桃屋の創作テキスト置き場
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■神と交わりし者 2■
男が目を覚ましたのは、それから半刻程経過した後であった。
「・・・・う・・」
小さく身動ぎして起き上がる。
その表情には、絶望と驚愕の色が濃い。
巫女は、男の額から外した布を冷水で絞っていた所であった。
「やっと気付いたか」
巫女はまるで何事の無かったかの様に男に微笑いかけた。
「何故、何故俺は生き永らえている!?」
男は酷く憤慨した様子で巫女を問い質した。
恐らく、強く掴まれた肩の痛みにだろう。巫女は一瞬顔を顰めたが、そのまま静かに言葉を紡いだ。
「分からぬ訳でも無かろうに。私がお主を生かした。ただ、それだけの事だ」
男を、男の瞳を見つめて、言った。
男は微かに巫女から視線を逸らせて巫女に詰め寄った。
「ならば問う。何故俺を生かした?」
巫女は苦笑した。
「私にはお主を殺める事が出来なかっただけの事じゃ」
「何・・・?」
男はあからさまに動揺の色を濃くした。
巫女は再び苦笑した。
「殺生は、好まぬ。例え、我が身に害を成す者であったとてな。
それにー」
巫女は視線を逸らしていた男の顎に右手を寄せ、無理やりにその顔を向けさせ対峙する。
「あれが、お前の真の心であったとは思えぬが?」
「な、何を言う!あれは!」
男は顎に当てられた掌を振り解き、憤怒の声を上げる。
しかし、僅かにではあるがその声が震えている。
巫女は、男の瞳をただ真っ直ぐに見据えた。
「ならば問う。お前のその傷、何故のものか」
「・・・・・・・」
男は答える事が出来なかった。ただ巫女の肩を掴んでいるその両手に力を込める他無かった。
「死に急ぐ事は無かろう、蒼嶺よ」
巫女のその言葉に、しかし男は語調を荒立て、
「お前に何が分かる!?生れ落ちたその刹那より虐げられ、嘲られ、疎ましがられる苦痛が!」
捲し立てる男に、巫女は静かに一喝する。
「分からぬさ」
冷たく放たれた巫女の言葉に、男はびくり、と身を竦めた。
「お主の痛みはお主にしか分からぬ。逆に、私の想いはお主には分からぬ」
巫女は、冷水できつく絞った布で、未だ汗の引かぬ男の額を拭いてやる。
「道理ではないか?蒼嶺よ」
屈託の無い、何も恐れぬ様な笑顔であった。
男は、自らの内を知らぬままに曝け出した様な気分になり、バツが悪そうに眉を顰めた。
「・・・しかし、俺はただ、死んで手柄をと・・・」
消え入りそうな小声で言うと、男はがっくりと床に膝を着いた。巫女のか細い肩に腕を回し、微かにその体躯を震わせた。
巫女は、目を細めて男の首に腕を回した。
「辛かったか」
巫女の誰にともない様に呟かれた言葉に、男は腕の力を込めて縋り付いた。
そして無言で、頷いた。
「心細かったか」
男が、巫女の背を貪る様に掻き抱く。
幼子が母に、絶対の母に縋るかの様にも見えた。
「居ろ。お主が望むのであれば」
巫女は男の艶やかな髪を撫ぜながら、再び、小さく呟いたのだった。
風が、啼いておる・・・
姉巫女は、自らの祠の中、座禅を組んだまま。
外を緩やかに流れている風の色に、目をやった。
何故じゃ・・・・
姉巫女は、激しい嫉妬を内に抱えていた。
しかし、それに姉巫女は気付いてはいなかったが。
それ故、姉巫女の思考は徐々に良からぬ方向へと向かって行く。
何故、あの娘に可能な事が、この私には出来ぬと言われるか・・・
姉巫女は、何時しか、自らが眺め、清めていた風の色にも目をくれないでいた。
私には、神と交われぬとでも言うのか・・・
姉巫女の嫉妬は、何時しか妹巫女への憎悪へと摩り替わって行った。
あやつが居なくなりさえすれば、或いは・・?
神の寄る「器」が無くなりさえすれば、もしくは自らにも神が降り立つのではなかろうか。
そんな風にさえ考えた。
「あの巫女さえ、この地に存在して居なければ」
姉巫女は、狂気を含んだ笑みを浮かべていた。
「あの巫女さえ、消えてしまえば」
クスクスと、場にそぐわない愉しげな笑い声を漏らす。
姉巫女の気は、既にかつてのそれでは無くなっていた。
「あの巫女さえ・・・・」
姉巫女の顔には、嫌らしい憎悪の笑みが。
同時に、無邪気な子供の様な笑みが。
自らそうと知る事のないまま、姉巫女の顔にべったりと張り付いていた。
男が目を覚ましたのは、それから半刻程経過した後であった。
「・・・・う・・」
小さく身動ぎして起き上がる。
その表情には、絶望と驚愕の色が濃い。
巫女は、男の額から外した布を冷水で絞っていた所であった。
「やっと気付いたか」
巫女はまるで何事の無かったかの様に男に微笑いかけた。
「何故、何故俺は生き永らえている!?」
男は酷く憤慨した様子で巫女を問い質した。
恐らく、強く掴まれた肩の痛みにだろう。巫女は一瞬顔を顰めたが、そのまま静かに言葉を紡いだ。
「分からぬ訳でも無かろうに。私がお主を生かした。ただ、それだけの事だ」
男を、男の瞳を見つめて、言った。
男は微かに巫女から視線を逸らせて巫女に詰め寄った。
「ならば問う。何故俺を生かした?」
巫女は苦笑した。
「私にはお主を殺める事が出来なかっただけの事じゃ」
「何・・・?」
男はあからさまに動揺の色を濃くした。
巫女は再び苦笑した。
「殺生は、好まぬ。例え、我が身に害を成す者であったとてな。
それにー」
巫女は視線を逸らしていた男の顎に右手を寄せ、無理やりにその顔を向けさせ対峙する。
「あれが、お前の真の心であったとは思えぬが?」
「な、何を言う!あれは!」
男は顎に当てられた掌を振り解き、憤怒の声を上げる。
しかし、僅かにではあるがその声が震えている。
巫女は、男の瞳をただ真っ直ぐに見据えた。
「ならば問う。お前のその傷、何故のものか」
「・・・・・・・」
男は答える事が出来なかった。ただ巫女の肩を掴んでいるその両手に力を込める他無かった。
「死に急ぐ事は無かろう、蒼嶺よ」
巫女のその言葉に、しかし男は語調を荒立て、
「お前に何が分かる!?生れ落ちたその刹那より虐げられ、嘲られ、疎ましがられる苦痛が!」
捲し立てる男に、巫女は静かに一喝する。
「分からぬさ」
冷たく放たれた巫女の言葉に、男はびくり、と身を竦めた。
「お主の痛みはお主にしか分からぬ。逆に、私の想いはお主には分からぬ」
巫女は、冷水できつく絞った布で、未だ汗の引かぬ男の額を拭いてやる。
「道理ではないか?蒼嶺よ」
屈託の無い、何も恐れぬ様な笑顔であった。
男は、自らの内を知らぬままに曝け出した様な気分になり、バツが悪そうに眉を顰めた。
「・・・しかし、俺はただ、死んで手柄をと・・・」
消え入りそうな小声で言うと、男はがっくりと床に膝を着いた。巫女のか細い肩に腕を回し、微かにその体躯を震わせた。
巫女は、目を細めて男の首に腕を回した。
「辛かったか」
巫女の誰にともない様に呟かれた言葉に、男は腕の力を込めて縋り付いた。
そして無言で、頷いた。
「心細かったか」
男が、巫女の背を貪る様に掻き抱く。
幼子が母に、絶対の母に縋るかの様にも見えた。
「居ろ。お主が望むのであれば」
巫女は男の艶やかな髪を撫ぜながら、再び、小さく呟いたのだった。
風が、啼いておる・・・
姉巫女は、自らの祠の中、座禅を組んだまま。
外を緩やかに流れている風の色に、目をやった。
何故じゃ・・・・
姉巫女は、激しい嫉妬を内に抱えていた。
しかし、それに姉巫女は気付いてはいなかったが。
それ故、姉巫女の思考は徐々に良からぬ方向へと向かって行く。
何故、あの娘に可能な事が、この私には出来ぬと言われるか・・・
姉巫女は、何時しか、自らが眺め、清めていた風の色にも目をくれないでいた。
私には、神と交われぬとでも言うのか・・・
姉巫女の嫉妬は、何時しか妹巫女への憎悪へと摩り替わって行った。
あやつが居なくなりさえすれば、或いは・・?
神の寄る「器」が無くなりさえすれば、もしくは自らにも神が降り立つのではなかろうか。
そんな風にさえ考えた。
「あの巫女さえ、この地に存在して居なければ」
姉巫女は、狂気を含んだ笑みを浮かべていた。
「あの巫女さえ、消えてしまえば」
クスクスと、場にそぐわない愉しげな笑い声を漏らす。
姉巫女の気は、既にかつてのそれでは無くなっていた。
「あの巫女さえ・・・・」
姉巫女の顔には、嫌らしい憎悪の笑みが。
同時に、無邪気な子供の様な笑みが。
自らそうと知る事のないまま、姉巫女の顔にべったりと張り付いていた。
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