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桃屋の創作テキスト置き場
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■こんぺいとう5  ウェディング!! 3 ■




 フィッティングルームの前で、千影は頭を抱えていた。

「・・・・・・・・お前さあ」
「はい~」

 呼ばれた輝愛も、疲れたような声である。
 もう既に、何着目の試着だろうか。
 輝愛としては、状況もよく分からず、出来ればとっとと終わらせるか、どちらかと言うとなかったことにして、帰りたいくらいなのだが。
 しかし、フィッティングルームの前で待機する、千影のOKが出ないのだ。
「これなんぞいかが」
 なかば投げやり気味に、カーテンをシャッ、と開く。
「お前、スカートにあわねぇなあ」
「そんなしみじみ言われても」
 半眼で言う彼に、そこまで言われると、若干悲しくなってくるのだが。
「大体、似合わないのばっかり選びすぎ」
 と、彼女が適当に選んで試着し、没になった洋服の山を見た。
「だって、スカートなんて、中学の制服でしか着た事ないし・・・」
 しょんぼりうなだれる輝愛。
 実際なら、高校に通っている年齢ではあるが、千影と出会う前の彼女は、経済的に進学を選ぶ余裕はなかった。
 高校で制服着てたら、多少はスカートに抵抗感ないかも知れないけど。
 心の中で、ちょっぴり愚痴を零してみたり。

「トーイね、セットアップ似合わねぇな」
「結婚式のお洋服なんか、分かんないよー。いかなくてもいいでしょー」
「だめ。俺が殺される。火あぶりもしくは八つ裂きで」
「うえええ」

 二人が、はたから見ると漫才の様な会話を交わしていると、
 店員が見かねたのか、声をかける。
「いかがですか?」
「いかがもなんも、だめだそうです」
 答える輝愛に、千影は悪びれもせず、
「だって似合わねーんだもん」
 店員も苦笑して、
「お肌の色と、お洋服が合ってないご様子でしたので、何着かお持ちしましたよ。あと、お客様の雰囲気ですと、セットアップよりも、こういった感じのものがお似合いになるんじゃないかしら」

 千影とおよそ同い年くらいに見える店員の女性は、にっこりと微笑んで、千影にピックアップして来た洋服を差し出す。
 どうやら、先ほどからの二人の会話を聞いて、気を利かせてくれたらしい。
「を、これ着て」
 渡されたドレスの中から、千影が気に入ったらしい一枚を抜き取る。
「ひ!こんな高いの無理!」
 断ろうと、青ざめて店員に差し出すが、千影は聞いていない。
「こちらはお色もシックで上品ですし、ラインも綺麗に出ますよ。お素材も上質なものですし、なにより、お似合いになると思いますけど」
「だそうだ。お似合いになるそうだから、取り合えず着ろ」
「ででででも」

 一枚の、ブルーグリーンのドレスを渡されて、冷や汗をたらす輝愛。


 ・・・・やだよーこんな高いの。払えないよー・・・


「五月蝿い。早くしろ。時間がねえ。それとも」
 千影は半眼になって凄むと、輝愛にぐっと顔を近付けて、
「一人で出来ないなら脱がせてやるけど?どうする?」
「ひ、一人で出来ます!!!」
 千影の据わった目を本気と取ったのか、青くなったまま大急ぎでカーテンを閉める輝愛。
 彼の横では、店員がくすくす笑っている。
「可愛らしい恋人さんですね」
「だといいんですけどね」
 と、肩を落として苦笑する。
 お洋服に合う小物もお持ちしましょうか
 と言う店員の言葉を二つ返事で承諾し、
 バックと靴、アクセサリーを一式頼む。
 しばらくすると、目の前のカーテンがおずおずと開かれた。
「無理です隊長」
「なんだ隊長って。いいから首から下見せろ」
 カーテンから首だけを出して、泣きそうになっている娘分に、情け容赦ない父親分。
「だから無理ですってば!こんなの恥ずかしい!死ねる!」
「死んでも生き返らせてやるから見せろ」
「ひどーい」
 半泣きの彼女を無視して、千影はカーテンを開ける。
 一瞬、言葉が出なかった。
「とてもお似合いですよ」
 店員の言葉で、はっと我に返り、
「さっきのより、大分マシ」
 と頷いた。
「ミニスカートいや・・はずかしい・・」
 半べそになりながら、ドレスの裾を押さえる娘を無視して、千影は店員に向き直り、何か話している。
 輝愛は観念した様に、今着てきた自分の服に着替えるため、本日何回目か分からないくらい開け閉めしたカーテンを、再び閉めた。


 娘分が着替えをしている間に、千影は店員が用意してくれた小物類すべてを合わせて、とっとと会計を済ませた。
 さすがはデザイナーズブランド。頭の先から足の先まで一箇所で揃ったのは有り難い。
 ようやく腕時計に目をやると、時間は何とか間に合いそうだった。

「お待たせ致しました」
「どーもー」
 微笑みながら、かなり大きなショッパーを渡された千影は、フィッティングルームから出てきた輝愛を引っつかんで、すたすたと店を出て行く。
「あうー、カワハシー」
「ん?どした?」
 殆ど抱えられている状態の輝愛は、なぜかその異様に大きな紙袋を見て、
「・・・・何故にそんなに大きいの・・・そして全部でいくらだったの・・・」
「は?何で?」
 きょとんとする彼に、彼女は脅えたように肩をすくませて、
「だって、袋が絶対大きいんだもん・・・」
「ああ、だって一式頭から足まで買ったし」
「全部・・・・・・・・・・」
 意識が軽く遠のく位の金額になっていることは明白で、輝愛は青ざめる。

 ・・・・だって、ドレス一枚であの値段だよ・・?全部って、なにそれいくらたすけて・・・

「ぜんぶでいくらだったの?分割払いとかでいい?一括じゃあたし払えないよぅ・・・」
「値段聞くと、お前泣くかも知んないから、やめとけ」
「ひー」
 既に半分以上泣いている娘分を抱えたまま、再び助手席に放り込んで、一路、珠子が待つホテルを目指す。
 助手席で死に掛けている娘分に、シートベルトをしてやりながら、
「気にするな。お前の為じゃなくて、ほぼ俺のためなんだから」
「でも、着るのはあたしでしょ?」
 不安そうに上目遣いで問い返す。
 その仕草が妙に子供っぽくて、千影は苦笑する。
「じゃあ、貢物ってことで」
「はあ?」
「買ってやるって、言ってんの」
 エンジンをかけ、駐車場から出ようと、バックミラーとサイドミラーを交互に目で追う千影に、輝愛は首をかしげる。
「なんで?」
「んー、なんでって言われてもなぁ。必要だし」
「でも・・」
 
 買ってもらう理由なんて、ないのに。
 
 そう一人呟いて、シートベルトを握り締める。
 その様子を見て、再び苦笑して、彼は左手で優しく彼女の髪の毛を撫でた。
「案外似合うかも知れんぞ」
「まっさか」
 答えてため息つく彼女に、心の中だけで言葉を紡ぐ。
 必要なのは最もだけど、それ以上に俺が買ってやりたかったんだよ。
 だってたまには見たいじゃないか、可愛い娘分の、可愛い姿。

 口が裂けても、本人には言えないけど。

 未だに妙に遠慮深すぎるこの年頃の娘は、こんな事でもない限り、自分からの贈り物を受け取りはしないかも知れないから。
 だとしたら、それを理由に、今までの分ちょっとまとめてしまったって、悪くは無いだろ?
「要するに、俺のためな訳だ」
 そう呟きながら、アクセルを踏んだ。


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