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桃屋の創作テキスト置き場
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■BGM 2  ー愛し子の 墓辺吹く風 静かなれー  1■




 ―――小春日和である。
 午後になってもお日様は、ぽかぽかと街道を照らし続けている。
 俺達は、よーやっと見付けた街道沿いの飯屋で、遅い昼食を取っていた。
 店の女将・・・・って言うよりは「店のおばちゃん」と、「隣の店のおばちゃん」が、世間話なんぞしとる。
 しごく、平和な風景である。
 そのおばちゃん達の話し声をBGMに、俺はチキンソテーをレタスと一緒にパンに挟み、口に運ぶ。
「おばちゃーん、レモネードおかわり♪」
 サーモンフライをくわえつつ、店のおばちゃんに「にっこり」微笑み、知ってか知らずか、その笑顔で数多の女をオトしてる(と思う)俺の二月前からの旅の連れ。
 ―――カイ・ドゥルーガ。
 長身痩躯。眉目秀麗な容姿にプラスして、スゴ腕の剣の使い手であり、俺の命の恩人だったりもする。
 明らかにデカくて色気は無いが、悲しいかな、正真正銘のオンナノコである。
 ・・・・言っておくが、別にヒガんでる訳ではないぞ。
 念のため。

 ちなみに、スフィルス王国まで2週間で着く筈だったのに、何故未だにこんなトコでぶらついているかと言うと、
 ・・・まあ、早い話が路銀が底をついちゃったりしちゃった訳で。
 で、路銀稼ぐのにちょこちょこ仕事をこなしていたら、何時の間にやら二月も経ってしまった、とまあ、こーゆーオチである。

「はいよ、お待たせ。美人さん」
 おばちゃんは人の良さそうな笑みを浮かべつつ、カイにグラスを差し出す。
「こっちのちっこい美人さんにもサービスね」
 言っても一つグラスをよこす。
 ホクホクとそれを受け取る俺。
 ―――が。
「・・・待てぃ!!誰がちっこい美人じゃ!?」
 一瞬聞き流しそうになった自分を悔いつつも、おばちゃんに食って掛かる。
 しかし、おばちゃんは何食わぬ顔で、
「あらやだ、ちっこいのにでっかい声だねえ」
「そうなんですよ、でも色気が無くて・・・」
 カイが調子を合わせて苦笑いする。
 待て、コラ。
「そうかい、あんたみたいな美人さんがちっこいののお守りじゃ、大変だろうよ」
 ・・・・・・
 カイとおばちゃんは、俺の存在を亡き者にして、話を勝手に進めていく。
 
 ちくしょう。
 今に見ておれ。
 すぐにカイの背丈なんか抜かしちゃる!!・・・・・・・・・多分・・・・・。
 俺は不満気な顔で、付け合せのピクルスをガリガリ噛み砕いた。
「あんたら、スフィルス王国に行く気だったのかい?」
 おばちゃんの声で、はっ、と我に返る。
 オゴリのレモネードをこくこく飲み下し、
「――何かマズイの?スフィルス王国」
「まずいって言うかさ、観光づもりなら止めといた方がいいよ」
「何で?」
 俺は相変わらずストロー咥えつつ話をする。
 他の客は放っといていいのだろうか、と思ったが、昼時を過ぎていた為、店には俺とカイ以外の客は見当たらなかった。
「あそこの王様がさ、一昨日亡くなっちまったらしくて。国中あげての大騒ぎさ。行っても満足に観光なんか出来ないだろうよ」
 ため息をつきつつ、「良い王様だったのにねえ」と、少し寂しそうに呟いた。

 ―――カランッ

「あら、いらっしゃいませー」
 新たな客が入って来て、おばちゃんはそっちに向かう。
「とりあえず、お守り、頑張りなね」
 と、カイに向かってカラカラ笑いながら。
 ・・・・・ちっ・・・・・・・・
 俺は明らかに不機嫌な顔で、残りのレモネードをずぞぞぞぞ、と飲み下した。
「わざと言ってる訳じゃないんだから。ね?」
 と、俺の表情に気付いたカイが、指の背でこつん、と額をつついたのだった。

 
 勘定終えて、又ぷらぷらと街道を歩き、分岐点までやって来た俺とカイ。
「・・・どうすっかね」
 誰にとも無くぽつり、と呟く。
 分岐点には、ごくごくありがちな立て札。

 北東:スフィルス王国  ゲートまで4日
 北西:セイン・ロード王国  ゲートまで2日
 西:グランゾード共和国  ゲートまで12日

 ちろちろと目で追って、やおら声を上げる。
「うっし」
 俺は力強くぽんっ、と手を打って
「セイン・ロードにしよう」
 と断言するが、カイは何やら気乗りしない顔である。
「・・どした?カイ」
「いや、セイン・ロード、行くの?」
 どーにもこーにも、何だか煮え切らない感じである。
 いつもなら、俺の言う事には二つ返事でOKするのになあ。
 珍しくカイが不満を露わにしている。
 或いは、この顔を見るのは、俺は初めてではなかろうか。
 ―――何て、変なトコにちょっと感動してみたり。
 いやいや、そうじゃないだろうよ、俺。

「何でヤなの?」
「だって、ヤなんだもん」
「お前それ訳わかんねーよ」
「他のトコがいい~」
 何故かふて腐れて、頬をむう、と膨らませる。
 ――――あ、結構変な顔。

「他は遠いから嫌だ。セイン・ロードが一番近いし」
「近いし?」
 オウム返しに首を傾げて聞いてくるカイ。
 俺は一つにやり、と笑って、
「それに、どうあってもセイン・ロードに行く事になるぜ?」
 いたずらっぽく笑う俺に、カイは微かに眉を顰める。
「――なんで?」
 ふっ、まだまだ甘い。
 カイが俺の性格把握するには、もうしばし時間が必要な様である。
「何でって、こーするからだよ!」
 言うが早いか、俺は全力で走り出す。
 勿論、セイン・ロードに向かう街道を、だ。
「・・・え゛?あ゛!?うそ!ルカずるーい!!」
 はっ、と我に返って叫ぶカイ。
 しかし、俺は止まらない。
「ほれほれ、追いついてみろ!」
 言いつつてけてけと走る。
 これでカイが着いて来てくんなかったら、笑いモンだし、かなーり切なかったりするのだが。
 あいつの性格じゃ、なんだかんだ言ってもきっと後を追って来てくれるはずなのだ。
 いつもそうだった様に、カイは苦笑しながら俺の後を――――
 俺の後を―――
 ・・・・・・・・
 ・・・・何か自信なくなってきたかも・・・・
 ちょいとばかし不安になって、歩を緩めて肩越しに振り返る。
 豆粒大になったカイが、仕方ない、とでも言うように肩をすくめ、ちょこちょこちょこっ、と走り出すのが見えた。
 ほら、やっぱし着いて来た。
 ・・・・・
 ・・・・・良かった。ホント良かった。
 着いて来てくんなかったらどうしようかと、本気で焦ったのは内緒。

 俺は、カイの姿に安堵して息を吐くと、ゆっくりと歩き出した。
 カイの足なら、幾分もせずに追いつくだろう。
 
 ――でも、いつもよりちょっとだけゆっくり歩こう。

 なんて、ガラにも無いこと思っちゃったりしながら。
「ルーカー!待ってよーう」
 背後で聞こえるカイの苦笑交じりの声に、俺は振り返って笑う。
「やーだよーだ。早く追いつけ!」
 そして又、微笑みをたたえたまま、ゆっくりゆっくりと歩き出すのだった。
 早く、一秒でも早く、カイが横に並んで、一緒に歩いてくれるのを心待ちにしながら。

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