忍者ブログ
桃屋の創作テキスト置き場
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■こんぺいとう 3  お仕事しましょ 4 ■




 バダン!
 と言う大きな音と共に、入り口のドアが景気良く開かれた。
 そしてそこに佇む、一人の長身美女。
「やっほー!お元気?麗しの珠子ちゃん登場~」
 見た目のいかにもセレブ系ないでたちには似つかわしくない、素っ頓狂な台詞でいざ登場である。
「雅のゲネ見てから来たから遅くなっちゃった。ほら、雅に大ちゃんレンタル中じゃない?だからちょっと覗いてきたのよ。あらちかちゃん、何か怖い顔してるわね?」
 着てきたジャケットを脱ぎ、紅龍にぽい、と投げて渡す。
「珠子、もうちょい普通に渡せ」
「はいは~い。あ、勇也、茜、高ちゃん、おはよう」
 紅龍の言葉をさらりと受け流し、口を半開きにしたまま固まっていた3馬鹿トリオに声をかける。
「お、おはようございます、珠子姐さん」
 なんだか極道のようなご挨拶である。
 彼女はテーブルに載っていた灰皿を捕獲し、煙草を取り出して火を点けようとして、止まった。
 珠子の視線の先には、見慣れない、本来ここに存在するはずのない人物。

 つまり、輝愛がいた。

 輝愛は、珠子の顔をまじまじと見つめ、
「あ、さっき道教えてくれたお姉さん、さっきはありがとうございます」
 と言って、椅子から立ち上がり彼女の前でお辞儀をした。
 当の珠子は、未だ固まったままである。
「あの・・・?」
 輝愛が不信がって彼女の顔を覗き込む。
「やばい、トーイ、離れろ!」
 千影が焦った声で叫ぶが、時既に遅し。
 珠子は輝愛の肩をがしっ、と鷲掴みにする。
「ひっ!」
 思わず声を上げる輝愛。しかし、珠子はそんな事お構いなしで、大きな瞳をうるうるさせて、感極まった表情で、

「・・・かわい~い・・」
「は?」
「可愛い!!」
 背後で千影と紅龍が『あちゃー』と言って頭を抱えている。
「何?何コレ!可愛い!さっきちゃんと見てなかったから気付かなかったけども!いやーんほっぺたぷにぷに~!髪の毛サラサラ~!!」
「いや、あの・・」
「ちっちゃ~い!目くりくり!!たまんないわーぬいぐるみみたい!!」  
 言うだけ言って、輝愛をぎゅう、と抱き締める。
「あああああああの!?」
「ああもうたまんないわコレ!さっき会えたのも、ここでの再開も、もう運命よね!確定だわ!ねえ誰の!?この子誰の子!?貰っていい?いいよね?良いわよね?はい決定!!お嬢ちゃん、うちの子にならない?お姉さんいろんな事教えてあ・げ・る」
 頬を上気させて輝愛をしっかり抱き締める。
 張本人は事態の把握が出来ずに、されるがままである。
「珠子、いくらなんでも『お姉さん』は言い過ぎだろう」
 紅龍の突っ込みが入る。
 しかし、本来突っ込むべきポイントはそこではないだろう。
「いいじゃない紅ちゃん、この子今日からうちの子ね♪あ、お嬢ちゃん、お名前は?」
「き・・・きあです・・・」
 引きつった声で答える輝愛。
 ちょっと遠巻きに3馬鹿トリオは事の成り行きを面白そうに眺めている。
 何の事は無い。こうなってしまった珠子に、ちょっかいを出す勇気がないだけである。
 さっきから下を向いて黙ってた千影が、やおら顔を上げて、
「くをら珠子!いいかげんにしろ!」
「やだ~ちかちゃん、怖い顔」
「紅龍も、珠子お前の嫁なんだから、何とかしろよな!」
 額に青筋立てて食ってかかる千影を、紅龍は呆れたような顔のままさらりと受け流し、

「俺にあの珠子を止められる訳ないだろうが」

 と、自信満々で言ってのけた。
「か、かぁわはしぃ~」
 輝愛が珠子の腕の中から何とも間抜けな声を出す。
 千影は疲れたような顔で珠子に近寄り、
「こいつはうちのだ。返せ」
 ドスの効いた、かなり低い声である。
 珠子は千影を上から下まで一通り眺めると、『分かったわよぅ』と言って、輝愛を開放した。
 
 ・・・・もう、何が何だか・・・
 輝愛はもみくちゃにされた自分のほっぺたをさすりながら、社長の顔を盗み見る。

 その視線に気付いて、彼女にしか気付かれない程度に、彼は小さく苦笑したまま肩をすくめて見せた。
 ・・・・奥さん強い・・・
 輝愛の頭は、この感想でいっぱいになっていた。







「改めまして、こんにちは。輝愛ちゃん。田淵珠子よ」
 ようやっと平静さを取り戻し、煙草にそれこそやっと火を点けて、彼女、田淵珠子(たぶちたまこ)は口を開いた。
「高梨輝愛です。さっきは道教えてくれて、ありがとうございました」
 にっこり笑って答える輝愛、しかし、珠子との間には、保護者と言う壁が立ちはだかっていて、その保護者の肩越しでの会話と言う、何とも妙な形式である。
 最も、珠子の旦那である紅龍も、さりげに妻の背後に回りこみ、暴走したらすぐ食い止められるようにスタンバイしている。

 ――殆ど猛獣扱いである。
 
 珠子は見かけの「出来るお姉さん」なイメージとは程遠く、ふりふりやもこもこしたぬいぐるみや、乙女ちっくなモノをこよなく愛している。
 どう彼女の中で判断されたのかは分からないが、長身である彼女から見た輝愛は、それこそちっちゃくてぴちぴちでフワモコだったらしく、クリティカルヒットに至ったらしい。

「いいか、トーイ」
 千影が振り向きもせずに口を開く。
「あのオバハンは、すごい危険だ。ヒドラより危険だ。気安く話しちゃいかんぞ」
「ちょっとちかちゃん何よそれ!」
 後ろから抗議が入るが、千影は真剣な顔で最愛の娘分に言う。
「いいか、あーゆー大人にだけはなっちゃいかんぞ」
「ある意味同意するな」
 旦那である紅龍まで、ぼそっと背後で同意の意を呟いてたりする。
「まあとりあえず!」
 珠子が仕切り直し、と言わんばかりに明るい声でぱん、と一つ手を打つ。
「キアちゃんって、珍しい名前よね?」
「そうですねえ・・あたしも自分でそう思いますけど」
 珠子はケリータイプのバックから、一枚の紙とペンを取り出し、
「どんな字を書くの?ここに書いてみて♪」
 そう言って、輝愛にペンを渡し、紙の上に指を置き、『ここ』と微笑んでいる。
 輝愛はペンを受け取り、机の上でペンを走らせた。
 瞬間、珠子が千影と紅龍に振り返り、にやり、と何とも怪しげな笑みを浮かべる。

「な・・なんだよ珠子、気持ち悪いなお前」
「気にするなちか。きっと何か楽しい事があったんだろう」
 思わず後退りする千影に、「いつものことだ」と言わんばかりの口調の珠子の旦那。
「しかし、何だか良くない予感がする」
「奇遇だな、俺もだ」
 仲良く社長と部長が怯えている様を横目で確認しつつ、珠子は輝愛が自分の名前を書き終わった所で笑い出した。

「ほほほほほ!ざまあみなさい男共!」
「ひ!紅龍、ついに珠子が壊れたぞ!なんとかしろ!」
 千影は輝愛の腕を引っ張って、珠子から距離を取りつつ叫ぶ。
「ちか、俺に死ねと言うのか?」
 紅龍は落ち着いた表情で、しかし真面目ぶった口調で千影に近づき、芝居がかった顔で涙声になる。
「お前の嫁だろ!あいつのせいで死ぬならお前は本望だろうが!」
「つれないねえ、ちかは」
「私を甘く見たのが運の尽きよ♪欲しい物は何でも手に入れる女だって事、忘れてない?」
 さも楽しそうに含み笑いをしている珠子に、男二人は仲良く頬に冷や汗を伝わらせる。

 ・・・普通にしてりゃ美人なのに・・・
 千影が、内心で毎回思う台詞である。
 珠子自信は、自由奔放に生きている自分が好きなので、耳を傾けた事は無いが。
「悪いが、猫の子じゃあるまいし、『はいどーぞ』なんてコイツやる訳にはいかんぞ」
 珠子は『そんなこと分かってるわよ」と言って続ける。
「じゃあ何だよ?」
「でもね、ちかちゃん」
 問い掛ける千影の言葉を遮って、珠子はそれこそ鬼の首でも取ったかの様に腰に手を当て、先程輝愛が名前を書いた紙をぺろん、と掲げた。
 千影は眉を潜めながら顔を近付けて、その紙に書かれた文章を読んで、


 ――絶叫した。


「なにいいいいいいい!?」

「どしたのカワハシ?」
 娘分は目を丸くして保護者を覗き込む。
「・・・トーイ、お前・・・これ、ちゃんと読んだか・・・?」
 千影の声は震え、額には嫌な汗が浮かんでいる。
「え?いや、名前書いてって言われたから普通に・・」
「たーまーこおおおおおお!!」
 輝愛が言い終わるか終わらないうちに、父親気取りの三十路一歩手前の金髪は、紺青の黒髪の悪魔のような美女にのしのしと歩み寄る。
「無効だよな?」
「何の話かしらぁ?」
 鼻息がかかりそうな距離まで近づいてすごむ千影に、そっぽ向いて遠い空を眺める珠子。
「カワハシ?」
 怯えた表情でおずおずと口を開く当事者。
「残念だったわね、ちかちゃん♪」
 珠子は身を翻すと、彼の手から例の紙を掠め取る。
「カワハシ・・?」

「・・・・・・・・トーイ、お前、あれ・・・何の紙か分かって・・・・・・る筈ないよな・・・」
 がっくりうな垂れて、魂も半分くらい昇天しかかったような憔悴した表情で、苦々しく呟く。

「聞いて驚け。あれはな」
「う・・うん・・・」




「正式入団書類だ」




 ・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・
「・・・・・・は?」
 口を開けて、問い返す。
「正式入団書類だ。入団書類。にゅうだんしょーるーいー!」
「え?」
 千影は頭を抱え、
「だーかーらー、トーイ、お前はあのサインのせいでココの団員になっちゃったの!!」
「げ」
 下品な呟きを無意識に漏らし、慌てて諸悪の根源、もとい珠子を振り返る。
 彼女は満足そうに美しく微笑んで、例の腰に手を当てたポーズで、張りのある声で言った。



「輝愛ちゃん。ようこそ、我らが『アクションチーム』へ!!」

拍手[0回]

PR
Comment
color
name
subject
mail
url
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
material by Sky Ruins  /  ACROSS+
忍者ブログ [PR]
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
プロフィール
HN:
mamyo
性別:
非公開
ブログ内検索
バーコード