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桃屋の創作テキスト置き場
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■BGM 2  ー愛し子の 墓辺吹く風 静かなれー  14■




 『カイは、お前の様な栗色の髪の毛だったのだよ』




 あの言葉が頭の中でリフレインしっぱなしで、あまりよく眠れなかった。










「ふ・・ああぁあ~」
 眠い目こすりながら、盛大なあくびを一つ。
 どうにもこうにも寝付けないうちに、夜が明けてしまった。
「ちっくしょ。あのクソッタレ国王が変な事言うから、練れなかったじゃねーか」
 そう嫌味を吐いてみるも、やはり脳髄にこびり付いたままの、あの台詞。



 カイの髪の毛は栗色だった。
 それが今は、あんなにまばゆいばかりの金髪だ。


 だが、それに一体何の意味があるというのだ。
 さっぱり分からん。



 ただ―――



 カイの双子の妹のイリスとやらは、どうだったんだろうと、気になった。



「ん?」
 ふと目線だけを上げると、少し先にグレンフォードの姿が見えた。
 イリスと恋仲だった、グレイ。
  

 俺は一瞬考え込んで、すぐに彼に声をかけた。


「をーい、グレイー」
 呼ばれた彼は、朝だと言うのにちっとも眠そうな気配を見せない、俗に言う『さわやかな笑顔』で微笑みかける、
「ああ、おはようございますルカさん。今日もお元気そうで・・・・・はないですね」
「をを、完璧寝不足だ。眠い」
 朝の挨拶の常套句を撤回せざるを得ないくらいの俺の姿に、グレイは『あらら~』と笑って、
「じゃあカイ様も寝不足ですね、起こさないようにしましょうね」
「は?」
「それにしても王宮でだなんて、案外ルカさんも大胆ですねー」
 心底嬉しそうに、にっこりしてくれやがる奴。
 何だそれは何か?俺がカイに夜這いぶっこいたとでも言うのか?
 カイに夜這い・・・・


 ・・・・
 ・・・・


「って、ちょっとまて―――!!何の話だ!?俺は何にもしてねーぞ!?」
「知ってますよ。ほんの可愛い冗談ですよ」
「どこが可愛いだ、どこがっ!!!」
 くっそー、見下ろされてる分(どうせ俺のほうが小さいですよ)どうやったって形成的に不利にある。
 怒鳴りついでに軽く出した右の拳は、案の定簡単に受け止められてしまう。
「まあ、それだけ元気があれば、寝不足も大した事無いみたいですね」
「あー、でもやっぱ眠いわ。目覚ましに風呂でも行こうかと思うんだけど、お前も来る?」
 再びあくびをしながら聞いた俺の問いに、いささか驚いたように目を見開いたが、一瞬考えてすぐにまたいつもの笑顔に戻る。
「―――そうですね、お供しましょうか。聞かれたくない話も、出来ますしね」
「なんだそりゃ」
 彼より先に廊下を歩きながら、内心なんて奴だと舌を巻く。
 そんな素振りは見せないようにしたつもりなんだが、グレイにはお見通しだったらしい。


 ・・・手強いなぁ、案外。


「それに」
 俺の背後で僅かに黒い色を含んだ声がする。
「二人っきりで風呂なら、ヤる事は一つですよね。ルカさんがまさか両刀だったとは・・いやはや、ちょっとびっくりです」
 なんてぬかしやがって。
「ざけんなー!俺はノーマルじゃ!」
「またまた、良いですよ照れなくても。この国じゃ別に同性愛も罰せられませんから」
 人当たりのいい笑みで、ぱたぱたと手を振る。
「あほか!俺が好きなのは――」
「カイ様だけ、ですか?」
「!」
 さっきとは打って変わって真面目な顔で。
「・・・・・・・・とっとと風呂行くぞ」
 後ろ頭をばりばりかきむしりながら再び歩き出す。


 ちくしょ、何かこいつ苦手かも・・・


「素直じゃないですねぇ」
 何て声が聞こえたが、もう俺はそれに答えてやることはしなかった。
 ・・・喋り出したら、乗せられた勢いで、何言うか分かったもんじゃないからってのは、秘密。










 お互い腰にタオルを巻いて、王宮の来客専用(?)だかの湯船に浸かる。
 最も、でかすぎて何がなんだか分からん事になってはいるが。


「・・・・どーでもいいけど、何で王宮とかってのはこーも無駄になんもかんもでかいんだ・・」
 うちの故郷の風呂は、当然だがもっと普通サイズだったし、宿泊する宿に温泉があったとしても、こんなバカみたいなサイズではなかった。
「さてねぇ、権威の象徴だったりするんじゃないですかね」
 頭に愛用の眼鏡を器用に乗っけたままで、グレイが笑う。
「ま、どーでも良いじゃないですか、そんな事は」
「そりゃそーか」
「そうですよ、せっかくルカさんと二人きり、しかもお互い裸なんですから。そんなつまらない話は後にして、ちゃっちゃとやることやって・・」
「だー!何をやるんだ何を!風呂に入る、それで十分だろーが!」
 こうも再三からかわれると、実はこいつ本気なんじゃないかとか思ってしまう。
 確かに外でナンパされた事は数あれど、明らかに裸で男と分かる出で立ちで、迫られるのはいかがなもんか。

「まあ、冗談はこれくらいにして・・」
「お前どこまでが本気か分かりにくいぞ・・」

 俺の呟きに、彼は一つ微笑んで見せ、


「さて、で、何をお話したいんでしょうかね?ルカさん?」
 俺はふぅ、と気付かれないくらいに息を吐き出す。


「お前さんと、あいつの事だよ」


 回りくどく言おうが、どうせすぐ感づかれてしまうだろうと思い、率直に簡潔な言葉だけで述べる。
 凡そ、普通ならそれだけじゃ通じないようなくらいの、言葉数で。
「イリス、ですか?」

「―――ああ」



 いつもより、深い声で、俺は答えた。

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