桃屋の創作テキスト置き場
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■BGM 2 ー愛し子の 墓辺吹く風 静かなれー 11■
ピエロの言葉に、俺は激昂する。
「誰が!てめえなんかにやるかってんだ!」
俺はカイを抱き締めたまま、空中から言葉を降らせる無礼極まりないピエロ野郎に食って掛かる。
「・・ありがとルカ、もう、平気」
「平気ってお前、顔色が・・」
「平気」
無理やり俺の腕から逃れようとするカイに、しかし彼女の顔が真っ青に染まって居るのを見て、俺は一瞬躊躇するが、彼女は有無を言わせぬ視線で、俺は力を緩めるしかなかった。
「今はアイツが先」
「ごもっとも」
レイが背後でぱきん、と指を鳴らす。
「赤龍炎(ドラグ・フレア)!」
赤龍の魔王・フォレディグスタンの力を借りた術を放つ。
黒魔術の攻撃魔法の中で、比較的取得しやすく、使い勝手もある術である。
最も、黒魔術自体が取得しにくい技ではあるので、この表現はいささか不適切かもしれないが。
「ふむ」
奴は一言呟いて、ひらりと身をひねり、術をかわす。
しかし!
くん!
俺が微かに手を動かすと、それに呼応して術が戻ってくる。
何の事は無い。術の特性、不確定要素言語、もろもろ全てを理解していれば、コレくらいのアレンジは可能だ。
・・・実はそれが結構めんどくさいけど!!
奴が気付く暇もあらばこそ。
背後に術が肉薄する。
「ぎゃああ!」
悲鳴を上げ、空中でバランスを崩すピエロ。
しかし、地面に落ちる事は無く、どうやってるのかは知らんが、空中で踏み止まっている。
「くそ、やれ!!」
ピエロは一端上昇し、背後にスタンバってる下等魔族(ヴァルジャ・デーモン)達に攻撃命令を出す。
「しゃ――!!」
一斉に咆哮を上げ、炎の矢を放って来る下等魔族(ヴァルジャ・デーモン)。
「水砲波(アクディス・ウェイブ)!」
連携無しの数勝負な奴らには、広範囲射程の術を、とにかくぶっ放すしかない。
ぶっちゃけ炎ステイタスな俺は、水系列があまりお得意では無いのだが、今はそんな事言ってる場合では無い。
『フレイム』
ピエロが、空中に留まったまま、印も結ばずに、術を発動させる。
「くっ!」
レイが受身を取りながらそれを避ける。
しかし、術は木々や芝生に移り、一瞬にして辺りは業火に焼かれた地獄絵図になる。
・・・隔離されたか・・・
隙を窺って背後に視線を走らせると、俺達の周り一帯に火は燃え広がっており、これでは援軍も来れやしない。
「・・・国お抱えの兵とか、期待してたんだけどな、ちょっとだけ」
つぶやき、頭をふりふり、切り替える。
冷や汗が垂れる。
目の前には、それこそ優雅に浮かぶピエロ。
ぎりっ。
知らずに、俺は奥歯を噛み締める。
「ご自分の力を過信し過ぎると、死に急ぐ事になりますよ」
薔薇も恥らう様な深紅の唇を、微笑みの形に形成し、嘲笑が混ざった様な声音で。
「・・・何でカイを狙う・・」
俺はレイとカイの気配を頼りに、二人をガードする位置に回りこみながら、口を開く。
「何故、と申されましても」
「殺すってんだ、理由くらいあるだろ」
普段よりも数段低い、毒を吐きそうな位な声音で。
ああ、本当ならこんな裏の世界の姿、カイには見せたくないのに、歯止めが、利かない。
「そう申されましても、私はマスターのご指示の元で動いているだけですから」
マスター・・!?
俺が疑問を口にするより早く、ピエロは瞬時に間合いを詰め、そのカギ爪で俺に襲い掛かる。
「ルカ!」
カイの悲鳴にも似た叫びが、耳に届く。
その声に、やけに不安が広がる。
・・どうしたんだよ、いつもみたいな余裕は、どこ行っちゃったんだよ・・
腰の短剣抜き放ち、すんでの所で爪を受け止める。
ぎぎぎぎ、と、金属同士が擦れ合う、鈍くて耳につく嫌な音。
「カイは殺させねえぞ!クソピエロ!!」
「貴方様にそれが出来ますか!?」
ぎっ!
ぎぃん!
俺の短剣と、ピエロの再生自由なカギ爪。
どう考えても、勝敗は決まっているようなものだ。
「くそっ!」
一寸退いて、相手との間合いを計る。
どうにも、奴の先程に一言が気にかかる。
マスター。
マスターってなら、コイツは雇われ?
んな訳は無い。
だとするならば、
召還術士が、コイツを召還した奴が、近くに居る筈!
見紛う筈も無く、コイツは純度100%、純粋な魔族。
となると。
魔族が主従関係を結ぶのは、自らより上位の魔族か、自らを召還出来る力を持ち、契約するに値する力を持った者にのみ。
下等魔族やらを召還するのとは訳が違う。
純魔族を召還出来る奴が居るとするならば、そいつのキャパは、恐らく俺なんかを遥かに上回っている筈だ。
――どこだ!
――どこに居る?考えろ!
俺は焦って辺りに視線を這わせる。
そこに映ったのは、下等魔族数ダースを相手にしている、カイとレイ。
思った以上に使えるらしい美系、レイ。
どうも魔術と剣術を組み合わせて使うのを得手としている様で、何とか下等魔族の炎の矢攻撃を避けつつ、攻撃に転じている。
「はっ!」
気を吐き、長剣を振り下ろすレイ。
どうやら剣に簡単な攻撃魔法を纏わり着かせて居るようで、斬られた瞬間、下等魔族は燃え上がり、炭と化して行く。
「火炎球(フレア・ボール)!」
下等魔族相手なら、精霊魔術の物理攻撃も有効。
さすが、白魔術都市の王子様、実戦経験は分からんが、判断は間違ってない。
『じゃ!!』
レイの背後で一匹の下等魔族が炎の矢を吐き出す。
気付いて振り返るが、避けきるには時間が足りない!
「くそ!」
レイはそのまま地面を受身を取るように転がり、辛うじて直撃を免れる。
しかし、肩口は避け切れなかったらしく、焦げている。
彼は小さく舌打ちして、顔を一瞬苦悶の表情にする。
見た目より、傷は深いらしい。
「破っ!」
気合一閃。一足飛びに相手の懐に飛び込み、顎の下から一気に身体のバネを利用して切り上げる!
そして一端退いて間合いを取り、大きく息を吐いた。
カイの周りには、壁の様に佇む無数の下等魔族。
怯む事も無く、彼女は小さく息を吸い、愛用の剣部分に、小さくキスを落とす。
そして眩いばかりのターコイズブルーの瞳を細めて、一気に疾る。
レイのかけた魔術を纏わり着かせた剣で、竜巻のようにしなやかな動きで、敵を一閃して行く。
炎の矢が、無数に飛び交う中。
彼女は、疾風のように舞っていた。
重たい筈の長剣が、目に留めるのも難しい速さで振り下ろされ、下等魔族の身体を分断して行く。
わずかに出来た隙を狙い、宙に高く飛び上がり、剣を地面に突き刺すように一匹。
剣を抜いたその反動で、上体を半回転させながら横薙ぎ。
相も変わらず美しいまでの剣さばき。
惚れ惚れしてしまいそうだが、実際そんな余裕は、あんまり無いらしい。
「火弾(ファイア・ビッド)!」
握りこぶし大の火球を弾丸の様に打ち出す術で、下等魔族達の意識を一瞬こちらに集中させる。
そのわずかばかりの間に、カイが疾り、残った下等魔族達を薙ぎ払う!!
ざしゅざしゅばしゅどすっ!!
最後の一匹は、薙ぎ払われずに串刺しにされた。
ご愛嬌。
「水泡波(ウォル・フォ・ローム)!」
苦手な水系列の術を一発。
最もこれは、攻撃用では無く、辺りに広がった炎の消火用。
もともとこの術も消火用に開発されただけあって、広範囲に一斉に雨の様に降りしきる、ただそれだけの術である。
しかし、この術の放たれたど真ん中に居たりすると、水圧で捻挫くらいはするかも知れない。
前例は無いらしいが。
辺りに広がっていた炎はあらかた消え去り、もうもうと煙が残り火と共に暗い空に昇って行く。
「レイ王子!」
「ご無事ですか!?」
「カイ様!?」
よーやっと、それこそ本気でよーやっと到着した援軍が、口々にレイやカイの名前を叫びながら走って来る。
俺はそれをに振り返り、
「レイ王子とカイ王女を早くここから連れ去れ!」
と、大声で怒鳴る。
俺の台詞にわが意を得たり、とでも言う様に、負傷したレイを無理やり抱えて運び出す衛兵達。
「ルカ!?」
カイの抗議の声が聞こえる。彼女もまた、衛兵に羽交い絞めにされ、運び出されようとしていた。
「ルカ!私は残る!!」
じたばたもがいているが、いくら強いと言っても女性の力で、男数名の本気には敵わない。
俺は、敢えてカイを見ずに、
「お前は戻れ」
「何で!?」
未だ衛兵ともみ合っている彼女。
衛兵も何とかカイをなだめようと必死だが、聞く耳持っちゃいない。
「お前は、こんなとこで怪我したり、あまつさえ死んだりしちゃいけない人間だ。俺に、任せろ」
「いや!」
悲鳴一発。彼女はあろう事か脇を抱えていた一人をぶん殴った。
そしてそのまま、ものすごい気を吐いて、一喝する。
「ええい、下がれ!この無礼者共!!我が命を聞け!放せ!!」
カイの凛とした、王族のそれに、衛兵達は身体を強張らせ、力を緩める。
「お前達は戻り、場内外の警備にあたれ」
「・・カイ様は・・」
「私は残る!さあ、行け!命令無視で監獄に入れられたいか!!」
「は・・はっ!」
カイの脅迫じみた気迫に圧され、ばらばらと戻って行く衛兵達。
これで、ここに居るのは俺とカイ、そして、あのピエロの、三人だけだ。
カイは静かに俺の横に並び、ピエロを睨み付ける。
「・・・馬鹿が、何で残った」
目線はピエロから逸らさずに、しかし苦々しい口調で。
「相方見捨てて逃げるなんて、死ぬより嫌だ。これ、ルカの台詞よ」
「カイ、お前なあ・・」
「誰だって!」
俺の台詞を遮り、カイが続ける。
「誰だって、死んでいい人間なんて、居ないのよ・・」
その台詞に、息を飲んだ。
ピエロは、面白そうに彼女の台詞を聞いている。
「私は、ルカに死なれたくない」
そう、はっきりと言い切った。
「・・・・まいったね、こりゃ」
彼女に聞こえないくらい、小さく呟く。
どうやら、こいつには、隠し事も何もかも効かないみたいだ。
俺は小さく息を吐く。
俺が、彼女を『王族扱い』した事に、彼女は気付いたんだ。
そしてそれを嫌悪した。
今までどおりで何がいけないのか、と。
王族の命は大切で、庶民の命は無駄にしていいのか、と。
俺も彼女も、同等の人間同士ではないか、と。
俺は無造作に彼女に歩み寄り、その綺麗な金髪を一房握って、キスを落とす。
「悪かった。必ず勝つぞ。何なら、あの星にでも誓うか」
カイは、奴から視線を外さないまま、
「誓うなら、星なんかじゃなく、私に誓って」
ちゃきっ、と、正眼に剣を構え直して。
「絶対に死なないって、誓って」
「――分かった。誓うよ」
生き残ろう、二人で。
そして再び、戦いの幕が開くのだ。
ピエロの言葉に、俺は激昂する。
「誰が!てめえなんかにやるかってんだ!」
俺はカイを抱き締めたまま、空中から言葉を降らせる無礼極まりないピエロ野郎に食って掛かる。
「・・ありがとルカ、もう、平気」
「平気ってお前、顔色が・・」
「平気」
無理やり俺の腕から逃れようとするカイに、しかし彼女の顔が真っ青に染まって居るのを見て、俺は一瞬躊躇するが、彼女は有無を言わせぬ視線で、俺は力を緩めるしかなかった。
「今はアイツが先」
「ごもっとも」
レイが背後でぱきん、と指を鳴らす。
「赤龍炎(ドラグ・フレア)!」
赤龍の魔王・フォレディグスタンの力を借りた術を放つ。
黒魔術の攻撃魔法の中で、比較的取得しやすく、使い勝手もある術である。
最も、黒魔術自体が取得しにくい技ではあるので、この表現はいささか不適切かもしれないが。
「ふむ」
奴は一言呟いて、ひらりと身をひねり、術をかわす。
しかし!
くん!
俺が微かに手を動かすと、それに呼応して術が戻ってくる。
何の事は無い。術の特性、不確定要素言語、もろもろ全てを理解していれば、コレくらいのアレンジは可能だ。
・・・実はそれが結構めんどくさいけど!!
奴が気付く暇もあらばこそ。
背後に術が肉薄する。
「ぎゃああ!」
悲鳴を上げ、空中でバランスを崩すピエロ。
しかし、地面に落ちる事は無く、どうやってるのかは知らんが、空中で踏み止まっている。
「くそ、やれ!!」
ピエロは一端上昇し、背後にスタンバってる下等魔族(ヴァルジャ・デーモン)達に攻撃命令を出す。
「しゃ――!!」
一斉に咆哮を上げ、炎の矢を放って来る下等魔族(ヴァルジャ・デーモン)。
「水砲波(アクディス・ウェイブ)!」
連携無しの数勝負な奴らには、広範囲射程の術を、とにかくぶっ放すしかない。
ぶっちゃけ炎ステイタスな俺は、水系列があまりお得意では無いのだが、今はそんな事言ってる場合では無い。
『フレイム』
ピエロが、空中に留まったまま、印も結ばずに、術を発動させる。
「くっ!」
レイが受身を取りながらそれを避ける。
しかし、術は木々や芝生に移り、一瞬にして辺りは業火に焼かれた地獄絵図になる。
・・・隔離されたか・・・
隙を窺って背後に視線を走らせると、俺達の周り一帯に火は燃え広がっており、これでは援軍も来れやしない。
「・・・国お抱えの兵とか、期待してたんだけどな、ちょっとだけ」
つぶやき、頭をふりふり、切り替える。
冷や汗が垂れる。
目の前には、それこそ優雅に浮かぶピエロ。
ぎりっ。
知らずに、俺は奥歯を噛み締める。
「ご自分の力を過信し過ぎると、死に急ぐ事になりますよ」
薔薇も恥らう様な深紅の唇を、微笑みの形に形成し、嘲笑が混ざった様な声音で。
「・・・何でカイを狙う・・」
俺はレイとカイの気配を頼りに、二人をガードする位置に回りこみながら、口を開く。
「何故、と申されましても」
「殺すってんだ、理由くらいあるだろ」
普段よりも数段低い、毒を吐きそうな位な声音で。
ああ、本当ならこんな裏の世界の姿、カイには見せたくないのに、歯止めが、利かない。
「そう申されましても、私はマスターのご指示の元で動いているだけですから」
マスター・・!?
俺が疑問を口にするより早く、ピエロは瞬時に間合いを詰め、そのカギ爪で俺に襲い掛かる。
「ルカ!」
カイの悲鳴にも似た叫びが、耳に届く。
その声に、やけに不安が広がる。
・・どうしたんだよ、いつもみたいな余裕は、どこ行っちゃったんだよ・・
腰の短剣抜き放ち、すんでの所で爪を受け止める。
ぎぎぎぎ、と、金属同士が擦れ合う、鈍くて耳につく嫌な音。
「カイは殺させねえぞ!クソピエロ!!」
「貴方様にそれが出来ますか!?」
ぎっ!
ぎぃん!
俺の短剣と、ピエロの再生自由なカギ爪。
どう考えても、勝敗は決まっているようなものだ。
「くそっ!」
一寸退いて、相手との間合いを計る。
どうにも、奴の先程に一言が気にかかる。
マスター。
マスターってなら、コイツは雇われ?
んな訳は無い。
だとするならば、
召還術士が、コイツを召還した奴が、近くに居る筈!
見紛う筈も無く、コイツは純度100%、純粋な魔族。
となると。
魔族が主従関係を結ぶのは、自らより上位の魔族か、自らを召還出来る力を持ち、契約するに値する力を持った者にのみ。
下等魔族やらを召還するのとは訳が違う。
純魔族を召還出来る奴が居るとするならば、そいつのキャパは、恐らく俺なんかを遥かに上回っている筈だ。
――どこだ!
――どこに居る?考えろ!
俺は焦って辺りに視線を這わせる。
そこに映ったのは、下等魔族数ダースを相手にしている、カイとレイ。
思った以上に使えるらしい美系、レイ。
どうも魔術と剣術を組み合わせて使うのを得手としている様で、何とか下等魔族の炎の矢攻撃を避けつつ、攻撃に転じている。
「はっ!」
気を吐き、長剣を振り下ろすレイ。
どうやら剣に簡単な攻撃魔法を纏わり着かせて居るようで、斬られた瞬間、下等魔族は燃え上がり、炭と化して行く。
「火炎球(フレア・ボール)!」
下等魔族相手なら、精霊魔術の物理攻撃も有効。
さすが、白魔術都市の王子様、実戦経験は分からんが、判断は間違ってない。
『じゃ!!』
レイの背後で一匹の下等魔族が炎の矢を吐き出す。
気付いて振り返るが、避けきるには時間が足りない!
「くそ!」
レイはそのまま地面を受身を取るように転がり、辛うじて直撃を免れる。
しかし、肩口は避け切れなかったらしく、焦げている。
彼は小さく舌打ちして、顔を一瞬苦悶の表情にする。
見た目より、傷は深いらしい。
「破っ!」
気合一閃。一足飛びに相手の懐に飛び込み、顎の下から一気に身体のバネを利用して切り上げる!
そして一端退いて間合いを取り、大きく息を吐いた。
カイの周りには、壁の様に佇む無数の下等魔族。
怯む事も無く、彼女は小さく息を吸い、愛用の剣部分に、小さくキスを落とす。
そして眩いばかりのターコイズブルーの瞳を細めて、一気に疾る。
レイのかけた魔術を纏わり着かせた剣で、竜巻のようにしなやかな動きで、敵を一閃して行く。
炎の矢が、無数に飛び交う中。
彼女は、疾風のように舞っていた。
重たい筈の長剣が、目に留めるのも難しい速さで振り下ろされ、下等魔族の身体を分断して行く。
わずかに出来た隙を狙い、宙に高く飛び上がり、剣を地面に突き刺すように一匹。
剣を抜いたその反動で、上体を半回転させながら横薙ぎ。
相も変わらず美しいまでの剣さばき。
惚れ惚れしてしまいそうだが、実際そんな余裕は、あんまり無いらしい。
「火弾(ファイア・ビッド)!」
握りこぶし大の火球を弾丸の様に打ち出す術で、下等魔族達の意識を一瞬こちらに集中させる。
そのわずかばかりの間に、カイが疾り、残った下等魔族達を薙ぎ払う!!
ざしゅざしゅばしゅどすっ!!
最後の一匹は、薙ぎ払われずに串刺しにされた。
ご愛嬌。
「水泡波(ウォル・フォ・ローム)!」
苦手な水系列の術を一発。
最もこれは、攻撃用では無く、辺りに広がった炎の消火用。
もともとこの術も消火用に開発されただけあって、広範囲に一斉に雨の様に降りしきる、ただそれだけの術である。
しかし、この術の放たれたど真ん中に居たりすると、水圧で捻挫くらいはするかも知れない。
前例は無いらしいが。
辺りに広がっていた炎はあらかた消え去り、もうもうと煙が残り火と共に暗い空に昇って行く。
「レイ王子!」
「ご無事ですか!?」
「カイ様!?」
よーやっと、それこそ本気でよーやっと到着した援軍が、口々にレイやカイの名前を叫びながら走って来る。
俺はそれをに振り返り、
「レイ王子とカイ王女を早くここから連れ去れ!」
と、大声で怒鳴る。
俺の台詞にわが意を得たり、とでも言う様に、負傷したレイを無理やり抱えて運び出す衛兵達。
「ルカ!?」
カイの抗議の声が聞こえる。彼女もまた、衛兵に羽交い絞めにされ、運び出されようとしていた。
「ルカ!私は残る!!」
じたばたもがいているが、いくら強いと言っても女性の力で、男数名の本気には敵わない。
俺は、敢えてカイを見ずに、
「お前は戻れ」
「何で!?」
未だ衛兵ともみ合っている彼女。
衛兵も何とかカイをなだめようと必死だが、聞く耳持っちゃいない。
「お前は、こんなとこで怪我したり、あまつさえ死んだりしちゃいけない人間だ。俺に、任せろ」
「いや!」
悲鳴一発。彼女はあろう事か脇を抱えていた一人をぶん殴った。
そしてそのまま、ものすごい気を吐いて、一喝する。
「ええい、下がれ!この無礼者共!!我が命を聞け!放せ!!」
カイの凛とした、王族のそれに、衛兵達は身体を強張らせ、力を緩める。
「お前達は戻り、場内外の警備にあたれ」
「・・カイ様は・・」
「私は残る!さあ、行け!命令無視で監獄に入れられたいか!!」
「は・・はっ!」
カイの脅迫じみた気迫に圧され、ばらばらと戻って行く衛兵達。
これで、ここに居るのは俺とカイ、そして、あのピエロの、三人だけだ。
カイは静かに俺の横に並び、ピエロを睨み付ける。
「・・・馬鹿が、何で残った」
目線はピエロから逸らさずに、しかし苦々しい口調で。
「相方見捨てて逃げるなんて、死ぬより嫌だ。これ、ルカの台詞よ」
「カイ、お前なあ・・」
「誰だって!」
俺の台詞を遮り、カイが続ける。
「誰だって、死んでいい人間なんて、居ないのよ・・」
その台詞に、息を飲んだ。
ピエロは、面白そうに彼女の台詞を聞いている。
「私は、ルカに死なれたくない」
そう、はっきりと言い切った。
「・・・・まいったね、こりゃ」
彼女に聞こえないくらい、小さく呟く。
どうやら、こいつには、隠し事も何もかも効かないみたいだ。
俺は小さく息を吐く。
俺が、彼女を『王族扱い』した事に、彼女は気付いたんだ。
そしてそれを嫌悪した。
今までどおりで何がいけないのか、と。
王族の命は大切で、庶民の命は無駄にしていいのか、と。
俺も彼女も、同等の人間同士ではないか、と。
俺は無造作に彼女に歩み寄り、その綺麗な金髪を一房握って、キスを落とす。
「悪かった。必ず勝つぞ。何なら、あの星にでも誓うか」
カイは、奴から視線を外さないまま、
「誓うなら、星なんかじゃなく、私に誓って」
ちゃきっ、と、正眼に剣を構え直して。
「絶対に死なないって、誓って」
「――分かった。誓うよ」
生き残ろう、二人で。
そして再び、戦いの幕が開くのだ。
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