桃屋の創作テキスト置き場
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■innocence ―癸― ■
ぶっちゃけます。
昨日、シリウスが暴走しやがりました。
一応止めてあげようと思って、どたまを一発ゲンコでぼこ殴ったら、あっさり気絶しちゃいました。
全く、迷惑な話よね。
以上、報告終了。
ってな訳で、あれからしばらく経過しても、あたし達は平和で平平凡凡な日常を送っているのだ。
それが良い悪いに関わらず、ね。
「・・・・・後ろ頭がズキズキするんですけど」
「あらやだ偏頭痛?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
青い顔したシリウスが、あたしの必殺技『全部無かった事にしよう』作戦に負け、不満そうに口をつぐむ。
そしてそのまま、普通ならあたしの耳には届かないような小さな声でポツリと呟く。
「狂暴凶悪ドドンパ娘」
「なあんですってえ!?」
常人には聞こえないだろうボリュームでも、いかんせんエルフ並に耳の出来が宜しいあたしには聞こえてしまう。
しかも最後のドドンパ娘って何よ、ドドンパ娘って!
叫びついでに軽く本気で張り手をかましておく。
軽くなのに本気とゆーとこに突っ込みとか入れないでね。あたし機嫌悪いから。
それでシリウスはぶっさいくな顔ながらも、今度こそ本当に口をつぐんだ。
全く、どっちにしろ世話のかかる。
「その程度で済んだんだから、むしろ感謝して然るべきだとあたしは思う訳よ」
あたしは偉そうに両手を腰にやって、『ふふん』とやってみせるが、タッパのある彼の横ではどうも様にならない。
「そりゃそうかも知れないけど、もう少し愛があっても…」
「愛なんて無い」
はっきりきっぱり気持良いくらい言い切ったあたしの台詞に、シリウスは本気でちょっと涙目になる。
でも放置。
いちいち付き合ってらんないわよ、全く。
昨日の事だ。
彼の風貌もあって、あたし達は人目につきにくい山道を進んでいた。
行き先は、魔導に関する資料で揃わない物は無いと言われているくらい魔導関係のもろもろが充実している国、このイエスティア大陸の南に大きな領地を抱えるトルメディナ帝国。
で、そのトルメディナ帝国を目指しながら、不本意ながら山道を。
まっすぐ街道を行けば楽チンなのだが、そこはそれ、事情が事情なので致し方ない。
夜になり、より一層深さを増した様に感じられる森の中で、あたしは火の番をしていた。
そこで事もあろうに、いきなり襲われたのだ。
人の手の入っていない森の中で、野良デーモンに遭遇する確率はそう低くはない。
だが、明らかに自分を標的とした暗殺者集団に襲われる確率は、全うに生きていればそれこそ皆無である。
なのに、あたしは襲われた。
自慢じゃないがあたしは人の道に外れる様な事はしていない。
一回もない。
ないったらない。
あたしはあたしなりに全て合理的かつ人道的に生きているつもりなのだ。
・・・・・・異論はさておき。
暗殺者集団はなかなかの使い手だったらしく、あたしは追い詰められていた。
普段なら大技一発でジ・エンドなのだが、木だらけのこんな場所で大技なんぞ出したら、一緒にあたしもオダブツである。
そんなこんなで苦戦していると、彼が―――
「ローディア?」
一気に思考の波から引き戻される。
「どうした?」
見上げると、もはや見慣れてしまった彼の顔があった。
「なんでもないわ」
あたしは笑みを作りながら答える。
一つ伸びをして、山中の清々しい空気で肺をいっぱいにする。
今夜も星が綺麗に見えるだろうか。
昨日の晩の様に―――。
昨日、彼は。
彼は。
暗殺者に襲われて危険な状態のあたしを見て。
―――自我を失った―――
少なくとも、あたしには、あたしの目にはそう映ったのは間違いなかった。
狂った様に奴らに襲いかかって行き、あっと言う間、本当にあっと言う間で、
敵は全滅した。
文字通りの全滅である。
息のある者は、誰一人としていなかったのだから―――
「僕はさ」
彼が黙りこくったあたしを気にする様に声をかける。
「何故この『白』が良くないモノとされているのか、実際は良く知らないんだ」
人気の無い山中、彼はずっとフードを外したまま、その長く綺麗な真白い頭髪を風にたなびかせている。
「誰も理由を教えてくれなかった。父であった人も、母であった人も」
一房髪の毛を掴んで眺め、
「一体何がいけないのかな?どう思う?ローディア」
苦笑した様に問掛けてくる。
あたしにはそれが、『どうして生きていてはいけないんだと思う?』と聞かれた様な気がして、言葉をつかえさせてしまった。
「僕の存在そのものが、僕以外の人間の脅威になるんだよね。だったらいっそ」
哀しそうに、でもどこか安心したように目をすがめて、
「消えてしまえば良いのかな?どうなんだろう」
一向に言葉を返さなかったあたしを責めるでもなく、自分の考えを唇に乗せるかの様にとつとつと語る。
しかし、
「消えるなんて出来ないわよ。出来るのは、せいぜい死ぬ事くらい」
「…え?」
唐突に話に参加したあたしに対してではなく、恐らく言葉の意味を図りかねてだろう。
一瞬歩みを止めて振り返る。
「消えるってのは、存在そのものが無かった事になるって事じゃない?あたしの中のあなたも、消えてしまうって事でしょう?そんなの無理よ」
彼は黙ってあたしの次の台詞を待っている。
「人間に出来るのは、せいぜい自分から『死ぬ』事くらいなもんよ。『消える』なんて芸当、出来っこないんだから。だって、今現在此処に貴方と言う存在は『在る』でしょう?だから、よ」
「そんなもんかな、人間なんて」
「そんなもんよ、人間なんて」
「ローディアがそう言うなら、そうなのかも知れないな」
何故か少し満足そうに言う。あたしはわざと眉を跳ね上げて、
「あんたちょっとは自分の意見とか無い訳?そんなんだとそのうちどっかに売り飛ばされちゃうかもよ?」
「あはは」
「あははじゃないっつーの」
努めて明るく返すあたしに、本気で笑っている彼。
ああ、出来れば彼に時間がありますように。
少しでも長く、彼に平和がありますようにと、密かに願った。
刹那―
辺り一帯に言い知れぬ「気」が充満した。
「・・・何よ、これ・・・」
「さあ・・敵意がある様には、感じられないけど・・」
あたし達は打ち合わせも無いままに、自然と背中合わせになる。
そしてそのまま神経を張り巡らせ、この如何とも言い難い気配を探る。
シリウスが「敵ではない」と言ったのは、こんなあからさまに気配を駄々漏れさせているからである。
こんな森の中、敵であるならば気配を殺して近づくのが得策だからだ。
しかし――
「シリウス、あんた一体何したの?」
「僕のせいな訳?どっちかって言うと普段の素行からして君のせいじゃ・・」
「うっさいわね!あたしは自分自身に対しては清く正しく誠実に生きているつもりよ!」
「んな無茶苦茶な・・」
「しいっ!」
いつもの様に始まってしまった漫才を無理矢理遮断する。
あたしは静かに腰に差したロングソードを抜き放ち、右手に力を籠める。
――かちゃり
と、ロングソードが僅かに鍔鳴りした瞬間――
「みっつけた!」
聞き覚えの無い男の声と共に、疾風が吹き荒ぶ。
地面に散っていた落ち葉が舞い上がり、丁度煙幕の様な状態になる。
「何!?」
「!?」
シリウスが無言のままマントであたしを庇う。
尋常ではない風である。
彼のマントは、風の刃でさっくりと切れてしまっていた。
なるほど。カマイタチみたいなもんである。
「――一体何の用よ!?」
諸悪の根源、迷惑の源。
あたしは目の前に姿を丸出しにしたまま、こちらを見つめる一人の男に声をかける。
「いきなり随分な歓迎じゃない?一体このあたしの何の用?それともこの横の男に用があるの?だとしたらコイツは差し上げるから。あたしは関係ないでしょ。さよーならー」
捲くし立てる様に一気に言い放ち、生贄羊に見事就任なさったシリウスが唖然と、例の迷惑男が理解に苦しんでいる隙に、とっととトンズラここうと走り出そうとして、
ざしゅ!
「――待ってもらえると嬉しいなぁ、彼女」
例のカマイタチで、再び地面にさっくりと見事な切れ口を作って、あたしの足を食い止める。
「君、名前は?」
あたしは目の前の男から目を離さずに、気を膨れ上がらせたままで。
「レディに名前を尋ねる時は、自分が先に名乗るモンよ。それとも、名乗れないようなお名前なのかしら!?」
「これは失礼」
あたしはその男を始めてまじまじと眺める。
年の頃なら十代後半から二十代前半にかけて、と言った所だろうか。
やや細身で、背もそこそこと言った所である。恐らく、シリウスよりいくらか小さい位だろう。
水色がかった短髪に、あまり見ることの無い形の鎧の様な物。腰にはこれまた見慣れぬ形の剣が一振り。
腰に巻いた布をたなびかせて、いたずら小僧の様な顔でこちらを眺めている。
男はぽきっ、と指を鳴らして、
「申し遅れまして、私、流れの無宿者にございます。ケイニード・ヴォルフェウスと申します」
ぴっ、と姿勢を正し、素人目にも分かる様な優雅な仕草で、紳士が淑女にそうするように礼をする。
あらあら、がきんちょっぽいのは見た目だけかしらと思った瞬間、
「ケインって呼んでね♪」
などとのたまい、おまけに不器用なウィンクまでくれる始末である。
・・・・・前言撤回・・・・・
あたしは仕草とキャラのギャップに、どうしたもんかと頭をかいたのだった。
そこで彼、ケインが一足飛びであたしに近づき、
「な!?」
「それと」
抗議の声を上げる暇も有らばこそ。
あたしはケインに無理矢理腰を抱かれ、至近距離で顔と顔を対峙させるハメになる。
彼はつり目気味の瞳を細め、真剣な色を含んで、あたしの耳元で囁いた。
「あの彼は、『白銀』でしょ?」
あたしは目を見開いて、彼を見つめ返した。
急ぎ印を結ぼうとしたが、口を押さえつけられてしまいそれもまま。ならない
「心配しないで」
にっこりと笑って、あたしの口を開放する。
ケインはあたしとシリウスの間で、双方の顔を眺めた後、さも偉そうに言い放った。
「お初に目にかかります。ケイニード・ヴォルフェウス、又の名を『癸』」
あたしとシリウスの視線が、一気に彼に注がれる。
「流れ行く者を見届ける者、とか言い方は色々あるらしいけどね。ま、そーゆー事です。宜しく、『白銀』、そして――」
そこで一回言葉を切り、あたしをひたと見つめ、
「白銀の巫女」
そう言って、また笑った。
あたしは、軽い眩暈を覚えた。
ぶっちゃけます。
昨日、シリウスが暴走しやがりました。
一応止めてあげようと思って、どたまを一発ゲンコでぼこ殴ったら、あっさり気絶しちゃいました。
全く、迷惑な話よね。
以上、報告終了。
ってな訳で、あれからしばらく経過しても、あたし達は平和で平平凡凡な日常を送っているのだ。
それが良い悪いに関わらず、ね。
「・・・・・後ろ頭がズキズキするんですけど」
「あらやだ偏頭痛?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
青い顔したシリウスが、あたしの必殺技『全部無かった事にしよう』作戦に負け、不満そうに口をつぐむ。
そしてそのまま、普通ならあたしの耳には届かないような小さな声でポツリと呟く。
「狂暴凶悪ドドンパ娘」
「なあんですってえ!?」
常人には聞こえないだろうボリュームでも、いかんせんエルフ並に耳の出来が宜しいあたしには聞こえてしまう。
しかも最後のドドンパ娘って何よ、ドドンパ娘って!
叫びついでに軽く本気で張り手をかましておく。
軽くなのに本気とゆーとこに突っ込みとか入れないでね。あたし機嫌悪いから。
それでシリウスはぶっさいくな顔ながらも、今度こそ本当に口をつぐんだ。
全く、どっちにしろ世話のかかる。
「その程度で済んだんだから、むしろ感謝して然るべきだとあたしは思う訳よ」
あたしは偉そうに両手を腰にやって、『ふふん』とやってみせるが、タッパのある彼の横ではどうも様にならない。
「そりゃそうかも知れないけど、もう少し愛があっても…」
「愛なんて無い」
はっきりきっぱり気持良いくらい言い切ったあたしの台詞に、シリウスは本気でちょっと涙目になる。
でも放置。
いちいち付き合ってらんないわよ、全く。
昨日の事だ。
彼の風貌もあって、あたし達は人目につきにくい山道を進んでいた。
行き先は、魔導に関する資料で揃わない物は無いと言われているくらい魔導関係のもろもろが充実している国、このイエスティア大陸の南に大きな領地を抱えるトルメディナ帝国。
で、そのトルメディナ帝国を目指しながら、不本意ながら山道を。
まっすぐ街道を行けば楽チンなのだが、そこはそれ、事情が事情なので致し方ない。
夜になり、より一層深さを増した様に感じられる森の中で、あたしは火の番をしていた。
そこで事もあろうに、いきなり襲われたのだ。
人の手の入っていない森の中で、野良デーモンに遭遇する確率はそう低くはない。
だが、明らかに自分を標的とした暗殺者集団に襲われる確率は、全うに生きていればそれこそ皆無である。
なのに、あたしは襲われた。
自慢じゃないがあたしは人の道に外れる様な事はしていない。
一回もない。
ないったらない。
あたしはあたしなりに全て合理的かつ人道的に生きているつもりなのだ。
・・・・・・異論はさておき。
暗殺者集団はなかなかの使い手だったらしく、あたしは追い詰められていた。
普段なら大技一発でジ・エンドなのだが、木だらけのこんな場所で大技なんぞ出したら、一緒にあたしもオダブツである。
そんなこんなで苦戦していると、彼が―――
「ローディア?」
一気に思考の波から引き戻される。
「どうした?」
見上げると、もはや見慣れてしまった彼の顔があった。
「なんでもないわ」
あたしは笑みを作りながら答える。
一つ伸びをして、山中の清々しい空気で肺をいっぱいにする。
今夜も星が綺麗に見えるだろうか。
昨日の晩の様に―――。
昨日、彼は。
彼は。
暗殺者に襲われて危険な状態のあたしを見て。
―――自我を失った―――
少なくとも、あたしには、あたしの目にはそう映ったのは間違いなかった。
狂った様に奴らに襲いかかって行き、あっと言う間、本当にあっと言う間で、
敵は全滅した。
文字通りの全滅である。
息のある者は、誰一人としていなかったのだから―――
「僕はさ」
彼が黙りこくったあたしを気にする様に声をかける。
「何故この『白』が良くないモノとされているのか、実際は良く知らないんだ」
人気の無い山中、彼はずっとフードを外したまま、その長く綺麗な真白い頭髪を風にたなびかせている。
「誰も理由を教えてくれなかった。父であった人も、母であった人も」
一房髪の毛を掴んで眺め、
「一体何がいけないのかな?どう思う?ローディア」
苦笑した様に問掛けてくる。
あたしにはそれが、『どうして生きていてはいけないんだと思う?』と聞かれた様な気がして、言葉をつかえさせてしまった。
「僕の存在そのものが、僕以外の人間の脅威になるんだよね。だったらいっそ」
哀しそうに、でもどこか安心したように目をすがめて、
「消えてしまえば良いのかな?どうなんだろう」
一向に言葉を返さなかったあたしを責めるでもなく、自分の考えを唇に乗せるかの様にとつとつと語る。
しかし、
「消えるなんて出来ないわよ。出来るのは、せいぜい死ぬ事くらい」
「…え?」
唐突に話に参加したあたしに対してではなく、恐らく言葉の意味を図りかねてだろう。
一瞬歩みを止めて振り返る。
「消えるってのは、存在そのものが無かった事になるって事じゃない?あたしの中のあなたも、消えてしまうって事でしょう?そんなの無理よ」
彼は黙ってあたしの次の台詞を待っている。
「人間に出来るのは、せいぜい自分から『死ぬ』事くらいなもんよ。『消える』なんて芸当、出来っこないんだから。だって、今現在此処に貴方と言う存在は『在る』でしょう?だから、よ」
「そんなもんかな、人間なんて」
「そんなもんよ、人間なんて」
「ローディアがそう言うなら、そうなのかも知れないな」
何故か少し満足そうに言う。あたしはわざと眉を跳ね上げて、
「あんたちょっとは自分の意見とか無い訳?そんなんだとそのうちどっかに売り飛ばされちゃうかもよ?」
「あはは」
「あははじゃないっつーの」
努めて明るく返すあたしに、本気で笑っている彼。
ああ、出来れば彼に時間がありますように。
少しでも長く、彼に平和がありますようにと、密かに願った。
刹那―
辺り一帯に言い知れぬ「気」が充満した。
「・・・何よ、これ・・・」
「さあ・・敵意がある様には、感じられないけど・・」
あたし達は打ち合わせも無いままに、自然と背中合わせになる。
そしてそのまま神経を張り巡らせ、この如何とも言い難い気配を探る。
シリウスが「敵ではない」と言ったのは、こんなあからさまに気配を駄々漏れさせているからである。
こんな森の中、敵であるならば気配を殺して近づくのが得策だからだ。
しかし――
「シリウス、あんた一体何したの?」
「僕のせいな訳?どっちかって言うと普段の素行からして君のせいじゃ・・」
「うっさいわね!あたしは自分自身に対しては清く正しく誠実に生きているつもりよ!」
「んな無茶苦茶な・・」
「しいっ!」
いつもの様に始まってしまった漫才を無理矢理遮断する。
あたしは静かに腰に差したロングソードを抜き放ち、右手に力を籠める。
――かちゃり
と、ロングソードが僅かに鍔鳴りした瞬間――
「みっつけた!」
聞き覚えの無い男の声と共に、疾風が吹き荒ぶ。
地面に散っていた落ち葉が舞い上がり、丁度煙幕の様な状態になる。
「何!?」
「!?」
シリウスが無言のままマントであたしを庇う。
尋常ではない風である。
彼のマントは、風の刃でさっくりと切れてしまっていた。
なるほど。カマイタチみたいなもんである。
「――一体何の用よ!?」
諸悪の根源、迷惑の源。
あたしは目の前に姿を丸出しにしたまま、こちらを見つめる一人の男に声をかける。
「いきなり随分な歓迎じゃない?一体このあたしの何の用?それともこの横の男に用があるの?だとしたらコイツは差し上げるから。あたしは関係ないでしょ。さよーならー」
捲くし立てる様に一気に言い放ち、生贄羊に見事就任なさったシリウスが唖然と、例の迷惑男が理解に苦しんでいる隙に、とっととトンズラここうと走り出そうとして、
ざしゅ!
「――待ってもらえると嬉しいなぁ、彼女」
例のカマイタチで、再び地面にさっくりと見事な切れ口を作って、あたしの足を食い止める。
「君、名前は?」
あたしは目の前の男から目を離さずに、気を膨れ上がらせたままで。
「レディに名前を尋ねる時は、自分が先に名乗るモンよ。それとも、名乗れないようなお名前なのかしら!?」
「これは失礼」
あたしはその男を始めてまじまじと眺める。
年の頃なら十代後半から二十代前半にかけて、と言った所だろうか。
やや細身で、背もそこそこと言った所である。恐らく、シリウスよりいくらか小さい位だろう。
水色がかった短髪に、あまり見ることの無い形の鎧の様な物。腰にはこれまた見慣れぬ形の剣が一振り。
腰に巻いた布をたなびかせて、いたずら小僧の様な顔でこちらを眺めている。
男はぽきっ、と指を鳴らして、
「申し遅れまして、私、流れの無宿者にございます。ケイニード・ヴォルフェウスと申します」
ぴっ、と姿勢を正し、素人目にも分かる様な優雅な仕草で、紳士が淑女にそうするように礼をする。
あらあら、がきんちょっぽいのは見た目だけかしらと思った瞬間、
「ケインって呼んでね♪」
などとのたまい、おまけに不器用なウィンクまでくれる始末である。
・・・・・前言撤回・・・・・
あたしは仕草とキャラのギャップに、どうしたもんかと頭をかいたのだった。
そこで彼、ケインが一足飛びであたしに近づき、
「な!?」
「それと」
抗議の声を上げる暇も有らばこそ。
あたしはケインに無理矢理腰を抱かれ、至近距離で顔と顔を対峙させるハメになる。
彼はつり目気味の瞳を細め、真剣な色を含んで、あたしの耳元で囁いた。
「あの彼は、『白銀』でしょ?」
あたしは目を見開いて、彼を見つめ返した。
急ぎ印を結ぼうとしたが、口を押さえつけられてしまいそれもまま。ならない
「心配しないで」
にっこりと笑って、あたしの口を開放する。
ケインはあたしとシリウスの間で、双方の顔を眺めた後、さも偉そうに言い放った。
「お初に目にかかります。ケイニード・ヴォルフェウス、又の名を『癸』」
あたしとシリウスの視線が、一気に彼に注がれる。
「流れ行く者を見届ける者、とか言い方は色々あるらしいけどね。ま、そーゆー事です。宜しく、『白銀』、そして――」
そこで一回言葉を切り、あたしをひたと見つめ、
「白銀の巫女」
そう言って、また笑った。
あたしは、軽い眩暈を覚えた。
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