桃屋の創作テキスト置き場
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■月鬼 第五話 ―鬼、降臨― ■
つばめが振り返るより早く、戯妖邪は彼女の目の前に跪く。
「我が、王」
そう言うと、戯妖邪は深々と頭を垂れた。
「・・?」
つばめは太ももから流れ落ちる血を手で押さえ付けながら、血が足りずに眩暈のする頭を、ようやっと何とか回す。
「・・・・・・・誰?」
彼女が思わず口にする。
「つばめ殿!ご無事か!?」
頭を垂れる戯妖邪の後方から、焦った様な蒼志の声。
そして程無くして、走り来る彼の姿が見えた。
「お前達、我が王のお目覚めじゃ」
戯妖邪は言うと、再びばきん、と指を鳴らす。
刹那、空間が引き裂かれた様に、辺り一面無数の雑鬼が現れる。
周りを、鬼に囲まれてしまった。
蒼志はごくりと喉を鳴らし、微動だにせず、視線だけでつばめを確認する。
・・・・良かった、まだ死んではいないようだ。
「永きに渡り、お待ち致しました。我等が、王」
戯妖邪の言葉に、一面に群がる鬼共も、その『王』とやらにひれ伏す。
「王・・・」
つばめは呟き、己の背後に佇む影に目を凝らす。
「我が王、月鬼」
戯妖邪が頭を垂れる。
背後に蠢く無数の雑鬼共も、雄叫びとも歓喜に沸く声ともつかない、低い声をあげる。
「参りましょう、我が王、月鬼」
その声に、『王』はぴくりとも反応せず、ただただ、自らの眼前でひれ伏す鬼共を見る。
その瞳には、何一つの感情も、つばめには読み取る事は出来なかった。
もはやつばめ等目に入らぬのか、戯妖邪は立ち上がり、『王』に忠誠を誓う姿勢でまさに頭を持ち上げ、その「王」とやらに、
「参りましょう、我らと共に」
刹那―――
ざしゅ
無慈悲に、あまりにも無慈悲な音と共に、彼女の差し出された腕は、千切られた。
「何故・・・何故・・!?」
思いもよらなかったであろう「王」の行動に、戯妖邪はたたら踏みながら後退し、苦悶の表情で「王」を見詰める。
その言葉に応えもせず、つばめの背後のそれは、無造作に、命無きものを扱う様に、ただ、彼女を睨め付ける。
明らかに人間では無いその容姿。
身の丈ならば、およそ六尺。
耳は人間のそれより長く尖り、
ぬらりと伸びた爪。
意識を宿さぬような、血色の眼。
その流れ落ちる頭髪は、今し方再び姿を現した月と同じ、黄金。
頬には亀裂が入り、衣も襤褸切れの様だ。
つばめはぞくりとする。
ああ、これが鬼か、と。
「誰だ・・・・・」
それは、低く、地を這う様な声音で呟く。
頭に直接響いて来る様な、不思議な声。
恐ろしい筈なのに、気圧されて動けない筈なのに。
彼女は、確かにその声に酔いしれていた。
「私を呼び覚まし者は、誰だ」
すうっ、と目を細め、ゆっくりと睨め付ける様に辺りを見回す。
片腕を失った戯妖邪は、先ほどより退いた場所で跪き、肩で荒い呼吸を繰り返している。
不思議な事に、傷口からは一滴の血液も流れ出ては居なかったが。
「つばめ殿!」
蒼志が、雑鬼を尺杖で薙ぎ払いながら、彼女に近付く。
その彼の姿を目には留めたものの、つばめは動くことも、声を発する事も出来ないでいた。
自らの真後ろに、鬼の王が居るのだ。
温度すら感じる距離で、相手の息遣いまで届く場所で。
下手に動く事は、即、死に繋がる。
こくりと喉を鳴らした瞬間、月光が丁度彼女の顔と、背後のそれの顔を照らし出す。
そこで漸くそれはつばめに気付いたのか、ゆるりと首を動かし、その目をわずかに歪めた。
「そう、お前か。お前が、私を」
「何の事だ!あたしは知らん!」
恐怖のおかげで、何時もより声が大きくなる。
血を流しすぎた体は震え、歯の根もかみ合わなくなりそうだった。
「お前は」
『王』はつばめの顎に手をかけ、さして力も加えた様子も無く、彼女を持ち上げる。
「はなせ・・っ!」
地面から離れた足をばたつかせ、両手で顎にかけられた手を解こうとするが、びくともしない。
『王』は月光に照らされた彼女の顔に自らの顔を寄せ、目を細めて凝視する。
「お前は、私を知っているな」
「・・・な?」
怒りとも焦りともつかぬ表情で、『王』は血色の眼を眇める。
「お前は、私を知っている」
「お前なんか知らん!」
「お前故、私は目覚めた」
つばめの言葉を無視して、それは呟く。
月光が、再び雲に隠され、彼女を照らしていた光もまた、消えうせる。
刹那、『王』は彼女を持ち上げていた手に力を込め、
先程までの穏やかとも言える口調から、一気に冷淡な口調に変わり、
「ならばその目で見よ。愚物が」
言うなり、つばめを地面に叩きつける。
「ぎゃっ!」
「つばめ殿!」
蒼志は叫ぶより早く、駆け出す。
未だ起き上がらずに地面に突っ伏している彼女に駆け寄ると、片腕で彼女を抱え、左手で尺杖を『王』に向かって振り下ろした。
がぎぃ!
鈍い音で、尺杖を爪で受け止める『王』
蒼志は顔をしかめ、つばめを抱えたまま一歩後ろへ跳ぶ。
「見るが良い、我が姿」
『王』は呟き、蒼志を片手で跳ね除けると、苦痛で意識の朦朧としたつばめの髪の毛を掴んで引き上げ、その鋭い爪を頬にあてがう。
「退け、鬼よ!」
背後から蒼志が破魔の護符を飛ばすが、『王』に辿り着く前に、虚空で燃え尽き四散する。
「効かぬか!」
憎しげに言葉を吐く蒼志に、『王』は僅かに振り向き、
「邪魔だ」
と片手を蒼志に翳す。
瞬きする暇もあらばこそ。
蒼志の身体が一瞬疾風の中に消えたかと思うと、彼は地面にがくりと膝をついていた。
その着物は至る所に鋭利な刃物で切り裂いた酔うな傷があり、布は赤く染まっていた。
『王』は面白くもなさそうに再びつばめに向き直ると、彼女の腕を爪で切り裂く。
「ぐっ・・!」
痛みによって覚醒した意識の中、眼前にある『王』の顔。
「・・はなせっ・・・・!」
その『王』の表情が、一瞬、曇る。
彼女を掴む手の力が緩み、つばめは地面に足をつく。
しかしそのまま逃げ出す力が残っている訳も無く、ずるずると地面にへたり込む。
・・なんだ・・こいつ・・・なんで、離した・・・?
息切れしてロクに働かない頭で、彼女は呟く。
「あ・・・・ああ・・・・お前は・・・」
『王』の表情は、徐々に驚愕と絶望との入り交ざったようなものに変わっていく。
半眼だった瞳は見開かれ、体躯は小刻みに震える。
鬼がこんな風に、ましてや鬼の王たる目の前のこれが、死にかけの無力な自分の前で狼狽する理由が分からず、
つばめは、もしやもう既に自分は死んでいて、見ているこれは幻ではないかとすら思い始めていた。
「お前は・・・・・・・・誰だ・・・・!」
『王』の体は震え、つばめをみつめる瞳には先程までの狂気は見て取れない。
まるで、子供か犬猫の脅えた瞳のようですらあった。
その様子が可笑しくて、つばめは視線の定まらないまま、腕を持ち上げる。
「はは・・・なんだ・・・・そうか・・・」
力の入らない腕を、持ち上げて、
「・・・お前も・・・・お前が恐いのか・・」
そう無意識に呟くと、『彼』の頬に、触れた。
「あ・・・あ・・・・・・・・」
言葉とつかない音を発する『彼』に、彼女はふわりとわずかに微笑み、そこで意識を手放す。
彼の雄叫びが、木霊した。
つばめが振り返るより早く、戯妖邪は彼女の目の前に跪く。
「我が、王」
そう言うと、戯妖邪は深々と頭を垂れた。
「・・?」
つばめは太ももから流れ落ちる血を手で押さえ付けながら、血が足りずに眩暈のする頭を、ようやっと何とか回す。
「・・・・・・・誰?」
彼女が思わず口にする。
「つばめ殿!ご無事か!?」
頭を垂れる戯妖邪の後方から、焦った様な蒼志の声。
そして程無くして、走り来る彼の姿が見えた。
「お前達、我が王のお目覚めじゃ」
戯妖邪は言うと、再びばきん、と指を鳴らす。
刹那、空間が引き裂かれた様に、辺り一面無数の雑鬼が現れる。
周りを、鬼に囲まれてしまった。
蒼志はごくりと喉を鳴らし、微動だにせず、視線だけでつばめを確認する。
・・・・良かった、まだ死んではいないようだ。
「永きに渡り、お待ち致しました。我等が、王」
戯妖邪の言葉に、一面に群がる鬼共も、その『王』とやらにひれ伏す。
「王・・・」
つばめは呟き、己の背後に佇む影に目を凝らす。
「我が王、月鬼」
戯妖邪が頭を垂れる。
背後に蠢く無数の雑鬼共も、雄叫びとも歓喜に沸く声ともつかない、低い声をあげる。
「参りましょう、我が王、月鬼」
その声に、『王』はぴくりとも反応せず、ただただ、自らの眼前でひれ伏す鬼共を見る。
その瞳には、何一つの感情も、つばめには読み取る事は出来なかった。
もはやつばめ等目に入らぬのか、戯妖邪は立ち上がり、『王』に忠誠を誓う姿勢でまさに頭を持ち上げ、その「王」とやらに、
「参りましょう、我らと共に」
刹那―――
ざしゅ
無慈悲に、あまりにも無慈悲な音と共に、彼女の差し出された腕は、千切られた。
「何故・・・何故・・!?」
思いもよらなかったであろう「王」の行動に、戯妖邪はたたら踏みながら後退し、苦悶の表情で「王」を見詰める。
その言葉に応えもせず、つばめの背後のそれは、無造作に、命無きものを扱う様に、ただ、彼女を睨め付ける。
明らかに人間では無いその容姿。
身の丈ならば、およそ六尺。
耳は人間のそれより長く尖り、
ぬらりと伸びた爪。
意識を宿さぬような、血色の眼。
その流れ落ちる頭髪は、今し方再び姿を現した月と同じ、黄金。
頬には亀裂が入り、衣も襤褸切れの様だ。
つばめはぞくりとする。
ああ、これが鬼か、と。
「誰だ・・・・・」
それは、低く、地を這う様な声音で呟く。
頭に直接響いて来る様な、不思議な声。
恐ろしい筈なのに、気圧されて動けない筈なのに。
彼女は、確かにその声に酔いしれていた。
「私を呼び覚まし者は、誰だ」
すうっ、と目を細め、ゆっくりと睨め付ける様に辺りを見回す。
片腕を失った戯妖邪は、先ほどより退いた場所で跪き、肩で荒い呼吸を繰り返している。
不思議な事に、傷口からは一滴の血液も流れ出ては居なかったが。
「つばめ殿!」
蒼志が、雑鬼を尺杖で薙ぎ払いながら、彼女に近付く。
その彼の姿を目には留めたものの、つばめは動くことも、声を発する事も出来ないでいた。
自らの真後ろに、鬼の王が居るのだ。
温度すら感じる距離で、相手の息遣いまで届く場所で。
下手に動く事は、即、死に繋がる。
こくりと喉を鳴らした瞬間、月光が丁度彼女の顔と、背後のそれの顔を照らし出す。
そこで漸くそれはつばめに気付いたのか、ゆるりと首を動かし、その目をわずかに歪めた。
「そう、お前か。お前が、私を」
「何の事だ!あたしは知らん!」
恐怖のおかげで、何時もより声が大きくなる。
血を流しすぎた体は震え、歯の根もかみ合わなくなりそうだった。
「お前は」
『王』はつばめの顎に手をかけ、さして力も加えた様子も無く、彼女を持ち上げる。
「はなせ・・っ!」
地面から離れた足をばたつかせ、両手で顎にかけられた手を解こうとするが、びくともしない。
『王』は月光に照らされた彼女の顔に自らの顔を寄せ、目を細めて凝視する。
「お前は、私を知っているな」
「・・・な?」
怒りとも焦りともつかぬ表情で、『王』は血色の眼を眇める。
「お前は、私を知っている」
「お前なんか知らん!」
「お前故、私は目覚めた」
つばめの言葉を無視して、それは呟く。
月光が、再び雲に隠され、彼女を照らしていた光もまた、消えうせる。
刹那、『王』は彼女を持ち上げていた手に力を込め、
先程までの穏やかとも言える口調から、一気に冷淡な口調に変わり、
「ならばその目で見よ。愚物が」
言うなり、つばめを地面に叩きつける。
「ぎゃっ!」
「つばめ殿!」
蒼志は叫ぶより早く、駆け出す。
未だ起き上がらずに地面に突っ伏している彼女に駆け寄ると、片腕で彼女を抱え、左手で尺杖を『王』に向かって振り下ろした。
がぎぃ!
鈍い音で、尺杖を爪で受け止める『王』
蒼志は顔をしかめ、つばめを抱えたまま一歩後ろへ跳ぶ。
「見るが良い、我が姿」
『王』は呟き、蒼志を片手で跳ね除けると、苦痛で意識の朦朧としたつばめの髪の毛を掴んで引き上げ、その鋭い爪を頬にあてがう。
「退け、鬼よ!」
背後から蒼志が破魔の護符を飛ばすが、『王』に辿り着く前に、虚空で燃え尽き四散する。
「効かぬか!」
憎しげに言葉を吐く蒼志に、『王』は僅かに振り向き、
「邪魔だ」
と片手を蒼志に翳す。
瞬きする暇もあらばこそ。
蒼志の身体が一瞬疾風の中に消えたかと思うと、彼は地面にがくりと膝をついていた。
その着物は至る所に鋭利な刃物で切り裂いた酔うな傷があり、布は赤く染まっていた。
『王』は面白くもなさそうに再びつばめに向き直ると、彼女の腕を爪で切り裂く。
「ぐっ・・!」
痛みによって覚醒した意識の中、眼前にある『王』の顔。
「・・はなせっ・・・・!」
その『王』の表情が、一瞬、曇る。
彼女を掴む手の力が緩み、つばめは地面に足をつく。
しかしそのまま逃げ出す力が残っている訳も無く、ずるずると地面にへたり込む。
・・なんだ・・こいつ・・・なんで、離した・・・?
息切れしてロクに働かない頭で、彼女は呟く。
「あ・・・・ああ・・・・お前は・・・」
『王』の表情は、徐々に驚愕と絶望との入り交ざったようなものに変わっていく。
半眼だった瞳は見開かれ、体躯は小刻みに震える。
鬼がこんな風に、ましてや鬼の王たる目の前のこれが、死にかけの無力な自分の前で狼狽する理由が分からず、
つばめは、もしやもう既に自分は死んでいて、見ているこれは幻ではないかとすら思い始めていた。
「お前は・・・・・・・・誰だ・・・・!」
『王』の体は震え、つばめをみつめる瞳には先程までの狂気は見て取れない。
まるで、子供か犬猫の脅えた瞳のようですらあった。
その様子が可笑しくて、つばめは視線の定まらないまま、腕を持ち上げる。
「はは・・・なんだ・・・・そうか・・・」
力の入らない腕を、持ち上げて、
「・・・お前も・・・・お前が恐いのか・・」
そう無意識に呟くと、『彼』の頬に、触れた。
「あ・・・あ・・・・・・・・」
言葉とつかない音を発する『彼』に、彼女はふわりとわずかに微笑み、そこで意識を手放す。
彼の雄叫びが、木霊した。
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