忍者ブログ
桃屋の創作テキスト置き場
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■innocence  ―漆黒―  ■




「ローディア・グランシュス」
 これが、あたしの名前。


「白銀の巫女」
 それが、あたしの持つもう一つの名前。

 婆様に教えられた、もう一つの。




 その名前を持つものはは、必ず出会うんだって聞いた。
 白銀、癸、黄金、そして、焔に。


 それらはこの世界の命運に必要な者達で、白銀が現れたら必ず関わるんだって。


 幼かったあたしは、それが一体どういう意味なのか分からずに、でも漠然とした恐怖を感じたのを覚えている。



 ―――なぜしろがねにだけ、みこがいるの?



 そう聞いたあたしに、婆様は悲しそうな瞳をしたまま静かに語ってくれた。



 ―――それはね、ローディア。白銀と呼ばれし者は、必ず焔に討たれて死ぬからだよ。



「死」と言う言葉だけが、強く響いたのを、あたしは強く記憶している。
 消え行く「白銀」に寄り添うのが、白銀の巫女なのだと。


 ―――あたしも死んじゃうの?


 ―――それは、お前がその時決める事さ



 白銀と共に滅ぶか、
 白銀を見届けるか。



 ―――いずれにせよ、辛い選択に違いは無いね。


 そう呟いて、愛おしそうにあたしの頭を撫でる婆様の皺だらけの手は、微かに震えていた―――







「白銀は、魔の器だ」


 暗くなり始めた空の下、いつになく真面目な顔をしたケインが口を開く。
 街灯も無いこの場所では、既に少し先ですらも影が落ちて、目視しにくくなって来ている。


 あたしは静かに口の中で印を結ぶと、集めた枝に炎の術をかける。
 まばゆい光が一瞬輝いた後、枝はぱちぱちと音を立てて燃え出した。


「俺はツテがあって、ある国の機密事項を把握してるんだ。その国で調べられるだけ調べた結果、出たのがその答えだ」
「・・・器?」
 あたしは眉を潜める。
 あたしが聞いたのは、白銀は覚醒すると魔族になると言う話だった。
 そう告げると、ケインは「それも近いと言えば近い表現なんだけどね」と続ける。


「伝聞なんかでは、地域によって差異はあれど、おおよそそんな感じだ。でも、本当は少し違う。覚醒したら、魔族になるんじゃない。覚醒したら、ただ、無になる」
「無・・?消えてしまうとでも言うの・・・?」


 問いかけるあたしの声は、震えては居なかっただろうか。


「消えるんでも無い、ただの『無』だ。消えもしない、現れもしない、ただの無。そしてその『無』の器に、魔族が憑く」
「身体を乗っ取るって、事ね」
「簡単に言えばね」
 そこまで語って、沈黙した。



 どういう事?
 シリウスが『覚醒』して、『無』になる。
『無』になるとは、どういう意味なのだろう。
『無』は『無』であって、存在も具現もしない筈なのだが―――



 もしくは、



 あたしは、自分で至った考えに、背筋が凍った。





 もしくは、
 彼を媒体にして、虚無が広がるとでも言うのか。





 虚無が広がると言う表現はおかしいけれど、あたしは他に適切な表現方法を知らない。
 覚醒した白銀に虚無が収束し、彼を礎に、飲み込む。


 そう、全てを。


 しかし、もしそうだとしたら。
 魔族なんか、添え物に過ぎないのではないだろうか。
 彼が覚醒しなければ、彼が暴走しなければ。
 それは、食い止められるんじゃないだろうか。



「残念な事に」
 あたしの思考を遮って、ケインが口を開く。
「今回の『白銀』に関わるべきの黄金は、まだこの世に生を受けていないらしい。最も、黄金は必ずしも毎回白銀と共に在る訳でもないらしいけど」
 白銀について、過去記されたわずかな記録にも、白銀が出現した際に、焔と癸は欠けた事は無いが、黄金に関しては、必ずしもそうではなかったとか。
「黄金は一体、何をすべき者なの?」
 

 白銀の巫女であるあたしは、白銀に寄り添う者。最期を看取る者。
 癸であるケインは、全てを見届ける者。
 まだ見つかっていない焔は、唯一、白銀を葬れる者。
 

 じゃあ黄金は?


 あたしはその答えを知らない。

「黄金はね、再生だよ」
 ケインが淡々と語る。


 魔族に祝福を受け、覚醒と暴走を約束された白銀。
 赤龍神・フォレディグスタンの加護を受けた焔。
 青龍神・ディズアラグーシャの加護を受けた癸。


 そして。
 神族に祝福を受け、全てを浄化、再生させる能力を授かった、黄金。

 そこまで聞いて、一気にのどが渇く。
 だとしたら?
 だとしたら―――

「じゃあ、黄金が居ない今、もし・・・もし・・・」



 もし、シリウスが覚醒して、白銀になってしまったら?



「簡単な事だ。焔が覚醒した白銀を殺さない限り、この世界の終わりだ」


 淡々と語るケインの瞳は、見た事も無い苦渋で満ちていた。

拍手[0回]

PR
Comment
color
name
subject
mail
url
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
≪ 流転   |HOME|   三日月夜 ≫
material by Sky Ruins  /  ACROSS+
忍者ブログ [PR]
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
プロフィール
HN:
mamyo
性別:
非公開
ブログ内検索
バーコード