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桃屋の創作テキスト置き場
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■阿修羅城の瞳  美しき紅 ■





 私は、今、目覚めた。

 恐らく、今、目覚めたのだ。

 辺りは紅に染まって居る。
 其処彼処で蠢き、交わり、のた打ち回って居る。

 鬼だ。
 妖だ。


 その中で、恐らく、私は今、目覚めた。
 あちらこちらが血に染みて行く。
 人共が、妖共を血塗れに染め上げて行く。 

 私は自分の両の掌を、じっと眺め、
 五本ずつ揃って居る指を、開いたり閉じたりして見る。

 どうやら、きちんと動く様だ。


 私はゆっくり立ち上がる。
 足元は紅に染まって居る。
 妖共が人共から、逃げ惑って居る。
 私は一人、本尊の前に佇んで居る。


 人共が妖共を屠る。
 妖共が人共を屠る。
 人共が妖共を屠る。
 此処は朱に染まって居る。



 何と見事な紅であろう。
 一点の曇も無い、見事なまでの朱である。



 ぞくぞくとする。



 妖共が人共から逃げ惑う。
 妖共が脅えて助けを請う。
 誰に?
 私に?

 妖共は私に縋って居る。
 私に助けを求めて居る。
 ああ、妖共は死にたくないのだな、と私は思う。
 しかし私は死とは何なのか、善く理解しては居ないので、妖共の気持ちも又、理解出来ぬ。

 妖共が人共に屠られて行く。
 妖共の悲鳴が耳に届く。
 ああ、死んで仕舞ったのだな、と私は思う。
 しかし、死とは何なのか、善く理解していない私は、それがどんな物であるか、善く解らぬし、理解も出来のだ。



 男が居た。



 目の前に、男が居た。
 体躯を深紅に染め、朱色の瞳で此方を見詰めて居る。
 右手に黒太刀、弓手に緋の数珠。
 黒髪、黒衣、黒太刀、その全てを朱に、紅に染めて居る。


 何と美しき者よ
 と、私は思う。


 一点の曇も無い、紅一色の男は美しい、と私は思う。


 妖共は私に縋って居る。
 男は太刀を構えて居る。



 この男だ。
 この男は私の物だ。
 私はそう思う。
 紅に染まった美しいこの男こそが、私を目覚めさせたのだ。
 この男ならば、この紅に染まった美しい男ならば、きっと。



「殺せ」

 私は言った。紅色の男に。

「殺せ」

 私は言った。緋色の美しき男に。

「殺せるものならば」


 私は微笑んだ。私を殺してくれる男に。
 男は震えて居た。
 妖共は私に縋って居た。

 男が動く。
 太刀が、緋色に紅に朱に染まった黒太刀が、振り下ろされる。
 男の目には、
 美しき男の其の瞳には、


 ―――涙―――?


 そうして、私の目の前は、緋に染まった。











  阿修羅城の瞳  美しき紅  終わり

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