桃屋の創作テキスト置き場
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■BGM 2 ―愛し子の 墓辺吹く風 静かなれー 4■
澄み渡る青空。
風に揺らぐ木々のざわめき。
どこからか聞こえる鳥のさえずり。
俺は胸いっぱいに朝の空気を吸い込み、伸びをする。
「い~い天気だなあ」
遠く迄見渡せる小高い丘の様な場所。
勿論、街道ではあるのだが、その絶景に酔いしれ、休憩しつつ風景を眺めている人も少なくない。
その人達の横をゆっくりとした歩調ですり抜けて行く。
遠く、眼下に広がる広大な街並み。
白魔術都市、『聖なる道標(セイン・ロード)』は、もうすぐそこだ―――
◇
ようやくメインゲートまでやって来た俺とカイ。
カイの機嫌も直っていたし、俺は結構ウキウキで歩を進めていたのだが。
メインゲート付近に、やけに警備兵の数が多い事に気付き、一瞬首を傾げる。
「なんだあ?」
その異様とも言える過剰警備に、いささか間の抜けた声を漏らす。
しかも、入国審査待ちの旅人達の列。
吟遊詩人だろう若い男性。
おそらく行商だろうか、大きな荷物を背負っている初老の女性。
腰に剣を携えた流れの剣士。
しかし――
どうも一般人の多さが目に付く。
明らかに食堂なんかやってそうな夫婦や、物見遊山風なカップル、一目で農業やってる夫妻と分かるような人達まで。
「何か、あるのか?」
俺は隣に佇む美人オカマの相棒、もとい、『ちょっと男っぽいけど、実は女の子なのよ』なカイに問いかける。
カイはしばしの間、手を顎に持って行き思案して、
「あー」
と言ってにわかに顔をしかめた。
「何だよ」
「そっかー、アレか。すっかり忘れてた・・・・」
言いつつ暗い表情に変わって行き、そろそろと俺に視線を移すと、恐る恐る口を開き、
「・・・・やっぱり、やめない?ココ・・」
「何で」
「色々とメンドイと言うか、何と言うか、自由がなくなると言うか・・」
だんだん台詞が尻つぼみになって行き、最後は殆ど聞き取れない位である。
俺は無言でカイを見つめる。
カイも無言で俺を見つめる。
しばしの沈黙が流れた後――
「・・・・・分かったよ・・・私が悪かったですよ・・・」
涙流しつつがっくりと首をうなだれたのは、カイの方だった。
「で、結局この人の多さって?」
再び問いに戻る俺。
カイが一人で納得してしまって、一人置いてきぼりな俺は、唇をとんがらせる。
彼女はこちらを振り返り、
「大丈夫。ラクに入れるようにしたげる♪」
とう言うと、さっきの不安げな顔はどこへやら。
何故かそれこそにっっこりと微笑んだのだった。
そしてしばしの間―――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・をい」
「さ、準備OK~♪」
ご機嫌に言うカイと、おでこに怒りマーク乗せて眉間にシワ寄せる俺。
「ダメよルカ。もっと可愛い顔して。はい良いお顔~」
クスクスと意地の悪い笑みを浮かべつつ、俺の頬に手を置いて赤ん坊をあやすように言う。
「・・・・お前なあ・・・」
俺はひきつった顔のまま、疲れた声で問う。
「何で俺がこんな格好せにゃならんのだ」
「その方が早く入れるから」
俺のブチ切れ寸前な問いに、いともあっさりすっぱり答えて下さる。
「お前が着りゃ良いだろ!こんな服!!」
怒鳴って俺はひらひらの裾を持ち上げた。
「似合うんだから、気にしないの」
「俺は気にするし!」
「あー、何か何も聞こえないかも~」
「そーゆー逃げ方かよ!?」
・・・・・・・くっそー・・・・・
何が悲しゅーてこんな格好せにゃならんのだ。
故郷のかーちゃんに指さして笑われる・・・。
―――そう。
俺が今身に纏っているのは、明らかに女物の、ふりふりした可愛いピンクのワンピース。
髪の毛もご丁寧にカイによっていじられており、どこからどう見ても『可愛らしいお嬢さん』になっている。
何故自分で自分の事を『可愛らしい』なんて形容しなきゃならんのかとも思うが、この服に着替えてからわずかしか経過していないのに、もう三人にもナンパされたのだ。
毎回、カイが追っ払ってくれたけど。
けど。
―――――不毛。
明らかに機嫌の悪い俺の腕を取り、入国待ちの列を無視して『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたドアに勝手に入って行く。
「バカ、お前目玉あるだろ?」
焦ってカイの腕を引っ張るが、当の本人はお構いなしである。
「おい、ここは一般人は入室禁止だぞ」
案の定、警備兵の詰め所だったらしいこの部屋。
入ってすぐに一人の警備兵に声をかけられる。
「ほら、カイ、早く戻ろうぜ」
小声でひそひろ彼女に耳打ちをする俺を、いともあっさり無視をして、部屋中に聞こえる声量で喋り出す。
「ここのトップは誰?グラウヅ?レイニード?それとも別の誰か?」
数人居合わせた警備兵は、『こいつ何者だ?』と言う目でカイを眺めている。
「こいつらの上司は俺だが、何か用か」
声がしたのは、俺達二人の背後からだった。
「交代時間になってもやってこない部下を叱り飛ばしに来たんだが、どうやらお客さんらしいな」
慌てて声のする方向に振り返る。
そこに佇んでいたのは、がっしりとした体躯の、四十代半ばの男。
深紅の頭髪を後ろに流し、鋭い眼光をより一層際立たせている。
恐らく左官であろう階級章が、一瞬光に反射して輝く。
・・・・・・い・・・一触即発・・かなあ・・・・
俺は眼前のこの男を見上げ、頬を引きつらせる。
―――が。
「久しぶりグラウヅ。元気してた?」
「これはこれは・・・・まさかお戻りになられているとは」
「戻る予定は無かったんだけどね」
いきなり世間話を始める二人。
状況が飲み込めない俺と数人の警備兵達は、ぽかんとその様子を眺めている。
その様子に感づいた彼は、いささか大きな声で叱咤を飛ばした。
「ほら、お前ら、とっとと持ち場へ行かんか!」
「は・・はいっ!」
一喝されて大急ぎでバラバラとドアから出て行く警備兵達。
残されたのは、俺とカイ、そして目の前の―――
「ルカ」
いきなり名前を呼ばれてハッとする。
「こちら、市街警備担当のグラウヅ少佐。少佐、これ、連れのルカ」
「宜しく、ルカ殿」
お互いに激烈簡単な紹介が成され、差し伸べられた大きな手を握り返す。
「これはこれは、可愛らしいご婦人ですな」
「でしょ♪私のお気に入りのお嬢さんなのよ♪」
ふりひらドレスを着た俺を、愛しい娘でも見るかの様な眼差しで微笑むグラウヅ少佐。
いかつい顔とか裏腹に、案外温和そうな人なのかも知れないな。
「お似合いですな、そのドレス」
「・・・・・・・はあ、恐れ入ります・・・・・・・・」
―――これ以外にどう答えろと言うのだ。
「いや、このお連れのお方が女性で本当に良かった」
「は?何でですか?」
満足げに頷く少佐に、俺は顔を上げる。
「このグラウヅ、カイ殿を小さき頃より存じ上げておりますのでな。どこか娘に近い感情なのでしょうが」
言って少し恥ずかしげに後ろ頭を掻く。
「しかし、もし万が一お連れの方が男性であった場合、このグラウヅ、瞬時にたたっ斬っておりましたぞ」
言って腰の剣を抜き放ち、危険な笑みを浮かべる。
・・・・・訂正しよう。
ちっとも温和ではない。
「―――って事で、しばらくここいらでお世話になる事になると思うけど」
「は、お気をつけて」
カイに向かってビシっ、と最敬礼をする少佐。
しかしカイはその姿にクスリと声を漏らして、
「気をつけなくても良い様にするのが、あなた方のお勤めでしょう?」
「ご最も」
言って二人は笑い合う。
そしてカイは、普段男性が女性にする様に、ピッとした姿勢で俺に手を差し伸べ、エスコートする意思を見せる。
「参りましょう」
言って、にっこりと微笑んだ。
その目は、あくまでも『淑女らしくね』と言っていて。
俺は一瞬躊躇したが、ここで男だとばれて少佐に斬られる事を考えると、にっこり笑ってカイの腕に自分の腕を絡ませる。
「参りましょうか」
「行ってらっしゃいませ」
腕を組んでゲート内に踏み出す俺達二人を、少佐はしばらくの間最敬礼で見送ってくれた。
「ね、簡単だったでしょ」
「・・・まあな」
聞きたいことは山のようにあるのだが、今はグラウヅ少佐の目の届かない所まで行くのと、この姿をどうにかするのが先決である。
俺とカイは、未だに男女立場逆転のまま、傍目には仲むつまじく手を取り合って歩いて行くのだった―――
澄み渡る青空。
風に揺らぐ木々のざわめき。
どこからか聞こえる鳥のさえずり。
俺は胸いっぱいに朝の空気を吸い込み、伸びをする。
「い~い天気だなあ」
遠く迄見渡せる小高い丘の様な場所。
勿論、街道ではあるのだが、その絶景に酔いしれ、休憩しつつ風景を眺めている人も少なくない。
その人達の横をゆっくりとした歩調ですり抜けて行く。
遠く、眼下に広がる広大な街並み。
白魔術都市、『聖なる道標(セイン・ロード)』は、もうすぐそこだ―――
◇
ようやくメインゲートまでやって来た俺とカイ。
カイの機嫌も直っていたし、俺は結構ウキウキで歩を進めていたのだが。
メインゲート付近に、やけに警備兵の数が多い事に気付き、一瞬首を傾げる。
「なんだあ?」
その異様とも言える過剰警備に、いささか間の抜けた声を漏らす。
しかも、入国審査待ちの旅人達の列。
吟遊詩人だろう若い男性。
おそらく行商だろうか、大きな荷物を背負っている初老の女性。
腰に剣を携えた流れの剣士。
しかし――
どうも一般人の多さが目に付く。
明らかに食堂なんかやってそうな夫婦や、物見遊山風なカップル、一目で農業やってる夫妻と分かるような人達まで。
「何か、あるのか?」
俺は隣に佇む美人オカマの相棒、もとい、『ちょっと男っぽいけど、実は女の子なのよ』なカイに問いかける。
カイはしばしの間、手を顎に持って行き思案して、
「あー」
と言ってにわかに顔をしかめた。
「何だよ」
「そっかー、アレか。すっかり忘れてた・・・・」
言いつつ暗い表情に変わって行き、そろそろと俺に視線を移すと、恐る恐る口を開き、
「・・・・やっぱり、やめない?ココ・・」
「何で」
「色々とメンドイと言うか、何と言うか、自由がなくなると言うか・・」
だんだん台詞が尻つぼみになって行き、最後は殆ど聞き取れない位である。
俺は無言でカイを見つめる。
カイも無言で俺を見つめる。
しばしの沈黙が流れた後――
「・・・・・分かったよ・・・私が悪かったですよ・・・」
涙流しつつがっくりと首をうなだれたのは、カイの方だった。
「で、結局この人の多さって?」
再び問いに戻る俺。
カイが一人で納得してしまって、一人置いてきぼりな俺は、唇をとんがらせる。
彼女はこちらを振り返り、
「大丈夫。ラクに入れるようにしたげる♪」
とう言うと、さっきの不安げな顔はどこへやら。
何故かそれこそにっっこりと微笑んだのだった。
そしてしばしの間―――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・をい」
「さ、準備OK~♪」
ご機嫌に言うカイと、おでこに怒りマーク乗せて眉間にシワ寄せる俺。
「ダメよルカ。もっと可愛い顔して。はい良いお顔~」
クスクスと意地の悪い笑みを浮かべつつ、俺の頬に手を置いて赤ん坊をあやすように言う。
「・・・・お前なあ・・・」
俺はひきつった顔のまま、疲れた声で問う。
「何で俺がこんな格好せにゃならんのだ」
「その方が早く入れるから」
俺のブチ切れ寸前な問いに、いともあっさりすっぱり答えて下さる。
「お前が着りゃ良いだろ!こんな服!!」
怒鳴って俺はひらひらの裾を持ち上げた。
「似合うんだから、気にしないの」
「俺は気にするし!」
「あー、何か何も聞こえないかも~」
「そーゆー逃げ方かよ!?」
・・・・・・・くっそー・・・・・
何が悲しゅーてこんな格好せにゃならんのだ。
故郷のかーちゃんに指さして笑われる・・・。
―――そう。
俺が今身に纏っているのは、明らかに女物の、ふりふりした可愛いピンクのワンピース。
髪の毛もご丁寧にカイによっていじられており、どこからどう見ても『可愛らしいお嬢さん』になっている。
何故自分で自分の事を『可愛らしい』なんて形容しなきゃならんのかとも思うが、この服に着替えてからわずかしか経過していないのに、もう三人にもナンパされたのだ。
毎回、カイが追っ払ってくれたけど。
けど。
―――――不毛。
明らかに機嫌の悪い俺の腕を取り、入国待ちの列を無視して『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたドアに勝手に入って行く。
「バカ、お前目玉あるだろ?」
焦ってカイの腕を引っ張るが、当の本人はお構いなしである。
「おい、ここは一般人は入室禁止だぞ」
案の定、警備兵の詰め所だったらしいこの部屋。
入ってすぐに一人の警備兵に声をかけられる。
「ほら、カイ、早く戻ろうぜ」
小声でひそひろ彼女に耳打ちをする俺を、いともあっさり無視をして、部屋中に聞こえる声量で喋り出す。
「ここのトップは誰?グラウヅ?レイニード?それとも別の誰か?」
数人居合わせた警備兵は、『こいつ何者だ?』と言う目でカイを眺めている。
「こいつらの上司は俺だが、何か用か」
声がしたのは、俺達二人の背後からだった。
「交代時間になってもやってこない部下を叱り飛ばしに来たんだが、どうやらお客さんらしいな」
慌てて声のする方向に振り返る。
そこに佇んでいたのは、がっしりとした体躯の、四十代半ばの男。
深紅の頭髪を後ろに流し、鋭い眼光をより一層際立たせている。
恐らく左官であろう階級章が、一瞬光に反射して輝く。
・・・・・・い・・・一触即発・・かなあ・・・・
俺は眼前のこの男を見上げ、頬を引きつらせる。
―――が。
「久しぶりグラウヅ。元気してた?」
「これはこれは・・・・まさかお戻りになられているとは」
「戻る予定は無かったんだけどね」
いきなり世間話を始める二人。
状況が飲み込めない俺と数人の警備兵達は、ぽかんとその様子を眺めている。
その様子に感づいた彼は、いささか大きな声で叱咤を飛ばした。
「ほら、お前ら、とっとと持ち場へ行かんか!」
「は・・はいっ!」
一喝されて大急ぎでバラバラとドアから出て行く警備兵達。
残されたのは、俺とカイ、そして目の前の―――
「ルカ」
いきなり名前を呼ばれてハッとする。
「こちら、市街警備担当のグラウヅ少佐。少佐、これ、連れのルカ」
「宜しく、ルカ殿」
お互いに激烈簡単な紹介が成され、差し伸べられた大きな手を握り返す。
「これはこれは、可愛らしいご婦人ですな」
「でしょ♪私のお気に入りのお嬢さんなのよ♪」
ふりひらドレスを着た俺を、愛しい娘でも見るかの様な眼差しで微笑むグラウヅ少佐。
いかつい顔とか裏腹に、案外温和そうな人なのかも知れないな。
「お似合いですな、そのドレス」
「・・・・・・・はあ、恐れ入ります・・・・・・・・」
―――これ以外にどう答えろと言うのだ。
「いや、このお連れのお方が女性で本当に良かった」
「は?何でですか?」
満足げに頷く少佐に、俺は顔を上げる。
「このグラウヅ、カイ殿を小さき頃より存じ上げておりますのでな。どこか娘に近い感情なのでしょうが」
言って少し恥ずかしげに後ろ頭を掻く。
「しかし、もし万が一お連れの方が男性であった場合、このグラウヅ、瞬時にたたっ斬っておりましたぞ」
言って腰の剣を抜き放ち、危険な笑みを浮かべる。
・・・・・訂正しよう。
ちっとも温和ではない。
「―――って事で、しばらくここいらでお世話になる事になると思うけど」
「は、お気をつけて」
カイに向かってビシっ、と最敬礼をする少佐。
しかしカイはその姿にクスリと声を漏らして、
「気をつけなくても良い様にするのが、あなた方のお勤めでしょう?」
「ご最も」
言って二人は笑い合う。
そしてカイは、普段男性が女性にする様に、ピッとした姿勢で俺に手を差し伸べ、エスコートする意思を見せる。
「参りましょう」
言って、にっこりと微笑んだ。
その目は、あくまでも『淑女らしくね』と言っていて。
俺は一瞬躊躇したが、ここで男だとばれて少佐に斬られる事を考えると、にっこり笑ってカイの腕に自分の腕を絡ませる。
「参りましょうか」
「行ってらっしゃいませ」
腕を組んでゲート内に踏み出す俺達二人を、少佐はしばらくの間最敬礼で見送ってくれた。
「ね、簡単だったでしょ」
「・・・まあな」
聞きたいことは山のようにあるのだが、今はグラウヅ少佐の目の届かない所まで行くのと、この姿をどうにかするのが先決である。
俺とカイは、未だに男女立場逆転のまま、傍目には仲むつまじく手を取り合って歩いて行くのだった―――
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