忍者ブログ
桃屋の創作テキスト置き場
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■こんぺいとう 3  お仕事しましょ 2 ■




「よっこいしょ・・と」
 17歳の娘の割に、いかんせんババクサイ台詞を吐きつつ、電車を降り、改札を抜け出た輝愛。
 先程の電話で殴り書きした地図のメモを、かさかさと広げ、
「―――うっ」
 小さくうめいて冷や汗を垂らす。
 ・・・・よ・・・・読めない・・・
 自分で書いた癖に、自分の字のあまりの殴り書きの汚さに頭を抱えた。
「と・・とりあえず、分かるところまで行ってみよう」
 そこでダメなら、千影の携帯に電話すれば良いだろう。
 そんな風に思い、輝愛は歩を進めた。


 数分後―――


 輝愛は半泣きになりながら道をうろついていた。
「ここはどこ・・」
 ずずっ、と鼻まですすり出す始末である。
 しかも、何だか人通りが少なくて道を聞こうにも誰も居ないし、勿論携帯電話なんか持ってないし、何でか公衆電話も全然見当たらないし―――
 と、途方に暮れている輝愛の肩が、背後からぽん、と叩かれた。
「!?」
 慌てて振り返ると、そこには長身の美人が、にっこり笑って立っている。
 その女性は、半泣きになっている輝愛に優しく
「どうしたの?」
 と問いかけた。
「み・・道に迷っちゃったんです・・」
 地獄に仏とはまさにこの事か。
 輝愛は泣きそうになるのを必死にこらえながら、唯一暗記していた千影の会社の入っているビルの名前を告げる。
「タブチビル?」
「はい」
 女性はいささか驚いたような表情をしたが、すぐさま元の笑顔に戻って、輝愛に丁寧に道を教えてくれた。
 聞いてみると何のことは無い。
 一本道を間違えていただけだったらしい。
 何度もお礼を述べ女性と別れ、ようやっと目的地の前までやって来たのだが。
 だが。
 ・・・ビルって言うより、工場みたい・・・本当にここなのかな・・
 こくり、と喉を鳴らす。
 扉をそろり、と僅かに開けて、中の様子を伺って見る。

「うわ・・」
 彼女は思わず小さな声を漏らした。
 お・・・男ばっかり・・・
 しかも全員が全員スーツ等着込んでおらず、家での千影の様に、Tシャツやらジャージやらで、首からタオルをぶら下げていたりする。
「ここ本当に会社なの?」
 目をきょろきょろさせてみるが、その中に、肝心の千影の姿は見受けられない。
 ・・・間違えちゃったのかなあ・・・
 そんな不安が過ぎった瞬間、

 ―――あ゛

 中に居た人物のうちの一人と、ものの見事にまともに視線が合ってしまった。
 その男は睨み付けるように輝愛を眺め、こちら側に歩いてくる。
 
 ―――逃げなきゃ!
 
 なんでそう思ったのかは分からない。
 ただ、この人は怖そう、怒られるかも!
 と言った意識が勝手に働き、そう思い込んでいた。

 勢い良く扉が開き、男と輝愛は対峙する。
「ご・・ごめんなさい」
 かすれる声で後退る。
 が、男は輝愛の手に抱えられた荷物を見るなり表情を崩し、
「入んな」
 と一言言って、輝愛の肩を抱いて中に導いた。


 うそー!怖いー!殺されるー!


 動揺しきった輝愛は、固まったまま中へ連れ込まれる。


 怖いよー!カワハシー!!


「これ、多分ちかのところのだろ?あれ?ちかは何処行ったんだ?」
 輝愛の肩を抱く男が、Tシャツやらジャージやらの軍団に声をかける。
「ち・・ちかって・・誰ですか」
 輝愛は室内中の人間の視線を一斉に受けるのが居た堪れなくなり、自らより遥か背の高い男を仰ぎ見た。
「ん?ちかのとこの子だろ?川橋だよ、川橋千影」
「ここにカワハシが居るの!?」
 思わず荷物を握り締め、大声で問い返す。
「居るに決まってるだろ。じゃなきゃお前、何しにここに来たんか分からんだろうが」
 呆れたように輝愛を見る男。
 

 瞬間、ギャラリーと化していた連中がざわついた。
「やっぱり川ちゃんとこの子か!」
「うーわー女の子だ女の子!」
「ちっさー!わっかー!」
「ちょっと近くで見ても良い?」
 口々に好き放題言って、輝愛に近付いて来る。
 普通の状態ならば、相手の真意も分かるだろうが、混乱している輝愛にとって、それは脅威だった。

 ――リアルに、怖い!!
「・・・カワハシー!助けて-!!」

「トーイ?」
 人の群れの中から、聞き慣れた声がした。
 どうたら煙草を買いに出ていたらしく、手には封の切られていない煙草が見える。

「カワハシ~」
 輝愛はあまつさえ瞳に涙なんか浮かべながら、千影の元へ駆け寄った。
「こわかったよー」
 もはや何がどうなって何が怖いのか、訳が分からなくなって、そしてそのまま泣きそうになっている。
 その輝愛のいつもとは明らかに違う態度に、千影は一瞬首を傾げる。
「怖かったって・・・まさか、お前ら、何かしたのか!?」
 何で自分が泣いているのか、あんまり理解出来ていない輝愛を抱えたまま、千影はものすごい引きつった顔で後輩達を見る。
「ま、まさか!まだ何もしてないですよ!」
「まだ触ってもいないし!」
 武田と山下が千影の睨みに怯え、ぶんぶか手と首を振りながら弁解するが、千影はぴくっ、と眉を跳ね上げて、
「まだとは何だ『まだ』とは!」
「いや、でも川ちゃん、ちょっとくらい見せてくれたって・・」
「そうそう、女の子なんて滅多にここに来ないんだし・・」
「俺はむしろ腹減りましたよせんぱーい」
 3馬鹿トリオ、と社長や社長の細君や千影に呼ばれている武田、山下、橋本の三人が、性懲りも無く輝愛に近づこうとして、手を伸ばす。
 勿論、純粋に輝愛に対しての興味もあるのだが、大部分はやはりと言うかなんと言うか、千影をいじって遊ぼう、という素敵な精神が根本にある。
「・・そーゆー事なら、俺も見たい」
「俺も川ちゃんとこの嫁?彼女?拝ませてもらいたいなあ~」
 3馬鹿トリオに乗じて、他の後輩達までもが加勢してくる。
 ・・・・誰も嫁とも彼女とも妹とも言っては居ないのだが。
 なんて、こんな状況でも千影は密かに内心突っ込みを入れてみたりもする。
 しかし、こうなってしまってはやはり多勢に無勢である。
 千影は可愛い可愛い後輩達に、朝同様に襲われそうになり、一足飛びに退いて、絡まってくる後輩達に向け一喝した。


「だあああああ!うちのに触んじゃねえええ!」


「おっかねー」
 千影の結構真面目な大声に、ようやっと後輩達はやはり笑みを絶やさぬまま退いた。
 何の事は無い。
 ただこれ以上ノルマを増やされるのが嫌だからである。
「ったく、どいつもこいつも・・」
 肩で荒くぜーはーと呼吸をして、やっと輝愛を開放する。
 そしていささか真剣な面持ちで彼女を見つめ、
「何もされてないんだよな?」
「うん、まだされてない」
 にっこり笑う最愛の娘分の台詞に、千影はがっくりと肩を落とす。
「・・・・・・・お前まで『まだ』とか言うなよな・・・」
 
 その微妙な膠着状態を打ち破ったのは、最年長の紅龍だった。
「で、その娘を紹介がてら、そろそろ昼飯にしたいんだが、どうだろうね?ちか?」

「あ」
 
 千影は今更ながら輝愛から財布とでかでかとした、一体何人前あるのかと思うような弁当を受け取った。

拍手[0回]

PR
Comment
color
name
subject
mail
url
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
material by Sky Ruins  /  ACROSS+
忍者ブログ [PR]
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
プロフィール
HN:
mamyo
性別:
非公開
ブログ内検索
バーコード