桃屋の創作テキスト置き場
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■こんぺいとう 2 ―おもちゃのトーイ― 4 ■
「・・・・またやってしまったのですか、あたしは・・・」
むくりと起き上がり、寝ぼけ眼に、しかし冷や汗だけはしっかりと頬を伝わらせながら、輝愛は頭を抱えた。
・・・・一体いつからこんな病気になっちゃったんだろう・・・
泣きそうになりつつ、寝癖のついた頭をぽかぽか叩いてやる。
早朝である。
輝愛がこの家に来て、四回目の朝である。
一回目の朝は、気付いたら千影が目の前に座って煙草をふかしていた。
二回目の朝は、起きると何故か、千影の寝ているベッドに仲良く一緒に寝ていた。
三回目の朝も、気付くとソファーから彼のベッドに移動していた。
一昨日の朝、目を覚ますなり横に千影を確認した輝愛は、それこそ何事かと騒ぎ立て、寝ていた千影を叩き起こし、事の次第を説明させたのだが。
一方的に相手が何かを仕組んだと思って問いただして見れば、聞くところによると自分自身が悪いと言うではないか。
年頃の娘が、あまつさえ男性の布団に自らもぐりこんで行く等と言う醜態、祖母が生きていたら何と思うであろうか。
そうは頭では思っているものの、要するに夢遊病と言うやつらしく、自分ではどうにも出来ないのが現実である。
輝愛はリビングにあるソファーを間借りして、それをベッドとしている。
当然、千影は自らの寝室のベッドで寝ている。
この男の事である。
女だからと言って、居候風情に自らの寝床を提供する様な心根の持ち主ではない。
彼女自身も、それが妥当だと思っているし、その件に関して異論のあろう筈も無かった。
―――が。
朝起きてみると、夕べ眠りについたソファーではなく、彼の寝室のベッドに堂々と眠っているのだ。
一昨日はその事で泣きながら彼に八つ当たりをしたら、やはり逆に怒られた。
『迷惑しているのはこっちだ』
そう言いたげな瞳だった。
もう絶対にしない。
そう約束したのが、一昨日である。
それが昨日も、そして今日も物の見事に破られている。
「・・・・」
輝愛は無言のまま不機嫌そうな顔をして、隣の主を起こさぬ様注意を払いながら。そろりとベッドを抜け出た。
例えこの病が今すぐに治らずとも、彼が起きる前に毎日目を覚まし、彼に気付かれぬうちに布団から出てしまいさえすれば、恐らくばれる事もないだろう。
今日も、このままシラを切れば上手く行くかも知れない。
そんな風に、どこか卑屈な考えを急いで頭の中でまとめながら、気だるい足取りで洗面所に向かったのだった。
◇
「コーヒー」
千影がダイニングキッチンに顔を覗かせたのは、輝愛が身支度を整え、朝ごはんを作り終えた時だった。
「はい」
言われるが早いか、輝愛はマグカップにコーヒーを注ぎ、彼に手渡す。
彼の好みに合わせた、ブラックの、焼けるように熱いヤツである。
「ん」
マグカップを受け取ると、椅子に腰掛け、新聞を開く。
見た感じ、輝愛とは一回りくらいは違うのだろうか、と思えるくらいの年の差である。
三十路にさしかかったか否か、というところであろう。
十七の輝愛からしたら、その千影の行動が、どこか親父臭く映るのも、致し方ないと言った所か。
目は新聞に向けたまま、コーヒーを飲み下し、大きく欠伸をする。
「・・・昨日あんなに早く寝たのに、まだ眠いの?」
朝食をテーブルに乗せつつ、彼の手の中にある新聞を抜き取る。
「ここ何日か、熟睡出来ないんだよ」
新聞を奪われた事が不満なのか、不機嫌な顔で、空になった手で頬杖をついた。
「何で」
最後に箸を渡してやり、自分も千影の斜め向かいに腰掛ける。
「何でもクソもないだろう。毎晩人の事押しのけて布団占領しやがって」
眉間にシワを寄せたまま、味噌汁をすする。
毎朝コーヒーのクセに、食事は和食が好みらしいのだが、果たしてコーヒーとご飯の組み合わせはいかがなモンか。
そう思いつつ、輝愛は人知れず冷や汗を流す。
―――バレてたのね。
こっそりと抜け出したつもりで、当然、寝ていた千影には気付かれていないと思っていたのだが。
布団に突っ込んでくる時点で相手方に分かってしまっていたのなら、何とも滑稽な事である。
「いや、別にわざととかじゃないし、あたしもよく覚えてないって言うか・・・」
弁解しつつも、語尾がどんどん尻つぼみになっていき、最後の方は聞き取る事すら困難だったりする。
そんな輝愛の様子を、茶碗片手に面白そうに眺めてから、
「一昨日も言ったがな、お前は病気だ」
「う・・・」
座った目で言われて、しかも完璧自分に非があると言うのだから、反論も出なくなってしまう。
返す言葉も見付からず、仕方なくうなだれる。
「・・・・・・すいません」
謝っているのは本心。
でも、自分の意思じゃないんだから、どうしていいかも分からないのが現実。
「まあ、あれだ」
千影は玉子焼きをくわえながら、いつも通りの意地悪な瞳で言う。
「朝っぱらから叫んで飛び起きたりするってのだけは止めてくれ。心臓に悪い」
それだけ言うと、外していた視線を一瞬戻し輝愛を見つめると、またすぐにその視線を外して、
「大人しく寝てる分には、まあ、仕方ないだろうよ」
そう言って、コーヒーを喉の奥に流し込んだ。
果たしてアレで食べ物の味が分かるんだろうか?
なんて変な考えが頭を過ぎったりもしたが。
それ以上に、彼の言葉は輝愛を驚かせていた。
・・・・それって、別に怒ってないってこと?
それとも、結構優しい人だったりするのかな・・
一人思案する輝愛に、千影はやはり例の意地の悪い笑みで、
「病気だしな。仕方ないよな」
『病気』のところに、妙にアクセントを置いて嫌味を言う。
「それに――」
千影はむくれている輝愛を見もせず、更に一言。
「お前みたいなクソガキ、横で寝てたって欲情のカケラもしないしな。変な心配する前に、色気出してからにしな」
言いたいことを言うと、また食事の続きに戻った彼。
・・・・・やっぱり全然優しくない!!!
心の中で輝愛が叫んだのは、まあ、仕方ないのかもしれない。
そんな輝愛の様子を、横目で彼女に悟られぬ様に眺めながら、千影は小さく苦笑した。
―――ま、そーゆー事にしとけ、な。
彼女を眺めながら、内心薄く微笑する。
輝愛が彼のその笑みの意味を知るのは、もうしばらく先の事だ――――
「・・・・またやってしまったのですか、あたしは・・・」
むくりと起き上がり、寝ぼけ眼に、しかし冷や汗だけはしっかりと頬を伝わらせながら、輝愛は頭を抱えた。
・・・・一体いつからこんな病気になっちゃったんだろう・・・
泣きそうになりつつ、寝癖のついた頭をぽかぽか叩いてやる。
早朝である。
輝愛がこの家に来て、四回目の朝である。
一回目の朝は、気付いたら千影が目の前に座って煙草をふかしていた。
二回目の朝は、起きると何故か、千影の寝ているベッドに仲良く一緒に寝ていた。
三回目の朝も、気付くとソファーから彼のベッドに移動していた。
一昨日の朝、目を覚ますなり横に千影を確認した輝愛は、それこそ何事かと騒ぎ立て、寝ていた千影を叩き起こし、事の次第を説明させたのだが。
一方的に相手が何かを仕組んだと思って問いただして見れば、聞くところによると自分自身が悪いと言うではないか。
年頃の娘が、あまつさえ男性の布団に自らもぐりこんで行く等と言う醜態、祖母が生きていたら何と思うであろうか。
そうは頭では思っているものの、要するに夢遊病と言うやつらしく、自分ではどうにも出来ないのが現実である。
輝愛はリビングにあるソファーを間借りして、それをベッドとしている。
当然、千影は自らの寝室のベッドで寝ている。
この男の事である。
女だからと言って、居候風情に自らの寝床を提供する様な心根の持ち主ではない。
彼女自身も、それが妥当だと思っているし、その件に関して異論のあろう筈も無かった。
―――が。
朝起きてみると、夕べ眠りについたソファーではなく、彼の寝室のベッドに堂々と眠っているのだ。
一昨日はその事で泣きながら彼に八つ当たりをしたら、やはり逆に怒られた。
『迷惑しているのはこっちだ』
そう言いたげな瞳だった。
もう絶対にしない。
そう約束したのが、一昨日である。
それが昨日も、そして今日も物の見事に破られている。
「・・・・」
輝愛は無言のまま不機嫌そうな顔をして、隣の主を起こさぬ様注意を払いながら。そろりとベッドを抜け出た。
例えこの病が今すぐに治らずとも、彼が起きる前に毎日目を覚まし、彼に気付かれぬうちに布団から出てしまいさえすれば、恐らくばれる事もないだろう。
今日も、このままシラを切れば上手く行くかも知れない。
そんな風に、どこか卑屈な考えを急いで頭の中でまとめながら、気だるい足取りで洗面所に向かったのだった。
◇
「コーヒー」
千影がダイニングキッチンに顔を覗かせたのは、輝愛が身支度を整え、朝ごはんを作り終えた時だった。
「はい」
言われるが早いか、輝愛はマグカップにコーヒーを注ぎ、彼に手渡す。
彼の好みに合わせた、ブラックの、焼けるように熱いヤツである。
「ん」
マグカップを受け取ると、椅子に腰掛け、新聞を開く。
見た感じ、輝愛とは一回りくらいは違うのだろうか、と思えるくらいの年の差である。
三十路にさしかかったか否か、というところであろう。
十七の輝愛からしたら、その千影の行動が、どこか親父臭く映るのも、致し方ないと言った所か。
目は新聞に向けたまま、コーヒーを飲み下し、大きく欠伸をする。
「・・・昨日あんなに早く寝たのに、まだ眠いの?」
朝食をテーブルに乗せつつ、彼の手の中にある新聞を抜き取る。
「ここ何日か、熟睡出来ないんだよ」
新聞を奪われた事が不満なのか、不機嫌な顔で、空になった手で頬杖をついた。
「何で」
最後に箸を渡してやり、自分も千影の斜め向かいに腰掛ける。
「何でもクソもないだろう。毎晩人の事押しのけて布団占領しやがって」
眉間にシワを寄せたまま、味噌汁をすする。
毎朝コーヒーのクセに、食事は和食が好みらしいのだが、果たしてコーヒーとご飯の組み合わせはいかがなモンか。
そう思いつつ、輝愛は人知れず冷や汗を流す。
―――バレてたのね。
こっそりと抜け出したつもりで、当然、寝ていた千影には気付かれていないと思っていたのだが。
布団に突っ込んでくる時点で相手方に分かってしまっていたのなら、何とも滑稽な事である。
「いや、別にわざととかじゃないし、あたしもよく覚えてないって言うか・・・」
弁解しつつも、語尾がどんどん尻つぼみになっていき、最後の方は聞き取る事すら困難だったりする。
そんな輝愛の様子を、茶碗片手に面白そうに眺めてから、
「一昨日も言ったがな、お前は病気だ」
「う・・・」
座った目で言われて、しかも完璧自分に非があると言うのだから、反論も出なくなってしまう。
返す言葉も見付からず、仕方なくうなだれる。
「・・・・・・すいません」
謝っているのは本心。
でも、自分の意思じゃないんだから、どうしていいかも分からないのが現実。
「まあ、あれだ」
千影は玉子焼きをくわえながら、いつも通りの意地悪な瞳で言う。
「朝っぱらから叫んで飛び起きたりするってのだけは止めてくれ。心臓に悪い」
それだけ言うと、外していた視線を一瞬戻し輝愛を見つめると、またすぐにその視線を外して、
「大人しく寝てる分には、まあ、仕方ないだろうよ」
そう言って、コーヒーを喉の奥に流し込んだ。
果たしてアレで食べ物の味が分かるんだろうか?
なんて変な考えが頭を過ぎったりもしたが。
それ以上に、彼の言葉は輝愛を驚かせていた。
・・・・それって、別に怒ってないってこと?
それとも、結構優しい人だったりするのかな・・
一人思案する輝愛に、千影はやはり例の意地の悪い笑みで、
「病気だしな。仕方ないよな」
『病気』のところに、妙にアクセントを置いて嫌味を言う。
「それに――」
千影はむくれている輝愛を見もせず、更に一言。
「お前みたいなクソガキ、横で寝てたって欲情のカケラもしないしな。変な心配する前に、色気出してからにしな」
言いたいことを言うと、また食事の続きに戻った彼。
・・・・・やっぱり全然優しくない!!!
心の中で輝愛が叫んだのは、まあ、仕方ないのかもしれない。
そんな輝愛の様子を、横目で彼女に悟られぬ様に眺めながら、千影は小さく苦笑した。
―――ま、そーゆー事にしとけ、な。
彼女を眺めながら、内心薄く微笑する。
輝愛が彼のその笑みの意味を知るのは、もうしばらく先の事だ――――
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