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桃屋の創作テキスト置き場
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■こんぺいとう5  ウェディング!! 2 ■





「はいはいもしもし・・あら、ちかちゃん?」
「そうそう、俺俺」
 二回目のコールが鳴り終わらないうちに、珠子の声が電話口から聞こえてくる。
 早々に出てくれて感謝するが、それでも彼にはその2コールすら長く感じた。

「どしたのちかちゃん。まだ披露宴まで時間あるでしょ?」
「その事で相談、もとい頼みが」

 業界関係者が多く招待されており、チーム全員強制参加と来れば、当然、珠子も出席者である。

「どしたの?えらく焦り気味じゃない?珍しい事」
「面倒くさいから率直に言う。悪い、化粧してやってくれ」
 輝愛の腕を掴みつつ、かばんを引っ掛けた方の手で携帯を握り、殆どダッシュしながら、彼は彼の姉貴分に懇願する。

「・・・・・・やぁだ、ちかちゃんに化粧したら気持ち悪いじゃない」
「ちっがーーう!!」

 思わず急ぎまくってるのを忘れ、立ち止まって携帯に向かって怒鳴る。
「なによーぅ、おこんないでよー」
 電話の向こうで、むすくたれてる声が聞こえるが、余裕の無い千影に取っては、それこそ取るに足らない事だ。

「俺じゃねえ。トーイだトーイ」
「輝愛ちゃん?いいけど、なんで?」

 千影は事の次第を珠子に即効で告げる。
 勿論、先ほど止まった足も、今は駐車場に向かって動いている。
「おっけ、そーゆー事なら了解よ。会場のメイクルームでやったげる」
「悪い、今度なんか奢るわ」
 車の後部座席にかばんをぶち込み、助手席に娘分を投げ入れて、自分も運転席に乗り込む。

「ドレスも貸そうか?枚数ならあるわよ?」
 有り難い珠子の申し出に、しかし千影は一瞬の逡巡する隙もなく、
「だめ!」
「あら、なんでよ?」
 問いかける珠子に、一瞬目線を隣に座っている輝愛に向けた後、
「お前のじゃ、露出高すぎ。以上!」
 言うだけ言って、とっとと電源ボタンを押して、通話を終了させてしまう。
 そして大急ぎでエンジンをかけ、車を発進させた。


「・・・・くっくっく」
 珠子は、通話の終わった携帯を握り締めたまま、お気に入りのクッションを抱きかかえた状態で、腹を抱えて笑っていた。
「聞いてるこっちが、恥ずかしいわ」
 あのちかちゃんが、あんなに言うなんてねえ。
 自分よりも大分大きく成長してしまった弟分の、珍しくも初々しい姿に、目を細める。
「すっかり父親の意見だったけど、それ以外の主観も強そうね」
『露出が多いから、だめ』だなんて、今までの千影からは想像もできない台詞だった。
 珠子は立ち上がって、一つ伸びをする。
 メイクボックスに、自分用に用意したもの以外に、必要なものを追加して、微笑んだ。
「変わってきたんじゃない?それも、かなりいい方向に、ね」
「何がだ?」
「んーん、何でもないわ」
 妻のおかしな行動には慣れ親しんでいる夫紅龍だが、普段より嬉しそうな彼女に微笑みながら問いかける。
 彼女も、笑顔のままで答える。
「ただね、ちょっと微笑ましかったのよ」
 そう言うと、ああ、と的を居たりな表情になった紅龍は、手にしていたマグカップのコーヒーを一口すすりながら、

「ちかの奴か」
「そゆこと」

 もう一つのマグカップを、目に涙を浮かべて笑う妻に渡すと、夫は若干懐かしそうな口調で、
「あいつも、まーあ、青くなっちゃって」
 その台詞に、愛しい夫に淹れてもらったコーヒーを飲みながら、妻はまたひとしきり笑った。
「ここは一つ、お姉ちゃんが磨いてあげなきゃね」

 ―――ちかちゃんがびっくりして、惚れ直すくらいに、ね。

 そう心の中だけで呟いて、夫に寄りかかって、また笑った。





「あのぅ・・」

 助手席に投げ込まれ、何も理解出来ていないままの娘分は、シートベルト握り締めながら、情けない声を出す。
「一体全体、何がなにやら・・・」
 横でハンドルを握る千影は、ようやく一息ついたのか、信号で止まった際に、例の招待状を彼女に手渡す。
「読んでみ」
「えっと」
 受け取って、中身を読む。
 そこにはごくありふれた、結婚式のお誘いの文章。
 別段、特に変わったところは無い。
 直筆のメッセージだって、ちょっとマメな人間だったら、やってもおかしくは無い。
 ただ、読み進めたその内容が、普通のそれとは、若干、かけ離れ気味だったりもするのだが。

『千影君、元気?この度、残念な事に結婚する事になっちまいました。で、前々から見せろって言ってた、お宅の娘、絶対連れて来いよ?
 10代のぴちぴちなんだろ?お披露目しろよな。このメッセージを無視すると、この先の千影君のお仕事に多大な影響を与える事になっちゃうぞ☆(うけけ)』

『川ちゃんお久しぶり!馬鹿旦那がごめんね!でも私もかわいい女の子見たいので、是非つれて来なさい~♪連れて来ないと、嫌がらせしちゃうぞ!じゃあね』

「・・・・・・・・・えーっと」
「読んだだろ?」
「はあ、一応」
 しかし、なんともテンションの高い文章である。
 新郎は40ちょい前、新婦も30代真ん中だと言っていたので、お互い大分、元気な人なんだろうか。
「これ、ただのギャグとかじゃない?別にあたしがいなくても・・」
「甘い!!!」
 彼女の言葉を遮って、千影は眉間にしわを寄せて、頬に冷や汗垂れ流しつつ、ハンドルを力一杯握り締める。
「アイツ・・あの先輩は、あの珠子も足元にも及ばないレベルでの恐ろしさ・・・しかも嫁になるやつもやつで、一緒になって後輩をいびるのが大好きっちゅー、最悪なやつらなんだ」
 なんか、すごいことになってるなあ・・
 と思いつつ、千影のこんな焦って、もしくは若干脅えている姿なんぞ見るのは初めてで、輝愛は場違いになんだかちょっと嬉しかった。
「なので」
 気を取り直したように千影は言葉を続ける。
「俺はまだまだ死にたくないし、食いっぱぐれるのも勘弁なんで、頼むぞ、トーイ」
「うえ・うえええええ!?」
 彼は、華麗にハンドルをさばきながら、
「恥かくわけにも、かかせる訳にもいかん。ってことで」
「ってことで・・・・?」
 いつになく真剣な目の千影に、輝愛は身を引いて引きつった顔で答える。

「お前を、いい女にせにゃならん」

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