桃屋の創作テキスト置き場
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
■阿修羅城の瞳 美しき紅 ■
私は、今、目覚めた。
恐らく、今、目覚めたのだ。
辺りは紅に染まって居る。
其処彼処で蠢き、交わり、のた打ち回って居る。
鬼だ。
妖だ。
その中で、恐らく、私は今、目覚めた。
あちらこちらが血に染みて行く。
人共が、妖共を血塗れに染め上げて行く。
私は自分の両の掌を、じっと眺め、
五本ずつ揃って居る指を、開いたり閉じたりして見る。
どうやら、きちんと動く様だ。
私はゆっくり立ち上がる。
足元は紅に染まって居る。
妖共が人共から、逃げ惑って居る。
私は一人、本尊の前に佇んで居る。
人共が妖共を屠る。
妖共が人共を屠る。
人共が妖共を屠る。
此処は朱に染まって居る。
何と見事な紅であろう。
一点の曇も無い、見事なまでの朱である。
ぞくぞくとする。
妖共が人共から逃げ惑う。
妖共が脅えて助けを請う。
誰に?
私に?
妖共は私に縋って居る。
私に助けを求めて居る。
ああ、妖共は死にたくないのだな、と私は思う。
しかし私は死とは何なのか、善く理解しては居ないので、妖共の気持ちも又、理解出来ぬ。
妖共が人共に屠られて行く。
妖共の悲鳴が耳に届く。
ああ、死んで仕舞ったのだな、と私は思う。
しかし、死とは何なのか、善く理解していない私は、それがどんな物であるか、善く解らぬし、理解も出来のだ。
男が居た。
目の前に、男が居た。
体躯を深紅に染め、朱色の瞳で此方を見詰めて居る。
右手に黒太刀、弓手に緋の数珠。
黒髪、黒衣、黒太刀、その全てを朱に、紅に染めて居る。
何と美しき者よ
と、私は思う。
一点の曇も無い、紅一色の男は美しい、と私は思う。
妖共は私に縋って居る。
男は太刀を構えて居る。
この男だ。
この男は私の物だ。
私はそう思う。
紅に染まった美しいこの男こそが、私を目覚めさせたのだ。
この男ならば、この紅に染まった美しい男ならば、きっと。
「殺せ」
私は言った。紅色の男に。
「殺せ」
私は言った。緋色の美しき男に。
「殺せるものならば」
私は微笑んだ。私を殺してくれる男に。
男は震えて居た。
妖共は私に縋って居た。
男が動く。
太刀が、緋色に紅に朱に染まった黒太刀が、振り下ろされる。
男の目には、
美しき男の其の瞳には、
―――涙―――?
そうして、私の目の前は、緋に染まった。
阿修羅城の瞳 美しき紅 終わり
私は、今、目覚めた。
恐らく、今、目覚めたのだ。
辺りは紅に染まって居る。
其処彼処で蠢き、交わり、のた打ち回って居る。
鬼だ。
妖だ。
その中で、恐らく、私は今、目覚めた。
あちらこちらが血に染みて行く。
人共が、妖共を血塗れに染め上げて行く。
私は自分の両の掌を、じっと眺め、
五本ずつ揃って居る指を、開いたり閉じたりして見る。
どうやら、きちんと動く様だ。
私はゆっくり立ち上がる。
足元は紅に染まって居る。
妖共が人共から、逃げ惑って居る。
私は一人、本尊の前に佇んで居る。
人共が妖共を屠る。
妖共が人共を屠る。
人共が妖共を屠る。
此処は朱に染まって居る。
何と見事な紅であろう。
一点の曇も無い、見事なまでの朱である。
ぞくぞくとする。
妖共が人共から逃げ惑う。
妖共が脅えて助けを請う。
誰に?
私に?
妖共は私に縋って居る。
私に助けを求めて居る。
ああ、妖共は死にたくないのだな、と私は思う。
しかし私は死とは何なのか、善く理解しては居ないので、妖共の気持ちも又、理解出来ぬ。
妖共が人共に屠られて行く。
妖共の悲鳴が耳に届く。
ああ、死んで仕舞ったのだな、と私は思う。
しかし、死とは何なのか、善く理解していない私は、それがどんな物であるか、善く解らぬし、理解も出来のだ。
男が居た。
目の前に、男が居た。
体躯を深紅に染め、朱色の瞳で此方を見詰めて居る。
右手に黒太刀、弓手に緋の数珠。
黒髪、黒衣、黒太刀、その全てを朱に、紅に染めて居る。
何と美しき者よ
と、私は思う。
一点の曇も無い、紅一色の男は美しい、と私は思う。
妖共は私に縋って居る。
男は太刀を構えて居る。
この男だ。
この男は私の物だ。
私はそう思う。
紅に染まった美しいこの男こそが、私を目覚めさせたのだ。
この男ならば、この紅に染まった美しい男ならば、きっと。
「殺せ」
私は言った。紅色の男に。
「殺せ」
私は言った。緋色の美しき男に。
「殺せるものならば」
私は微笑んだ。私を殺してくれる男に。
男は震えて居た。
妖共は私に縋って居た。
男が動く。
太刀が、緋色に紅に朱に染まった黒太刀が、振り下ろされる。
男の目には、
美しき男の其の瞳には、
―――涙―――?
そうして、私の目の前は、緋に染まった。
阿修羅城の瞳 美しき紅 終わり
PR
■SHIROH 希わくば■
「お前は何故、歌う?」
「―――え?」
唐突に口を開いた私の台詞に、面食らった様な声で、弾かれた様にこちらを振り返る。
私と同じ名を持つ少年。
――少年と言うには御幣があるかも知れない。見た所、年の頃なら十五は超えている様だったし、腕も足もすらりと伸びている。しかし、青年と呼ぶのも、何かしっくり来ないのも事実だ。
屈託無く笑うその純粋さや、澱みの無い瞳、歌声。
どれを取っても、不思議な男なのだ。
この眼前で私を見上げる彼は。
私はもう一度、同じ台詞を吐く。
「お前は、何故、歌う?」
海からの湿気を含んだ風が、私と彼の髪の毛をすらりとなぞる。
彼は答えない。ただ、目の前の私の瞳を、その大きな瞳で見つめ返すだけである。
「シロー、お前は何故、歌うんだ?」
見詰め続けられるのは元来苦手だが、彼が相手ならば、別段不愉快では無かったから、そのまま私は彼に背を向け掛けた姿勢で佇み、首だけを回して彼が動くのを待つ。
シローが少し、困った様に笑った。
「良く、解らないんだ」
風がひらひらと流れる。
陽が水平線と交わり掛けている。
とても静かだ。
この場には、彼と私、二人しか居ない。
とても静かで、心地良かった。
私は思わずぽつりと言葉を唇に乗せる。
「昼間の喧騒が、嘘の様だな」
「四郎さん、どうしたの?」
シローが顔を覗きこんで来る。
どうやっても彼のほうが背丈が低いので、何かにつけて下から見上げられる。
最近はそれも慣れてしまった。
「どうしたって―――何が?」
私は、自分の顔に何か着いてでも居るのかと、手のひらで顔を拭いながら。
「何だか寂しそう。今の四郎さん」
鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔、と言うものを、今実際に自分がしているらしい事に気付き、苦笑する。
私は元来笑う事が苦手だが、彼の前では随分と笑顔を出している事に気付き、不思議な気持ちになる。
シローは、本当に不思議な男なのだ。
でなければ、捻じ曲がり、卑屈になった私の心の中に、こうも易々と入り込み、そのまま居付いてしまうなんて芸当が、出来る筈は無い。
「お前は何だか楽しそうだな」
片方の眉をわざと吊り上げて言った私に、彼は無邪気に声を出して笑った。
「楽しいんじゃないよ。嬉しいんだ」
「――嬉しい――?何故・・・」
今度は芝居では無く、本当に眉を顰めて問い返す。
彼はひらりと、まるで舞い散る花弁の様に私に近付き、
「四郎さんが弱味を見せてくれたみたいで、嬉しいんだよ」
ざざ、ざざと波がこだましている。
陽はもう半分程海に溶けてしまっている。
「弱味を見せたつもりは無いが――愚痴めいてはいたかも知れん」
「それでも同じ事なの!」
彼は私の片手を取り、それを軸にこちょこちょと私の周りを駆け回る。
全く、子供と言うのは何故こんなにも無駄に元気が良いのかと、苦笑する。
「俺に、四郎さんの重荷の、ほんの何分の一かでも分けてもらったみたいだから」
彼は動くのを止め、いつしか私の真正面の立ち、
「だから、嬉しいんだ」
そう言って、暗くなりつつある海岸で、目を細めんばかりに眩しく笑った。
私にも、こんな純真な時期があったのだろうかと、年寄りじみた想いが過ぎる。
彼はくるりと身を翻して、私の背中に自分の背中をぴったりとくっ付ける。
「何やる気だ」
「よっと!」
シローはそのまま、背中合わせのまま、私の両腕に自分の両腕を絡ませ、前屈の要領で、私を持ち上げる。
「馬鹿、降ろせ!」
「う~・・」
いきなり足が地面から離れ、一瞬慌てたが、直ぐに又、地面に降ろされた。
「せめて一言言ってからにしろ」
「四郎さん、案外重い」
顔を真っ赤にしたシローが、一寸疲れた声で言う。
「当たり前だろう。私の方がお前より背丈も、身幅もあるんだ」
「いいなぁ」
呆れて息を吐く私に、シローは口をとんがらせて、ふて腐れる真似をしてみせる。
「俺も、四郎さんみたいに強ければ良かったのになぁ」
両手を握ったり開いたりしながらぼやく。
私は三度苦笑して、彼の頭に自分の無骨な手を乗せる。
「――ありがとう」
彼は上目遣いで、私の次の言葉を待つ様に、ただ黙っている。
「ありがとう、シロー」
彼の一連の行動が、私を気遣っている為だと気付いた。
正直、面食らったが、嬉しかった。
彼なりの私へのいじらしい様な気遣いが、気恥ずかしさと同時に、心底滲み込んだ。
「保護者の私が、こんなでは、駄目だな」
彼の頭で手をわしわし動かしながら、笑う。
彼も、私の笑みを確認すると、上目遣いのまま、笑った。
「保護者の立場逆転だね」
「今、この一瞬だけな」
私がやや憮然と答えると、彼は流れる様に歌い出した。
聞き覚えの無い、異国の歌だった。
恐らく、彼の父親が彼に伝えた歌だろう。そう、思った。
異国語の意味は皆目解らなかったが、美しい旋律だった。
私は彼の歌声に酔いしれ、呆けた様に立ち尽くしていた。
彼は、シローは、歌い終わると、こちらに向き直り、今日何度目か解らない笑顔を零して、再び私の手を取った。
「帰ろう、四郎さん」
「ああ、帰ろう、シロー」
彼が居れば、救われる。
彼さえ居てくれれば、私は永遠に救われる。
本気で、そう、思った。
陽はもう、とうの昔に沈み切っていた。
彼は私の手を引いて歩き出した。
神よ、願わくば、彼の歌がいつまでも聴けますように、と。
願わくば、彼を、彼の歌を、彼の全てを守れますように、と。
希わくば、彼が私と同じ道を、歩む事の無い様に、と。
SHIROH 希わくば 終わり
「お前は何故、歌う?」
「―――え?」
唐突に口を開いた私の台詞に、面食らった様な声で、弾かれた様にこちらを振り返る。
私と同じ名を持つ少年。
――少年と言うには御幣があるかも知れない。見た所、年の頃なら十五は超えている様だったし、腕も足もすらりと伸びている。しかし、青年と呼ぶのも、何かしっくり来ないのも事実だ。
屈託無く笑うその純粋さや、澱みの無い瞳、歌声。
どれを取っても、不思議な男なのだ。
この眼前で私を見上げる彼は。
私はもう一度、同じ台詞を吐く。
「お前は、何故、歌う?」
海からの湿気を含んだ風が、私と彼の髪の毛をすらりとなぞる。
彼は答えない。ただ、目の前の私の瞳を、その大きな瞳で見つめ返すだけである。
「シロー、お前は何故、歌うんだ?」
見詰め続けられるのは元来苦手だが、彼が相手ならば、別段不愉快では無かったから、そのまま私は彼に背を向け掛けた姿勢で佇み、首だけを回して彼が動くのを待つ。
シローが少し、困った様に笑った。
「良く、解らないんだ」
風がひらひらと流れる。
陽が水平線と交わり掛けている。
とても静かだ。
この場には、彼と私、二人しか居ない。
とても静かで、心地良かった。
私は思わずぽつりと言葉を唇に乗せる。
「昼間の喧騒が、嘘の様だな」
「四郎さん、どうしたの?」
シローが顔を覗きこんで来る。
どうやっても彼のほうが背丈が低いので、何かにつけて下から見上げられる。
最近はそれも慣れてしまった。
「どうしたって―――何が?」
私は、自分の顔に何か着いてでも居るのかと、手のひらで顔を拭いながら。
「何だか寂しそう。今の四郎さん」
鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔、と言うものを、今実際に自分がしているらしい事に気付き、苦笑する。
私は元来笑う事が苦手だが、彼の前では随分と笑顔を出している事に気付き、不思議な気持ちになる。
シローは、本当に不思議な男なのだ。
でなければ、捻じ曲がり、卑屈になった私の心の中に、こうも易々と入り込み、そのまま居付いてしまうなんて芸当が、出来る筈は無い。
「お前は何だか楽しそうだな」
片方の眉をわざと吊り上げて言った私に、彼は無邪気に声を出して笑った。
「楽しいんじゃないよ。嬉しいんだ」
「――嬉しい――?何故・・・」
今度は芝居では無く、本当に眉を顰めて問い返す。
彼はひらりと、まるで舞い散る花弁の様に私に近付き、
「四郎さんが弱味を見せてくれたみたいで、嬉しいんだよ」
ざざ、ざざと波がこだましている。
陽はもう半分程海に溶けてしまっている。
「弱味を見せたつもりは無いが――愚痴めいてはいたかも知れん」
「それでも同じ事なの!」
彼は私の片手を取り、それを軸にこちょこちょと私の周りを駆け回る。
全く、子供と言うのは何故こんなにも無駄に元気が良いのかと、苦笑する。
「俺に、四郎さんの重荷の、ほんの何分の一かでも分けてもらったみたいだから」
彼は動くのを止め、いつしか私の真正面の立ち、
「だから、嬉しいんだ」
そう言って、暗くなりつつある海岸で、目を細めんばかりに眩しく笑った。
私にも、こんな純真な時期があったのだろうかと、年寄りじみた想いが過ぎる。
彼はくるりと身を翻して、私の背中に自分の背中をぴったりとくっ付ける。
「何やる気だ」
「よっと!」
シローはそのまま、背中合わせのまま、私の両腕に自分の両腕を絡ませ、前屈の要領で、私を持ち上げる。
「馬鹿、降ろせ!」
「う~・・」
いきなり足が地面から離れ、一瞬慌てたが、直ぐに又、地面に降ろされた。
「せめて一言言ってからにしろ」
「四郎さん、案外重い」
顔を真っ赤にしたシローが、一寸疲れた声で言う。
「当たり前だろう。私の方がお前より背丈も、身幅もあるんだ」
「いいなぁ」
呆れて息を吐く私に、シローは口をとんがらせて、ふて腐れる真似をしてみせる。
「俺も、四郎さんみたいに強ければ良かったのになぁ」
両手を握ったり開いたりしながらぼやく。
私は三度苦笑して、彼の頭に自分の無骨な手を乗せる。
「――ありがとう」
彼は上目遣いで、私の次の言葉を待つ様に、ただ黙っている。
「ありがとう、シロー」
彼の一連の行動が、私を気遣っている為だと気付いた。
正直、面食らったが、嬉しかった。
彼なりの私へのいじらしい様な気遣いが、気恥ずかしさと同時に、心底滲み込んだ。
「保護者の私が、こんなでは、駄目だな」
彼の頭で手をわしわし動かしながら、笑う。
彼も、私の笑みを確認すると、上目遣いのまま、笑った。
「保護者の立場逆転だね」
「今、この一瞬だけな」
私がやや憮然と答えると、彼は流れる様に歌い出した。
聞き覚えの無い、異国の歌だった。
恐らく、彼の父親が彼に伝えた歌だろう。そう、思った。
異国語の意味は皆目解らなかったが、美しい旋律だった。
私は彼の歌声に酔いしれ、呆けた様に立ち尽くしていた。
彼は、シローは、歌い終わると、こちらに向き直り、今日何度目か解らない笑顔を零して、再び私の手を取った。
「帰ろう、四郎さん」
「ああ、帰ろう、シロー」
彼が居れば、救われる。
彼さえ居てくれれば、私は永遠に救われる。
本気で、そう、思った。
陽はもう、とうの昔に沈み切っていた。
彼は私の手を引いて歩き出した。
神よ、願わくば、彼の歌がいつまでも聴けますように、と。
願わくば、彼を、彼の歌を、彼の全てを守れますように、と。
希わくば、彼が私と同じ道を、歩む事の無い様に、と。
SHIROH 希わくば 終わり
|HOME|
カテゴリー
最新記事
(02/24)
(02/24)
(02/24)
(02/24)
(02/24)
カレンダー
最新コメント
プロフィール
HN:
mamyo
性別:
非公開
ブログ内検索