く。
「変ですか?」
「んにゃ、かわゆいかわゆい」
「うん。可愛い」
勇也は、珍しくふわふわに巻かれておろされている輝愛の髪の毛を、珍しそうに眺め、
「そーゆーのもいいんじゃん?たまには」
「はあ、だと良いんですが」
「まあ、珠子さんがやりそうな事だよな。ってか、多分普通に男ウケよさげな予感」
修太郎は、いわゆるお嬢様テイストに仕上げられた輝愛を見て、感嘆ともなんともいい難いため息をつく。
「珠子さんのツボ、ドストライクの仕上がりだもんな」
要するに、ふりふり、ふわふわ、もこもこ。可愛いものをこよなく愛する珠子の手にかかり、輝愛も髪の毛は巻かれてふわふわ、メイクも清純お嬢様テイストに仕上げられている。
その上、普段絶対着る機会の無いような、シックなブルーグリーンのドレスに身を包んでおり、いつものジャージと、行き帰りのカジュアルなデニム姿位しか見た事のないメンバーにとっては、目の前の輝愛はある種珍しくて仕方ない出で立ちなのだ。
「お疲れ、珠子。悪いな」
「ちかちゃん、それよりどうよこの出来!このあたしの好みどんぴしゃ!可愛いでしょ可愛いでしょ!!」
紅龍より遅れて到着した千影は、珠子に声をかけるや否や、興奮気味の彼女に引っ張られる。
「ほら、輝愛ちゃん、おいで」
輝愛も珠子にひっぱられ、ヒールでよろけつつ、ついてゆく。
「ほら、どうよ。素敵でしょ?可愛いでしょ?食っちゃだめよ?」
「・・・・食うか、こんなとこで」
呆れて答える千影に、珠子はにやりといつもの悪い笑顔を浮かべ、
「こんなとこじなきゃ、食っちゃう気なのね。あらやーだー怖いこわーい」
「珠子さん、何言ってるんですか!輝愛ちゃんに失礼でしょ!」
ようやく割って入ってきた茜が、物凄い剣幕で珠子をまくし立てる。
「あらら茜ちゃん、先にご挨拶でしょ?お・は・よ・う」
「おは、おはようございマス・・」
意地悪珠子にかかっては、後輩なんぞは思うままである。
「で、輝愛ちゃん見た?どう?惚れ直したでしょ」
「お・・おかげさまで・・」
顔を赤く染めて口ごもる茜を、にやけて嬉しそうに眺める悪徳珠子。
「そんくらいで止めといてあげてくださいよ、茜くんが地味に哀れなんで」
苦笑しつつ珠子を止めに入る大輔。
チームメンバーの中で唯一の和装である。
最も、チームに所属してはいるものの、本業は日本舞踊であり、茶道やら華道やら、和に精通しているお家柄なので、紋付袴もしっくりきている。
地味に哀れと言われた山下茜は、肩につく長さの髪の毛をいつもの様に後ろで束ね、ダークグレーのスーツを着ている。
「そろそろ行くか」
社長が、まとまりそうもない団員達を眺めて肩を落とす。
このまま放って置けば、披露宴が終了するまでこのままここで何だかんだとやっていそうな勢いだったからだ。
「あ、カワハシ・・」
「ん?」
遠慮がちにかけられた声に振り向く千影。
その視線の先には、ヒールのおかげで若干いつもより背の高くなった、娘分。
「あのね、あたしお金もってきてなくて・・」
「へ?何で?金お前いらないだろ」
「でも、お祝いで包むお金・・・」
その事かとようやく的を射たりな表情をして、
「まとめて二人分包んであるから、心配すんな」
と、ふわふわ巻き毛になった娘分の頭に手を伸ばしかけて、やめた。
「?」
首をかしげる輝愛に、
「いや、せっかくのくるくる、崩れたら勿体無いしな」
そう言うと、千影はさっさと受付に向かってしまった。
「おはよーござーまーす」
「はよーす」
いつもの感じで、徐々に集まってきたメンバー達。
実力派女優と、売れっ子演出家の結婚式は、さながら業界のパーティーのような顔ぶれである。
所謂一種の社交界的な要素も多く含んだこの場で、皆、個々に挨拶周りやら、久々に合う俳優仲間に近況報告やらなにやらで、忙しい。
披露宴の受付が始まり、会場に通される。
流石一流ホテルの一番良い宴会場なだけ、広さも何もかも申し分ない。
当然、報道陣やらも控えており、お呼ばれした人間達は、半分仕事のようなものでもあるのだ。
今時珍しく、中継が入る結婚式なので、その規模もでかい。
メイクと着替えを終わらせて、ようやく部屋から出た輝愛だったが、その辺り一面の、一種異様さに気おされていた。
「か・・・帰りたいんですけど」
「大丈夫よ、誰も取って食ったりしないわよ」
・・・多分ね。
へこたれる輝愛に微笑み、珠子は心の中だけで付け加える。
「最近ちかちゃん、暴走気味だものねえ。それよりも茜ちゃんも気になるところだし、まあここは安パイの大ちゃんと一緒がいいかなあ」
ぽそぽそと、輝愛の横で呟く珠子に、当の本人の輝愛は首をかしげる。
「あんぱいって、何ですか?」
「ん?安全な牌ってことよ。牌ってのは、マージャンの牌ね」
思わず苦笑しながら答えると、珠子は目ざとく、ようやくラウンジから戻ってきた旦那を見つける。
「紅ちゃーん、遅い遅ーい」
「悪い」
深紅のロングドレスに、ピンヒールを物ともせず、旦那の下へ駆け寄る珠子。
「た、たまこさーん」
慣れないヒールにふら付きつつ、輝愛も何とかその後を追う。
・・ひー、この靴走りにくいよー。
若干よろよろしつつも、チームメンバーが固まっている場所までたどり着き、挨拶をする。
「お、おはようございます」
「おはよ・・って、あれ、輝愛ちゃん?」
「うわーマジで!変わるもんだなー」
誉めているのか居ないのか、勇也と修太郎が目を見開く。
「変ですか?」
「んにゃ、かわゆいかわゆい」
「うん。可愛い」
勇也は、珍しくふわふわに巻かれておろされている輝愛の髪の毛を、珍しそうに眺め、
「そーゆーのもいいんじゃん?たまには」
「はあ、だと良いんですが」
「まあ、珠子さんがやりそうな事だよな。ってか、多分普通に男ウケよさげな予感」
修太郎は、いわゆるお嬢様テイストに仕上げられた輝愛を見て、感嘆ともなんともいい難いため息をつく。
「珠子さんのツボ、ドストライクの仕上がりだもんな」
要するに、ふりふり、ふわふわ、もこもこ。可愛いものをこよなく愛する珠子の手にかかり、輝愛も髪の毛は巻かれてふわふわ、メイクも清純お嬢様テイストに仕上げられている。
その上、普段絶対着る機会の無いような、シックなブルーグリーンのドレスに身を包んでおり、いつものジャージと、行き帰りのカジュアルなデニム姿位しか見た事のないメンバーにとっては、目の前の輝愛はある種珍しくて仕方ない出で立ちなのだ。
「お疲れ、珠子。悪いな」
「ちかちゃん、それよりどうよこの出来!このあたしの好みどんぴしゃ!可愛いでしょ可愛いでしょ!!」
紅龍より遅れて到着した千影は、珠子に声をかけるや否や、興奮気味の彼女に引っ張られる。
「ほら、輝愛ちゃん、おいで」
輝愛も珠子にひっぱられ、ヒールでよろけつつ、ついてゆく。
「ほら、どうよ。素敵でしょ?可愛いでしょ?食っちゃだめよ?」
「・・・・食うか、こんなとこで」
呆れて答える千影に、珠子はにやりといつもの悪い笑顔を浮かべ、
「こんなとこじなきゃ、食っちゃう気なのね。あらやーだー怖いこわーい」
「珠子さん、何言ってるんですか!輝愛ちゃんに失礼でしょ!」
ようやく割って入ってきた茜が、物凄い剣幕で珠子をまくし立てる。
「あらら茜ちゃん、先にご挨拶でしょ?お・は・よ・う」
「おは、おはようございマス・・」
意地悪珠子にかかっては、後輩なんぞは思うままである。
「で、輝愛ちゃん見た?どう?惚れ直したでしょ」
「お・・おかげさまで・・」
顔を赤く染めて口ごもる茜を、にやけて嬉しそうに眺める悪徳珠子。
「そんくらいで止めといてあげてくださいよ、茜くんが地味に哀れなんで」
苦笑しつつ珠子を止めに入る大輔。
チームメンバーの中で唯一の和装である。
最も、チームに所属してはいるものの、本業は日本舞踊であり、茶道やら華道やら、和に精通しているお家柄なので、紋付袴もしっくりきている。
地味に哀れと言われた山下茜は、肩につく長さの髪の毛をいつもの様に後ろで束ね、ダークグレーのスーツを着ている。
「そろそろ行くか」
社長が、まとまりそうもない団員達を眺めて肩を落とす。
このまま放って置けば、披露宴が終了するまでこのままここで何だかんだとやっていそうな勢いだったからだ。
「あ、カワハシ・・」
「ん?」
遠慮がちにかけられた声に振り向く千影。
その視線の先には、ヒールのおかげで若干いつもより背の高くなった、娘分。
「あのね、あたしお金もってきてなくて・・」
「へ?何で?金お前いらないだろ」
「でも、お祝いで包むお金・・・」
その事かとようやく的を射たりな表情をして、
「まとめて二人分包んであるから、心配すんな」
と、ふわふわ巻き毛になった娘分の頭に手を伸ばしかけて、やめた。
「?」
首をかしげる輝愛に、
「いや、せっかくのくるくる、崩れたら勿体無いしな」
そう言うと、千影はさっさと受付に向かってしまった。
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