桃屋の創作テキスト置き場
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
■BGM 2 ―愛し子の 墓辺吹く風 静かなれ― 5■
―――カイが居ない。
別に喧嘩をした訳じゃないし、一緒に旅をするのを止めた訳でもない。
ただ、今俺の横にカイが居ない。
何だか、不思議だった。
たった二ヶ月前に出会って、一緒に旅をするようになって。
その時から、俺の横にはいつもカイが居た。
それが当たり前になっていた。
「・・・・んな訳ねーのにな」
ぽつりとこぼす。
帰ってくるのは分かっている。
夕方、宿で落ち合おうと言って、早めに宿の手配をしたのはカイ。
それまでの間は自由行動ね。
そう言って、どこかへ足早に消えてしまったのだ。
「どこいったんだろ・・」
気にならないと言えば嘘になる。
いや、実際気になっているのだ。
セイン・ロードはカイの母国。
ならば、会いたい人間の一人や二人居るのが当然だろう。
しかし、どうもそーゆー風には見えなかったのも事実。
会いたい人間の元にわくわくして向かう―――
とてもそんな風には見えなかったのだ。
どちらかと言うと、行きたくないけれど、行かねばならない、と言った様な。
だからこそ、俺は彼女がどこへ向かったのか気になって仕方無いのだ。
帰ってきて、話してくれるだろうか。
それともまだ、カイの言う「その時」ではないから、言ってはくれないのだろうか。
・・・・・
・・・・・
「・・・・・早くお日様隠れないかなあ・・・」
一人、沈み行く太陽に、「もっと早く!」と願をかける、おかしな俺がいた。
◇
お日様も徐々に隠れ出し、辺りが暗くなり始め、俺はいそいそと例の宿へ向かう。
「俺とカイ、どっちが早く着くかな」
足取りが軽くなるのは否定しない。
何でかは分からないが、事実なので致し方ない。
道を曲がろうと、身を翻した瞬間―――
ちゅどどごどごごどどっ!!
「な、なんだあ?」
突如上がった爆炎に、その方向へと目を移す。
「おいおいおい、近いじゃねーか」
言うが早いか俺は急ぎ走り出す。
目測よりも幾分現場は近かったらしく、数分走るうちに焦げ臭い臭いと共に、まだ煙の燻っている地面とご対面した。
――くん
俺は鼻を鳴らす。
「・・・魔術の炎で爆発させたってカンジだな、こりゃ」
未だざわつく野次馬達を押しのけながら、俺は現場の中心部に向かう。
そこには、見るからに悪そうな男三人と、それに立ちはだかるように立つ男一人、そしてその影で腰を抜かして震えている女が一人。
まあ、野党共にからまれた彼女を守ろうと、彼氏が術ぶっ放した、とか、そんなとこだろう。
要するに、痴情のもつれとかゆーやつである。
「走ってきて損したかも」
俺は小さく呟くと、ひょいと野党の一人の後ろに回り込み、奴らが気付く間もなく順々に手刀を打ち込んで行く。
「げ」
「ぐわ」
「げふ」
思い思いの声を上げながら、地面にばたばたと倒れ伏していく野党さん達。
「ほれ、早く逃げな」
言いつつ未だに座り込んでいる彼女に手を貸し、立ち上がらせて服のホコリをはらってやる。
「彼氏も、役人が来て大事になる前に、彼女連れて逃げた方が・・・」
俺が最後まで言い終わらないうちに、女の方はさっさと一目散に逃げ出してしまった。
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・えっーと。
「・・・いいの?お宅の彼女、逃げちゃったけど?」
俺はぽりぽり頬をかきながら、例の彼氏とおぼしき男を見上げる(どーせ俺は小さいですよ!)
「んー、まあ仕方ないでしょ」
答えてこちらに視線を落とす男。
―――うはあ
俺は思わず心の中で感嘆符を漏らす。
目の前に佇むこの男、かなりの長身である。恐らくは俺と頭一個近く違うんではなかろうか。
栗色の頭髪、切れ長の目には、意識せずとも漂う色香すら見える。
年の頃なら二十歳前後といったところか。
声をかければ女の子の一人や二人や十人くらい、すぐにでもひっかかりそうな容姿の持ち主である。
「仕方ないって・・自分の彼女ほっぽっちゃう訳?」
俺は呆れながら男の後ろに回りこみ、気絶している野党三人を道の端っこに寄せる。
道行く人の邪魔にならないように、との配慮である。
うん、やっぱり俺ってば結構偉い子なのだ。
「だってあれ、俺の女じゃないし」
ものすごい台詞を吐きつつ、俺に手を貸す。
「んじゃ、行きずりでからまれた彼女助けようとしたクチか?」
だとしたら、コイツは野党三人すら倒せない力の持ち主、と言う事になる。
厄介事に首突っ込む位なら、まあソレ相応の力持ってて欲しいもんではあるが。
俺が一人思案していると、男は再びとんでもない事をさらりと言い放つ。
「いや、なんかさ可愛かったから。お茶でも如何ですかって誘ったら、いきなり悲鳴上げられてさあ」
「・・・はあ」
「そしたらあいつら三人が出て来て」
「・・・・・・・はあ」
「彼女に先に目を付けたのは自分達だって言い出してさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は今猛烈に後悔していた。
コイツ自身もナンパだったなんて・・・・・。
「あ・・あああああ」
俺は疲れた声で首をかくん、とうなだれた。
「全く、せっかく誘ったのに、嫌になっちゃうよね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・そうね」
俺は人知れず、時間を無駄に使ってしまった事に涙しながら、適当に相槌を打つのだった。
「それはそうと――」
刹那、男の声音が変わる。
するりと手を伸ばし、俺の右腕をがっちりと掴み、
「何だよ!?」
いきなりの事に抗議するが、相手の力が想像以上に強く、振り解けなかった。
「君、結構可愛いね」
言うなりものすごい力で引き寄せ、左腕で俺の右腕を掴んだまま、空いた右腕で俺の腰をがっちりと羽交い絞めにする。
「ぎゃ―――!!待て!落ち着け!早まるな!!」
血相変えて必死にじたばたもがく俺を、小さく一つの苦笑で済ませて。
「待たない。落ち着かない。早まってみよう」
「みよう、じゃねえ!」
足を必死に踏ん張り、腕の中から逃げようとするのだが敵わない。
「逃がした魚より、目の前の魚の方が好みだ」
にやり、と笑って迫ってくる。
コイツ、さっきの彼女にもこんな感じだったのか!?
だとしたら、悲鳴上げて逃げていった理由も分かるってなもんである。
「俺は男だあああ!」
「またまたそんな」
「嘘じゃねえ~!」
もがきつつ、空いている方の手で急ぎ印を結び、発動させる。
「炸裂噴陣(ブラド・ディスガッシュ)!」
きゅどどごごどどどどど!
凄まじい轟音と共に、足元の地面そのものが天高く吹き上がる。
最もこの術、音と煙がすごいだけで、実質人間に出る被害は少ない。
要するに、コケ脅かしの術なのだが。
追記するならば、魔力増幅をかけたり、もともとキャパシティの高い奴が本気で発動させたりすると、殺傷能力も出てくる。
今俺が使ったのは、術を少々アレンジして、殺傷能力を極端に落としたものである。
――ぴゅう。
男が口笛を吹く。
今の爆炎で、俺はようやっと男の腕から逃れていた。
「すごいね、魔道士?」
「まあな」
感嘆する男に、そっけなく答える俺。
そこに、
「あ、やっぱりルカだった!」
走りながらやってくる一つの影。
「カイ!」
俺は声の主を見つけると、途端に眉間のしわを解除し、彼女に駆け寄る。
「爆発の中心地に来たら、やっぱり居た」
言いながら苦笑する彼女。
まあ、俺の性格を把握しているのはあり難いが、何にでも首を突っ込むと思われている感があるのが何とも。
―――じゃなくて。
「カイ、どうでもいいけど早く帰ろう」
「何で?何かあったの?」
首をかしげるカイを尻目に、俺は彼女の腕を掴み、
「あの背後にいる男、ヘンタイだから、とっとと逃げるぞ」
言うが早いか歩き出そうとする。
―――が。
「後ろの男って・・・」
そう言ってカイが振り返り、
硬直した。
「・・・・どした?カイ?」
ぴたりと足を止め、呆然と佇む彼女の顔を覗き込む。
が、その視線に俺は映っていない様だ。
「カイ?」
男がカイを名前を呟く。
「あ・・」
カイが眼を見開き、二の句を続けるより早く、男はふわり、と彼女を抱き上げ――
「ああああ!貴様!何しやがる!」
食って掛かる俺はナチュラルに無視されて、男はさも嬉しげに強くカイを抱き締めた。
ぎゃ―――!!
カイが変態の魔の手に!!
「カイ、会いたかった」
あろう事か。
あろう事か男は、抱き上げたカイを見つめ、
「愛してるよ」
言うなり奴はカイの頬やらおでこやらそこかしこに、キスの雨を降らせた。
「何なんだお前――!!」
俺がこぶし握り締め叫ぶと、カイは慌ててこちらを見て、
「待ってルカ!怒っちゃダメ!」
「阿呆!この状況で冷静でいろってのが無理な話なんだよ!」
むかむかしながら腕まくりしつつ、のしのしと歩み寄る。
「違うの!」
「何が!」
必死の大声と、切れかけの大声の押収。
「これ、私の兄ちゃんなの!!」
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
「はい?」
「だから、この人、私の兄貴なの」
「・・・・えーっと」
「オニイサン?」
「そう、おにいさん」
「あ・・・そう・・・」
何だかやり場の無い怒りを抱えたまま、俺は意気消沈するしかなかった。
・・・何だかなあ・・・
「カイ、こちらは?」
カイの『オニイサン』が、こちらに視線を向けて問う。
「あ、こっちは――」
彼の腕の中から滑り降り、二人の間に立って、
「旅の連れのルカ。兄貴のレイ」
カイは、グラウヅ少佐の時同様、激烈簡単にお互いを紹介する。
「・・・・・はあ」
「ルカちゃんね、宜しく」
魂が半分抜けたように返事をする俺に対し、レイとやらは営業スマイル宜しく、それこそにっこりと微笑し、俺の手を取り、その甲に軽く口づけた。
「げ!」
「兄貴、ルカは男だよ、一応」
「一応って何だよ一応って」
「あ、気にしないで♪」
口論する俺達を止めるように会話に入り込み、ひらひらと手を振るレイ。
「気にしないでって・・・まさか・・」
俺は嫌な汗を背中に感じながら、震えた声で問う。
「そ、そのまさか」
当のレイは、にっこりと笑ったまま続ける。
「俺、バイだから♪」
―――やっぱり。
真っ青になって引きつる俺に、レイは器用にウィンクを飛ばしてくれた。
俺の意識が、遠くに浪漫飛行しかけた事は、追記しておくべきなのだろうか―――
―――カイが居ない。
別に喧嘩をした訳じゃないし、一緒に旅をするのを止めた訳でもない。
ただ、今俺の横にカイが居ない。
何だか、不思議だった。
たった二ヶ月前に出会って、一緒に旅をするようになって。
その時から、俺の横にはいつもカイが居た。
それが当たり前になっていた。
「・・・・んな訳ねーのにな」
ぽつりとこぼす。
帰ってくるのは分かっている。
夕方、宿で落ち合おうと言って、早めに宿の手配をしたのはカイ。
それまでの間は自由行動ね。
そう言って、どこかへ足早に消えてしまったのだ。
「どこいったんだろ・・」
気にならないと言えば嘘になる。
いや、実際気になっているのだ。
セイン・ロードはカイの母国。
ならば、会いたい人間の一人や二人居るのが当然だろう。
しかし、どうもそーゆー風には見えなかったのも事実。
会いたい人間の元にわくわくして向かう―――
とてもそんな風には見えなかったのだ。
どちらかと言うと、行きたくないけれど、行かねばならない、と言った様な。
だからこそ、俺は彼女がどこへ向かったのか気になって仕方無いのだ。
帰ってきて、話してくれるだろうか。
それともまだ、カイの言う「その時」ではないから、言ってはくれないのだろうか。
・・・・・
・・・・・
「・・・・・早くお日様隠れないかなあ・・・」
一人、沈み行く太陽に、「もっと早く!」と願をかける、おかしな俺がいた。
◇
お日様も徐々に隠れ出し、辺りが暗くなり始め、俺はいそいそと例の宿へ向かう。
「俺とカイ、どっちが早く着くかな」
足取りが軽くなるのは否定しない。
何でかは分からないが、事実なので致し方ない。
道を曲がろうと、身を翻した瞬間―――
ちゅどどごどごごどどっ!!
「な、なんだあ?」
突如上がった爆炎に、その方向へと目を移す。
「おいおいおい、近いじゃねーか」
言うが早いか俺は急ぎ走り出す。
目測よりも幾分現場は近かったらしく、数分走るうちに焦げ臭い臭いと共に、まだ煙の燻っている地面とご対面した。
――くん
俺は鼻を鳴らす。
「・・・魔術の炎で爆発させたってカンジだな、こりゃ」
未だざわつく野次馬達を押しのけながら、俺は現場の中心部に向かう。
そこには、見るからに悪そうな男三人と、それに立ちはだかるように立つ男一人、そしてその影で腰を抜かして震えている女が一人。
まあ、野党共にからまれた彼女を守ろうと、彼氏が術ぶっ放した、とか、そんなとこだろう。
要するに、痴情のもつれとかゆーやつである。
「走ってきて損したかも」
俺は小さく呟くと、ひょいと野党の一人の後ろに回り込み、奴らが気付く間もなく順々に手刀を打ち込んで行く。
「げ」
「ぐわ」
「げふ」
思い思いの声を上げながら、地面にばたばたと倒れ伏していく野党さん達。
「ほれ、早く逃げな」
言いつつ未だに座り込んでいる彼女に手を貸し、立ち上がらせて服のホコリをはらってやる。
「彼氏も、役人が来て大事になる前に、彼女連れて逃げた方が・・・」
俺が最後まで言い終わらないうちに、女の方はさっさと一目散に逃げ出してしまった。
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・えっーと。
「・・・いいの?お宅の彼女、逃げちゃったけど?」
俺はぽりぽり頬をかきながら、例の彼氏とおぼしき男を見上げる(どーせ俺は小さいですよ!)
「んー、まあ仕方ないでしょ」
答えてこちらに視線を落とす男。
―――うはあ
俺は思わず心の中で感嘆符を漏らす。
目の前に佇むこの男、かなりの長身である。恐らくは俺と頭一個近く違うんではなかろうか。
栗色の頭髪、切れ長の目には、意識せずとも漂う色香すら見える。
年の頃なら二十歳前後といったところか。
声をかければ女の子の一人や二人や十人くらい、すぐにでもひっかかりそうな容姿の持ち主である。
「仕方ないって・・自分の彼女ほっぽっちゃう訳?」
俺は呆れながら男の後ろに回りこみ、気絶している野党三人を道の端っこに寄せる。
道行く人の邪魔にならないように、との配慮である。
うん、やっぱり俺ってば結構偉い子なのだ。
「だってあれ、俺の女じゃないし」
ものすごい台詞を吐きつつ、俺に手を貸す。
「んじゃ、行きずりでからまれた彼女助けようとしたクチか?」
だとしたら、コイツは野党三人すら倒せない力の持ち主、と言う事になる。
厄介事に首突っ込む位なら、まあソレ相応の力持ってて欲しいもんではあるが。
俺が一人思案していると、男は再びとんでもない事をさらりと言い放つ。
「いや、なんかさ可愛かったから。お茶でも如何ですかって誘ったら、いきなり悲鳴上げられてさあ」
「・・・はあ」
「そしたらあいつら三人が出て来て」
「・・・・・・・はあ」
「彼女に先に目を付けたのは自分達だって言い出してさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は今猛烈に後悔していた。
コイツ自身もナンパだったなんて・・・・・。
「あ・・あああああ」
俺は疲れた声で首をかくん、とうなだれた。
「全く、せっかく誘ったのに、嫌になっちゃうよね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・そうね」
俺は人知れず、時間を無駄に使ってしまった事に涙しながら、適当に相槌を打つのだった。
「それはそうと――」
刹那、男の声音が変わる。
するりと手を伸ばし、俺の右腕をがっちりと掴み、
「何だよ!?」
いきなりの事に抗議するが、相手の力が想像以上に強く、振り解けなかった。
「君、結構可愛いね」
言うなりものすごい力で引き寄せ、左腕で俺の右腕を掴んだまま、空いた右腕で俺の腰をがっちりと羽交い絞めにする。
「ぎゃ―――!!待て!落ち着け!早まるな!!」
血相変えて必死にじたばたもがく俺を、小さく一つの苦笑で済ませて。
「待たない。落ち着かない。早まってみよう」
「みよう、じゃねえ!」
足を必死に踏ん張り、腕の中から逃げようとするのだが敵わない。
「逃がした魚より、目の前の魚の方が好みだ」
にやり、と笑って迫ってくる。
コイツ、さっきの彼女にもこんな感じだったのか!?
だとしたら、悲鳴上げて逃げていった理由も分かるってなもんである。
「俺は男だあああ!」
「またまたそんな」
「嘘じゃねえ~!」
もがきつつ、空いている方の手で急ぎ印を結び、発動させる。
「炸裂噴陣(ブラド・ディスガッシュ)!」
きゅどどごごどどどどど!
凄まじい轟音と共に、足元の地面そのものが天高く吹き上がる。
最もこの術、音と煙がすごいだけで、実質人間に出る被害は少ない。
要するに、コケ脅かしの術なのだが。
追記するならば、魔力増幅をかけたり、もともとキャパシティの高い奴が本気で発動させたりすると、殺傷能力も出てくる。
今俺が使ったのは、術を少々アレンジして、殺傷能力を極端に落としたものである。
――ぴゅう。
男が口笛を吹く。
今の爆炎で、俺はようやっと男の腕から逃れていた。
「すごいね、魔道士?」
「まあな」
感嘆する男に、そっけなく答える俺。
そこに、
「あ、やっぱりルカだった!」
走りながらやってくる一つの影。
「カイ!」
俺は声の主を見つけると、途端に眉間のしわを解除し、彼女に駆け寄る。
「爆発の中心地に来たら、やっぱり居た」
言いながら苦笑する彼女。
まあ、俺の性格を把握しているのはあり難いが、何にでも首を突っ込むと思われている感があるのが何とも。
―――じゃなくて。
「カイ、どうでもいいけど早く帰ろう」
「何で?何かあったの?」
首をかしげるカイを尻目に、俺は彼女の腕を掴み、
「あの背後にいる男、ヘンタイだから、とっとと逃げるぞ」
言うが早いか歩き出そうとする。
―――が。
「後ろの男って・・・」
そう言ってカイが振り返り、
硬直した。
「・・・・どした?カイ?」
ぴたりと足を止め、呆然と佇む彼女の顔を覗き込む。
が、その視線に俺は映っていない様だ。
「カイ?」
男がカイを名前を呟く。
「あ・・」
カイが眼を見開き、二の句を続けるより早く、男はふわり、と彼女を抱き上げ――
「ああああ!貴様!何しやがる!」
食って掛かる俺はナチュラルに無視されて、男はさも嬉しげに強くカイを抱き締めた。
ぎゃ―――!!
カイが変態の魔の手に!!
「カイ、会いたかった」
あろう事か。
あろう事か男は、抱き上げたカイを見つめ、
「愛してるよ」
言うなり奴はカイの頬やらおでこやらそこかしこに、キスの雨を降らせた。
「何なんだお前――!!」
俺がこぶし握り締め叫ぶと、カイは慌ててこちらを見て、
「待ってルカ!怒っちゃダメ!」
「阿呆!この状況で冷静でいろってのが無理な話なんだよ!」
むかむかしながら腕まくりしつつ、のしのしと歩み寄る。
「違うの!」
「何が!」
必死の大声と、切れかけの大声の押収。
「これ、私の兄ちゃんなの!!」
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
「はい?」
「だから、この人、私の兄貴なの」
「・・・・えーっと」
「オニイサン?」
「そう、おにいさん」
「あ・・・そう・・・」
何だかやり場の無い怒りを抱えたまま、俺は意気消沈するしかなかった。
・・・何だかなあ・・・
「カイ、こちらは?」
カイの『オニイサン』が、こちらに視線を向けて問う。
「あ、こっちは――」
彼の腕の中から滑り降り、二人の間に立って、
「旅の連れのルカ。兄貴のレイ」
カイは、グラウヅ少佐の時同様、激烈簡単にお互いを紹介する。
「・・・・・はあ」
「ルカちゃんね、宜しく」
魂が半分抜けたように返事をする俺に対し、レイとやらは営業スマイル宜しく、それこそにっこりと微笑し、俺の手を取り、その甲に軽く口づけた。
「げ!」
「兄貴、ルカは男だよ、一応」
「一応って何だよ一応って」
「あ、気にしないで♪」
口論する俺達を止めるように会話に入り込み、ひらひらと手を振るレイ。
「気にしないでって・・・まさか・・」
俺は嫌な汗を背中に感じながら、震えた声で問う。
「そ、そのまさか」
当のレイは、にっこりと笑ったまま続ける。
「俺、バイだから♪」
―――やっぱり。
真っ青になって引きつる俺に、レイは器用にウィンクを飛ばしてくれた。
俺の意識が、遠くに浪漫飛行しかけた事は、追記しておくべきなのだろうか―――
PR
Comment
カテゴリー
最新記事
(02/24)
(02/24)
(02/24)
(02/24)
(02/24)
カレンダー
最新コメント
プロフィール
HN:
mamyo
性別:
非公開
ブログ内検索