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桃屋の創作テキスト置き場
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■キャパシティ■




「ねえルカ」


 並んで歩いていると、いきなり彼女が口を開いた。


「何だよ」


 俺はいつものように彼女の横を歩きながら、ようやく同じくらいの目線になった彼女を見る。
 彼女は自慢の金髪の美しい長髪を風にまかせ、いたずらっぽく微笑んだ。



「あたしと出会えて嬉しい?」
「はっ!?」



 予想だにしなかった問いかけに、思わずかえるのような声を出す。


「あたしと出会えて、嬉しい?」


 答えられなかった俺を許そうとせずに、彼女は同じ台詞を唇に乗せる。
 いきなりな問いかけと、そんなもんわざわざ聞かなくたって分かるだろうという思いと、恥ずかしいのとがごっちゃになって、俺は頬を染めたままそっぽを向く。


「ねえ、ルカ?」


 覗き込まれたら、もう降参。



「・・・・・そりゃ、そーだろ」
「ん?」


 さっきより朱が走っているのを感じた頬に、落ち着け!と自分で唱えながら。




「お前に出会えて、嬉しいよ、俺は」

「よかった」



 辛うじて掠れるのを免れた程度の音量で、俺はぼそぼそと早口に呟く。
 耳元でその声を拾った彼女は、嬉しそうに微笑んだ。


「なんで」
「ん?」


「なんでわざわざンな事聞くんだよ?」


 聞かなくたって、俺の心なんかとっくにお見通しのくせに。
 
 後ろの言葉は、飲み込んで。



「言葉はね」



 数歩先を歩いていた彼女が振り返って言う。



「言葉は、たまには形にしてもらいたがってるもんよ」



 後ろ歩きのまま、逆光になった彼女が続ける。


「ついでに、あたしもそれのご相伴に預かりたいなーとかも思うわけですよ」

「―――っ!」


 ・・・・あああ、今日もまた反則技を使われて。
 俺が勝てる日なんて、恐らくずっと無いんだ。
 なんて思っちゃったりして。

 でも、目の前で微笑む女神みたいな彼女にだったら、それで本望だったりもする。



「ちっくしょー」
「どしたの?」



 ふて腐れる俺を不思議そうな瞳で覗き込む。



「何か俺だけ損した気がする」
「そお?」



 言うなり彼女は俺の手を引いて、唇を耳に寄せる。




「あたしも、ルカと出会えて幸せだから」




 ―――ほら、またやられた。




 そろそろ俺の許容量も、キャパオーバーになりそうだなんて考えつつ、
 彼女の髪の毛を指でするりと梳いた。

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