桃屋の創作テキスト置き場
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■BGM 2 ー愛し子の 墓辺吹く風 静かなれー 7■
・・・・ごろん。
・・・・ごろごろ。
・・・・じたばた。
「眠れん」
俺はいよいよベッドの上でもがくのを諦め、半ばほどけかかったみつあみをほどきながらうめいた。
酒も心地良く回って、ほろ酔い加減も絶妙で、しかも頬は緩みっぱなしで。
そのまま布団に倒れ込めば、いつもならばものの数分と持たずに深い眠りに吸い込まれて行く筈なのだが。
だがだがだが。
その全ての素敵睡眠状況を満たしてると言うのに、俺は何故か眠れずに居た。
「・・・んむむむむ」
眉間のしわをうにうに左手の親指と人差し指で揉みながら、低い声を漏らす。
俗に言うアレである。
虫の知らせ、とか何とか言う奴だ。
結構そこそこ旅なんかしてると、請け負う仕事上、狙われるような事にもなりやすいわけで。
で、そーゆーのに慣れちゃうと、自然と体内での察知能力が上がるらしく、
眠くても眠れない。
即ち何かが来る予感、である。
「・・・めんどくさ」
最近の仕事内容では、そんな危ない橋は渡ってないし、日常生活でも付け狙われるような事はしていない。つもり。
「激しくめんどい。出来ることなら明日以降にしてくんないかねえ?」
開けっ放しだった窓から、夜の冷気が流れ込んでくる。
その窓から見える見事な満月に向かって、無理とは分かっててもお願いしてみたり。
瞬間、
ぞわり。
血管が一気に太さを増したように、血が体内を猛スピードで逆流するような、そんな凄まじい感覚に襲われる。
「っつ!!」
身を翻してベッドから仰け反るように飛び起き、腰に仕込んだ短剣を後ろ手に一気に引き抜く。
寝巻きに着替えるのがおっくうで、そのままベッドに突っ込んだのがくしくも幸いしたようである。
今の俺は、普段の格好にマントを外しただけの状態。
息を止め、相手の気配を探る。
が、その数どころか相手の場所も掴めない。
――なかなかの実力の持ち主の様である。
「・・・」
ランプの明かりを消し、ドアからも窓からも距離を取る。
馬鹿正直にドアから来る刺客もそうそういないだろうが、窓が一個しかないこの部屋ではどちらからこられても可笑しくは無い。
――ィンッ!
小さな金属音のようなものが耳に届く。
刹那、身体中の血の気が引いていく音が、俺には確かに聞こえた気がした。
「カイっ!!!」
俺は叫ぶより早く、部屋を一足飛びに飛び出していた。
ノックもせずにカイの部屋のドアに体当たりをする。
ご丁寧に施錠していたらしく、がごらん!という鈍い大きな音と共に、ドアがこじ開けられる。
一歩踏み入った瞬間、俺を襲ったのは恐ろしく冷たい冷気。
開け放たれた窓から流れ込む夜の冷気ではない。
眼前に佇む、暗殺者(アサシン)から放たれる殺気である。
「てめえ・・」
俺は言い知れぬ重みを含んだ気に圧され、一歩後退る。
当の暗殺者は、逃げもせず、窓からあふれる月明かりをバックに悠然と佇んでいる。
その足元に転がる、金色のかたまり。
「カイ!」
俺は悲鳴のような声を上げて、しかし彼女のそばに走れずにいた。
今動けば、確実にこちらがやられる。
俺が無事でも仕方ない。
今のこの場所からでは、明らかに奴とカイとの距離の方が近い。
俺が動いた瞬間に、奴がカイを葬る事など造作もなく、恐らく奴もそれを分かっているのだろう。
この場に似つかわしくない静寂が、一瞬流れた。
床に倒れ付したカイは、ぴくりとも動かない。
・・・・生きててくれ、カイ・・・・
俺は張り裂けそうになる想いを押し殺し、目の前に未だ佇む奴に声をかける。
「・・・随分と物騒な訪問だなあ?え?夜中に婦女子の部屋に押し入るなんて」
左手に握った短剣を、腰の辺りで握りなおす。
「てめえ、何モンだ?何のようだ?」
あくまで相手を睨みつけたまま動かない。
「この――」
奴は静かに口を開く。
全身真っ黒で、顔も覆面でおおっているから、幾分くぐもった声ではあったが、低めの男の声で。
「この女に関わるな。さもないと」
「さもないと、何だってんだ」
恐らく今の俺は、カイには見せたことが無い顔をしているだろう。
裏の仕事をしている時の、顔だ。
「さもなくば、貴様も死ぬ」
「・・上等じゃねえか、やってみやがれ」
俺が答えると、奴は唯一覗いている目の部分をひどく歪める。
「残念だ」
奴が吠えた瞬間、闇が動く。
「炸覇轟(デスド・ヴァッシュ)!」
先制攻撃、先手必勝である。
密かに結んでいた印を開放する。
一点集中型の術なので、当たればラッキーくらいに思っていたのだが、案の定、俺の術はカーテンに直撃しただけである。
滑るように間合いを詰めてくる暗殺者。
そんなに側に寄られたはずは無いのに、耳元で奴の声が響く。
「闇塊錠(ブゥム・エグォン)!」
聞いたことの無い術だった。
瞬間、背中を詰めたいものが走り、俺は何の根拠も無いまま一気に横に飛ぶ。
一瞬前に俺が居た場所は、空間ごと引き裂かれるような深く低い音と共に、両断されていた。
「氷槍(ブリズ・ランス)!」
奇襲的に放った一撃が、運良く相手の右足の一部にかする。
が、氷付けにされる術を受けた足では、今までのようなスピードでは動けない。
それは一戦で命を賭す者にとっては死活問題である。
「光球(ウィル・ド・ボール)!」
目を閉じて一瞬で光を爆発させる。
普段はランプ代わりに持続時間を長くして使う術であるが、今の覇持続時間ゼロで爆発させたようなものである。
相手の目を潰すには効果あり!
「く!!」
案の定と言うか、上手くというか、目を焼かれたらしい暗殺者は、窓まで一気に退く。
「もう一度言う。この女には関わるな。関われば貴様も同罪だ」
そう言い残すと、真黄色な満月を背景に、夜の空へ消え去っていった。
俺は奴の気配が完全に消えるのを確認して、急いでカイに駆け寄る。
「カイ、大丈夫か?生きてるか!?」
俺の焦った声にも、彼女は反応せず動きもしない。
倒れた彼女を抱え起こし、その顔を見て血の気が引く。
彼女の首には、見紛う事なき圧迫された跡が、くっきりと残っていた。
急いで口元に耳を持っていくと、かすかではあるが呼吸をしている。
しかし、このまま放って置けば間違いなく待っているのは、
死。
その言葉に行き当たって、ぞっとした。
「死なせねえからな!絶対!」
俺はベッドにかかったシーツを引っぺがし、彼女の身体を包み、夜の町へ走り出る。
「死なせてたまるか!」
俺は誰にともなくそう叫び、一目散に医者のもとへと走った。
・・・・ごろん。
・・・・ごろごろ。
・・・・じたばた。
「眠れん」
俺はいよいよベッドの上でもがくのを諦め、半ばほどけかかったみつあみをほどきながらうめいた。
酒も心地良く回って、ほろ酔い加減も絶妙で、しかも頬は緩みっぱなしで。
そのまま布団に倒れ込めば、いつもならばものの数分と持たずに深い眠りに吸い込まれて行く筈なのだが。
だがだがだが。
その全ての素敵睡眠状況を満たしてると言うのに、俺は何故か眠れずに居た。
「・・・んむむむむ」
眉間のしわをうにうに左手の親指と人差し指で揉みながら、低い声を漏らす。
俗に言うアレである。
虫の知らせ、とか何とか言う奴だ。
結構そこそこ旅なんかしてると、請け負う仕事上、狙われるような事にもなりやすいわけで。
で、そーゆーのに慣れちゃうと、自然と体内での察知能力が上がるらしく、
眠くても眠れない。
即ち何かが来る予感、である。
「・・・めんどくさ」
最近の仕事内容では、そんな危ない橋は渡ってないし、日常生活でも付け狙われるような事はしていない。つもり。
「激しくめんどい。出来ることなら明日以降にしてくんないかねえ?」
開けっ放しだった窓から、夜の冷気が流れ込んでくる。
その窓から見える見事な満月に向かって、無理とは分かっててもお願いしてみたり。
瞬間、
ぞわり。
血管が一気に太さを増したように、血が体内を猛スピードで逆流するような、そんな凄まじい感覚に襲われる。
「っつ!!」
身を翻してベッドから仰け反るように飛び起き、腰に仕込んだ短剣を後ろ手に一気に引き抜く。
寝巻きに着替えるのがおっくうで、そのままベッドに突っ込んだのがくしくも幸いしたようである。
今の俺は、普段の格好にマントを外しただけの状態。
息を止め、相手の気配を探る。
が、その数どころか相手の場所も掴めない。
――なかなかの実力の持ち主の様である。
「・・・」
ランプの明かりを消し、ドアからも窓からも距離を取る。
馬鹿正直にドアから来る刺客もそうそういないだろうが、窓が一個しかないこの部屋ではどちらからこられても可笑しくは無い。
――ィンッ!
小さな金属音のようなものが耳に届く。
刹那、身体中の血の気が引いていく音が、俺には確かに聞こえた気がした。
「カイっ!!!」
俺は叫ぶより早く、部屋を一足飛びに飛び出していた。
ノックもせずにカイの部屋のドアに体当たりをする。
ご丁寧に施錠していたらしく、がごらん!という鈍い大きな音と共に、ドアがこじ開けられる。
一歩踏み入った瞬間、俺を襲ったのは恐ろしく冷たい冷気。
開け放たれた窓から流れ込む夜の冷気ではない。
眼前に佇む、暗殺者(アサシン)から放たれる殺気である。
「てめえ・・」
俺は言い知れぬ重みを含んだ気に圧され、一歩後退る。
当の暗殺者は、逃げもせず、窓からあふれる月明かりをバックに悠然と佇んでいる。
その足元に転がる、金色のかたまり。
「カイ!」
俺は悲鳴のような声を上げて、しかし彼女のそばに走れずにいた。
今動けば、確実にこちらがやられる。
俺が無事でも仕方ない。
今のこの場所からでは、明らかに奴とカイとの距離の方が近い。
俺が動いた瞬間に、奴がカイを葬る事など造作もなく、恐らく奴もそれを分かっているのだろう。
この場に似つかわしくない静寂が、一瞬流れた。
床に倒れ付したカイは、ぴくりとも動かない。
・・・・生きててくれ、カイ・・・・
俺は張り裂けそうになる想いを押し殺し、目の前に未だ佇む奴に声をかける。
「・・・随分と物騒な訪問だなあ?え?夜中に婦女子の部屋に押し入るなんて」
左手に握った短剣を、腰の辺りで握りなおす。
「てめえ、何モンだ?何のようだ?」
あくまで相手を睨みつけたまま動かない。
「この――」
奴は静かに口を開く。
全身真っ黒で、顔も覆面でおおっているから、幾分くぐもった声ではあったが、低めの男の声で。
「この女に関わるな。さもないと」
「さもないと、何だってんだ」
恐らく今の俺は、カイには見せたことが無い顔をしているだろう。
裏の仕事をしている時の、顔だ。
「さもなくば、貴様も死ぬ」
「・・上等じゃねえか、やってみやがれ」
俺が答えると、奴は唯一覗いている目の部分をひどく歪める。
「残念だ」
奴が吠えた瞬間、闇が動く。
「炸覇轟(デスド・ヴァッシュ)!」
先制攻撃、先手必勝である。
密かに結んでいた印を開放する。
一点集中型の術なので、当たればラッキーくらいに思っていたのだが、案の定、俺の術はカーテンに直撃しただけである。
滑るように間合いを詰めてくる暗殺者。
そんなに側に寄られたはずは無いのに、耳元で奴の声が響く。
「闇塊錠(ブゥム・エグォン)!」
聞いたことの無い術だった。
瞬間、背中を詰めたいものが走り、俺は何の根拠も無いまま一気に横に飛ぶ。
一瞬前に俺が居た場所は、空間ごと引き裂かれるような深く低い音と共に、両断されていた。
「氷槍(ブリズ・ランス)!」
奇襲的に放った一撃が、運良く相手の右足の一部にかする。
が、氷付けにされる術を受けた足では、今までのようなスピードでは動けない。
それは一戦で命を賭す者にとっては死活問題である。
「光球(ウィル・ド・ボール)!」
目を閉じて一瞬で光を爆発させる。
普段はランプ代わりに持続時間を長くして使う術であるが、今の覇持続時間ゼロで爆発させたようなものである。
相手の目を潰すには効果あり!
「く!!」
案の定と言うか、上手くというか、目を焼かれたらしい暗殺者は、窓まで一気に退く。
「もう一度言う。この女には関わるな。関われば貴様も同罪だ」
そう言い残すと、真黄色な満月を背景に、夜の空へ消え去っていった。
俺は奴の気配が完全に消えるのを確認して、急いでカイに駆け寄る。
「カイ、大丈夫か?生きてるか!?」
俺の焦った声にも、彼女は反応せず動きもしない。
倒れた彼女を抱え起こし、その顔を見て血の気が引く。
彼女の首には、見紛う事なき圧迫された跡が、くっきりと残っていた。
急いで口元に耳を持っていくと、かすかではあるが呼吸をしている。
しかし、このまま放って置けば間違いなく待っているのは、
死。
その言葉に行き当たって、ぞっとした。
「死なせねえからな!絶対!」
俺はベッドにかかったシーツを引っぺがし、彼女の身体を包み、夜の町へ走り出る。
「死なせてたまるか!」
俺は誰にともなくそう叫び、一目散に医者のもとへと走った。
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