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桃屋の創作テキスト置き場
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■BGM 2  ー愛し子の 墓辺吹く風 静かなれー  12■




 ―――どうする?

 俺は彼女より僅かに前に出た状態のまま、動けなかった。
 相手のクソピエロは、相も変わらず空中遊泳。
 俺が歯噛みしていると、
「どうして」
 すぐ側にいるカイが、俺の心の中を空かし読んだ様に口を開く。
 しかし、相手は俺に対してではなく、目の前の奴に対してではあるが。
 

「どうして、あんたは私を知ってるの?」


 瞬間、俺はカイの顔を見る。
 奴は片方の眉毛(多分眉毛だと思う。自信は無いが)を、ぴくりと跳ね上がらせ
た。
「・・・と申しますと?」


「あんたと私は初対面な筈なのに、どうしてあんたが、私の過去をさも知っているかの ような態度なのか、と聞いているのよ」


 いつもの優しい彼女からは、とてもじゃないが想像出来ないような、深い声音だ。

「それは、ごく簡単な事でございますよ」
 ピエロは面白そうに言うと、自ら地面に降り立った。
 着地の際も、一切の音は鳴らなかったが。
「・・・・どう言う事?」
「ですから」
 ピエロはふわりふわりとカイに近付く。
 何故かその表情に、もう例の凄絶な笑みは無い。
 二人は俺が見えていないのか、無言で対峙する。



「私とあなたは、会った事がある。ただそれだけの事でございますよ」



 奴の言葉に、俺は目を見開く。
 ・・・どう言う事だ・・?
 生唾飲み込む俺に、しかしカイは居たって冷静で、
「やっぱり、あの時のあれは、あなただったの」
「いかにも」
 答えて奴は、再びあの例の笑みを浮かべる。
 カイは険しい表情のまま、剣を握り直す。
「で、それが分かった今、どうなされるおつもりですか?」
 まるで揶揄するかのような口調である。
 彼女はきっ、と顔を上げ、はっきりと言い放った。



「決まってるじゃない。殺すわ」



 言うなり、カイは跳ぶ。
 今までに見たことの無い速さで。
 しかし、
 

 ぎぃん!


 身を翻したピエロのカギ爪に、あっさり防がれてしまう。
「くそっ!何でだ!何でお前・・!」
「分からない人ですねえ」
 激昂するカイに、微笑むピエロ。
 異様な光景だった。
「邪魔な物はいらないでしょう?そう言う事ですよ」
 ピエロは再びふわりと宙に浮き、印を結び始める。
「カイ、どけ!」
 俺は叫んでカイとピエロとの間に割り込む。
 今まで印の一つも唱えずに、術を放ってきた奴である。
 それが、印を結ぶ位の術となると、どのレベルのものか、はっきり言って想像などつかない。
 下手をしたら、この町半分くらい無くなるかも知れない。
 シャレではなく、実際、本気の魔族の力は、純魔族ともなればそのくらいにはなる。


「お終いに致しましょうか、カイ王女様」


 そう言って、手を振りかざす。
 俺はカイを抱えて、防御呪文を唱える。
 奴が手を降ろし、
 俺の術は、
 間に合わない―――!!




「・・・え?」
 目を開けると、そこは先程と何ら変わりない景色。
 ただ一つ違うのは、ピエロが硬直したまま、術を開放もせずに居た事だ。
「?」
 俺は奴の視線を追う。


 そこで目に入ったのは、一人の男。


 濃い灰色の頭髪。
 年の頃なら俺より僅かに上と言った所か。
 柔らかそうな衣服に身を包み、
 左腕の袖には、王室の紋様。

 ついこないだ町で世話になったばかりの魔法医、グレンフォードの姿だった。


「ルカさん!カイさん!ご無事ですか?」
「グレイ?何でお前がこんなとこに」
「詮索は後です!ディラングス!」
 恐らくそれが奴の名前なのか、呼ばれたピエロは面白そうな顔で微笑み、一瞬でカイの目の前に降り立つ。
「っ!・・」
「貴方様も、追うべきで御座います」
 カイと鼻頭が触れそうなくらい近付いて。


「御姉様」


 その一言で、カイの瞳がひどく歪む。
「またいずれお会いしましょう、皆様方」
 そう言うと、ふわりと浮いて、一瞬にして虚空に消えてしまった。
「・・・何なんだ一体・・」
 俺は、緊張がしばらく解けないまま、奴が消えた空を見上げるので精一杯だった。











「んで、お前は何でここに居る訳?」


 場所は変わって、王宮内の医務室のような場所。
 そこでのうのうとティーポットにお茶葉とお湯をぶち込んでいる、眼鏡の似合う大人・・・の男。(別にひがみとかではない。)

「聞いてんのか?グレイ!」
 俺のイライラは最高潮。バン!と机を叩いて立ち上がる。
「まあ落ち着いて下さい。ちゃんと話しますし、逃げません」
 そう言って彼は、趣味の良いカップに紅茶を注いでくれる。
 思いのほか軽症で済んだ俺とカイは、ここでグレイによる簡単な治療を受け、そのまま居座っているという訳なのだが。
「をーをー、聞かせてもらおうじゃねーか」
 俺は機嫌悪く、たった今注がれた紅茶を飲み下す。
 グレイは「はいはい」と困ったような表情を作ってから、口を開く。

「僕、ここで働かせてもらってるんです」
 と、いけしゃあしゃあと言い放つ。
「は?お前町医者だろ?嘘つくなよ」
「嘘なんかついてないですって」
 怪訝そうな顔をする俺に、微笑みながら答えるグレイ。
 カイは、部屋にあるベッド(本来は治療用なのだが)に腰掛け、ぼーっと窓の景色を眺めている。
「ですから、本来のお仕事はここでの勤務で、休みの日には家で働いてるんです」
「ほー」
 自分から聞いといたにも関わらず、ぞんざいな返事をする俺。

「それよりもルカさん」
「ん?」
「ルカさんこそ、何故ここに・・?」
 ティーポット片付けながら問い掛ける。
「ああ、何でか成り行きで」
 俺の答えに、彼はくすっ、と笑って、
「何だか貴方らしいですね」
 と微笑んだ。


「ってゆーかさ、グレイ」
「はい?」
 俺は飲んでた紅茶を机に置き、真剣な顔になって問い掛ける。
「お前、何でさっき飛び出してきたの?」
「それは・・」
 彼は一瞬考えるように間を置いて、
「気が付いたら、走り出してました。あなた方二人を見つけた時には」
「そうか・・・」

 俺はそれ以上の質問を止めた。
 彼の態度は、実に紳士的だし、実際、俺も知り合いが戦いの渦中に居たら、後先考えずに飛び込んで行くだろうから。


 しかし―――


「カイ」
 俺は彼女を呼ぶ。
 振り返った顔に浮かぶ、笑み。


「戻ろう」
「ん」


 小さく答えて、ベッドからするりと降りるカイ。
 グレイの横を通り過ぎようとした瞬間、彼女の腕はグレイに掴まれていた。

「・・・・・グレンフォード?」
「・・・・・・・・」
 カイの言葉にも、彼は微動だにせず、ただ、カイの腕を握ったまま、そのターコイズブルーの瞳を見詰めつづけた。


「グレンフォード・・・・ごめん」
「・・あ、いえ・・・すみません・・・」
 カイが、優しい笑みを湛えたまま、しかし僅かに苦しそうな声で再び呟く。
 そこで我に返ったのか、グレイはやっと彼女を解放する。


「ごめんね・・・」


「いえ・・」
 二人の会話はそこで終わった。
 カイは、ドアの目の前で待っていた俺を通り過ぎると、先に部屋から出た。
「・・・・」
 俺はグレイを振り返るが、彼は背中を向けたままで、表情までは分からなかった。




 後ろ手にドアを閉めると、カイが俺を見詰めてきた。
「・・・どうした?」
「・・・んーん」
 小さくかぶりを振って、微笑んでみせる。
 しかし、その笑顔もまた、痛々しく見えた。
 俺はカイの両方のほっぺたを手のひらでぱちん!と包んで、


「笑いたくない時に、無理して笑うな」
「ルカ・・?」
「そんなお前、見てると辛いから。笑いたくなきゃ、笑うな。それと」
 俺はそこで一つ呼吸をして、続ける。
「泣きたきゃ、泣いて良いんだぞ。ただし、泣くなら俺の前だけな」
 そこまで言って、あまりに図々しい事を口走ったと思い、大慌てで、
「ま、そーゆーことだよ。な?」
 と、少しおどけて言う。
 しかし、彼女は澄んだ瞳で俺のグリーンの瞳を見詰めるだけで、言葉は無かった。

 その代わり、俺が彼女の頬から手を離した瞬間、カイが倒れ込んで来て。

「わ・・!」
 そのまま彼女の腕が、俺の背中に・・・回って・・・・


 抱き締められた。


「・・・・カ・・カイ?」
 あまりに突然で、俺は多分顔を真っ赤にしながら、彼女を支えようとして差し出した、両腕の始末に困りながら、情けない声を出した。
「カイ・・?」
 俺の言葉に、カイはただ黙って力を込めるだけ。
 顔を見たかったのだが、ぴったりとくっつかれ、見えるのは綺麗な金髪だけだった。


「ありがと」
「ん?」
「ありがと、ルカ」


 ともすれば聞き逃しそうな小さな声に、俺はやっと息を吐く。
「うん」
 そう答えて、ぎこちなく自分の両手を彼女の背中に・・回し・・・・たい・・!!



 一人脳内大葛藤の末、俺はようやっとカイを柔らかく包み込む。


 ・・・・ああくそ!笑っちゃまずいだろうに、顔の筋肉が言う事聞かん!

 しばらくすると、ようやく満足したのか、手を解いて体を離すカイ。
 俺としては・・もうちょっとくっついてても・・・いやいやいや。


「やっぱり、ルカ好きだな」
「は?」
 いつもみたいな笑顔全開の笑みではなかったけど、カイは笑っていた。
「え・・それ・・どおゆう・・意味?」
「ん?そのままだよ」
「あ・・そう・・・」


 神様!
 今までろくすっぽ祈った事も、感謝したことも無いけど。
 今だけは感謝!!
 


 俺はにやけた口元を隠すように、右手で自分の顔半分を覆って、
「行くぞ」
「ん」
 カイは何時ものように横に並んで歩き出した。
 願わくば、少しでも長くこうしていられるように。
 なんて思いながら歩いた。

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