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桃屋の創作テキスト置き場
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■BGM PROLOGUE 3■




 カイが疾る!
 ピエロに向かって。
 っイイイイイイイイインッ!
 カイの剣が、奴のカギ爪とぶつかり、空気を震わせる。
 彼の剣で、ピエロの爪が折れ、地面に突き刺さる。
 刹那、踏み込むカイ。
 しかし―――
 次の瞬間、退いたのは彼の方だった。肩口から、一筋の血を流して。
「甘くみられたものですね」
 ピエロが実にこの場にそぐわない、嬉々とした声で言う。
 カイに打ち折られた筈のカギ爪は、その折られた痕跡すら残さず綺麗に復活していた。
「・・・・なかなか素敵に反則技だねえ」
 恐らく、カギ爪にやられたのだろう。
 頬からも一筋の血を流し、カイは間合いを取る。
「でも、何回もそのだまし打ちみたいなのが、効くかな?」
 ちゃきっ、と音を立てて、剣を構え直す。
「―ふむ、ではこういうのは如何ですか?」
 ピエロがそう言うと、虚空から黒いつぶてが現れ、奴の横にわだかまる。

 バジュ!
 
 嫌な音を立てて、カイが今の今まで立っていた地面に、そのつぶてが突き刺さる。
 何の事は無しに四散したが、人体にこれを食らったらどうなるかなんて、試してみる気など更々無い。

「黒龍炎!(ブラド・ラグア)」

 俺は結んでいた印を解放する。
 黒い龍を象った闇、としか呼べない代物が、ピエロに向かって突き進む。
「ちいっ!」
 こちらの動きに気付いたか、大きく後ろへ跳び退る。
「邪魔立ては無用でございますよ、お連れの方」
「けっ、黙って見ていられる程、気が長くはないもんでね」
「困りましたね――」
 ピエロはそう言うと、低い呻き声の様な呪を風に乗せる。

 めきめきめきっ!!
                    
 虚空が裂け、そこから現れたのは、数匹の下等魔族(ヴァルジャ・デーモン)。
「お連れ様のお相手は、こちらでございますよ」
 にっこりと、またもや場にそぐわない笑みで。
 ピエロの腕の一振りを合図に、ヴァルジャ・デーモン達は、一斉に咆哮をあげる。
 げ。
「全部俺が相手すんのかよ!?」
 抗議の声を上げるも空しく。ヴァルジャ・デーモン達は俺を追う。
 
 ジュボ!!

「ぎゃー!!」
 叫びつつ、放たれた炎のをことごとく避ける。
 奴らは、頭の出来が少々宜しくないせいか、連携プレーとかそういった事はしてこない。
 それは有難いのだが――。

 ジュ!
 ジュボ!
 ボウっ!

 ・・・・・・・頭悪い分、「数打ちゃ当たる」戦法で来るのだ。
 勘弁してくれ、頼むから・・。
 面倒だが、一匹ずつ仕留めていく他なさそうである。
 ―しょーがねーな、いっちょやるか。
 気合入れなおして、印を結びつつ走る。
 勿論、散発的に繰り出される炎の矢を避ける事も忘れない。
 ここで忘れたら丸こげである。
 そんなお間抜けな死に方だけは勘弁したいもんである。

「影地縫術!(シャドウ・スナップ)」

 俺の叫びと共に、ヴァルジャ・デーモンの影から、一条の鞭が召還され、影の主である本体を縛りつける。
 これで取り合えずは身動きは出来ないはずである。
 
 ゴボア!!

 ・・・・・・・まあ炎の矢は放ちまくってるけど・・・・
 冷気の呪文を纏わり着かせた剣で、その矢のことごとくを打ち落としているので、さして問題は無い。
 こっちとしては一気にカタをつけたかったりするのだが・・・
 ・・・後ろにいるカイにも当たっちゃいそうだから、やめとこ・・。
 思い直して、各個撃破用に印を結ぶ。

「黒化塵!(ブラド・ガッシュ)」
「璃翔波!(グラド・ウィンド)」
「赤龍炎!(ドラグ・フレア)」

 取り合えず、ばしばし印を結び、次々とヴァルジャ・デーモン達に肉薄させて行く。
 ・・・詳しい描写は、まあお食事中の人に怒られそうなんで割愛するけど・・・。
「―ちいっ!」
 ピエロが、自らの不利を悟ったのか、先程の黒いつぶてをこちらへ投げる。
 
 びぢばぢばぢっ!!

 その殆どを避け、地面に落ちてゆく。

 ばぢゅ!

 避け切れなかった一個が俺のわき腹を薙いだ。
「うげ!」
 目をやってみると、炭化した様にズタボロになった上着。
 ・・・・そっか、こうなる訳ね。
 洋服掠めただけで良かった・・・

「黒化塵!(ブラド・ガッシュ)」

 結び終わった印を開放し、ヴァルジャ・デーモンの最後の一匹が事切れたのは、この時だった。

 っぎ!ぎぃんっ!!
 カイの振るう剣と、ピエロの爪とが、空気を軋ませる様な音を立てる。
 爪が折れ飛び、その度にすぐ再生する。
 折れた刹那、踏み込んだとて、再生した爪の餌食になるのがオチである。
「どうなされました?カイ様?」
 クスクスと笑みを漏らしつつ、ピエロが言う。
 カイの身体の至る所には、折れ飛んだ爪で付いたのであろう無数の小さな傷。
 ―――まずいなあ。
 致命傷には程遠い。放っておけば治るレベルの傷である。
 しかし、痛みは集中力を奪う。
 彼が一瞬のミスを犯せば、それはすぐに死に直結するだろう。
 ――どうしよっかなあ。
 何もただぼーっと二人のやり取りを眺めていた訳ではないのだ。
 俺も、カイの援護をしようとさっきから隙を狙っているのではあるが・・・
 ――早すぎるよ、お前ら・・・
 いかんせん、目で追うのがやっとなのだ。
 こんな状態で術ぶっ放して、間違ってカイに当てちゃったりしようもんなら。
『あ、ごめーん♪間違っちゃった♪』
 では済む問題ではない。
 うーむ。
 そこでふと、俺はある疑問に思い当たった。
 ・・・そーいや、何でこんな結界なんか張ったんだ・・・?
 別にこんな広い街道で、結界張らにゃ戦うスペースが無いって訳でもないのに。
 もしくは――
 俺達以外の人間に、見られると困るとか?
 何でかは知らないけど。
「―よしっ」
 無駄かも知れないが、やってみる価値はありそうである。
 上手くいったら儲けモンだしな。

 ちゅどーん!
 どかーん!
 じゅぼ!

 俺が放った攻撃呪文が、そこかしこに肉薄する。
 結界の楔となるものが何か分からない以上、手当たり次第である。
 万が一にでも、これで楔が壊れてくれれば、結界も解かれる。
「なっ、貴様、何を!?」
 いきなりトチ狂った様に呪文をあらぬ方向へ連打する俺に、ピエロが焦った様に叫ぶ。
 しかし、俺はあっさりと無視をかまし、
「カイ!もうちょいそいつの相手してろ!上手く行けばこっから出られるかも知れねーぞ!!」
「くっ、貴様!」
 俺の声に、焦りの色を大きくする。
 やはり、何故かは分からないが、結界を解かれてはマズイらしい。
「カイ、今まで通り切り付けまくっててー」
「・・・了解」
 俺の言葉に、一瞬間を置いたがにやり、と笑って答える彼。
 よしよし、頑張ってくれたまへ。
 俺は尚も呪文を至る所にたたっ込む!!
 
 ちゅどーん!!
 がびしょーん!!
 
 辺りにはもうもうたる爆炎が充満する。
 奴もカイも、もはやシルエットの様にしか確認する事は出来ない。
 ――よし。
 俺は印を結び、両手を地面にたんっ、と着け、術を発動させる。
「いい加減にしろ!小娘!」
 ピエロは叫び、俺目掛けてつぶてを放つ。
 狙いは正確!!
 しかし――
 
 ばぢゅばぢゅばぢゅ!

 当てが外れ、つぶては地面に吸収される。
「何!?この距離で外す等――」
 俺は刹那、奴の背に向かって術を開放する。
 ピエロが驚愕の声を上げる暇こそすら無く。

 バシュ!

 俺の放った術で、奴の腹には大きな風穴が開いていた。
「い・・・何時の間に・・?」
 憎悪の眼差しを向け、こちらへと振り返るピエロ。
 刹那、

 ざんっ!

 気合一閃。
 カイの剣が、ピエロの肢体を真っ二つに断ち割っていた。
 
 ぱしゅあっ。

 果物か何かを床に叩きつけたような、妙にみずみずしい音と共に、ピエロの身体は虚空へと散った。
 んっふっふ。
 どうやら上手く行った様である。
 あの時、俺は放った術の煙に紛れて、奴の背後まで高速飛行の術で回りこんだのだ。
 奴が俺だと思っていたのは、煙の中で召還した土人形―ゴーレム―だったのだ。
 それに気付かず、ゴーレムにつぶてを放ち、背後から来た俺にやられた、とゆー訳である。
 ・・・考えてみると、なかなか間抜けな話ではあるが。

「・・・終わった・・かな?」
 肩で荒い呼吸を繰り返すカイが、しばらくして口を開く。
 辺りに目をやると、先程と同じ、お日様ぽかぽかの街道に、俺達二人は佇んでいた。

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