桃屋の創作テキスト置き場
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■こんぺいとう 2 ―おもちゃのトーイ― 1 ■
「ひいっ!」
時計を見るなり、小さく、しかし心の中では絶叫する彼女。
がばっ、と威勢良くベッドの上に身を起こす。
「っつ!」
はっとして隣を伺う。
どうやら今の自分の叫び声でも起きないらしい。
ふうと一息小さくついて、ベッドから抜け出し伸びを一つ。
大急ぎで着替えと洗顔を済ませ、髪をポニーテールに結い上げつつ、早くもお馴染みになったヒヨコ柄のエプロンを身に着ける。
そこでもう一度時計に目をやる。
「・・・・あ、一時間見間違えてた」
・・・・・
・・・・・
・・・・・まあ、毎朝の事ではあるのだが。
家中のカーテンを開け放ち、朝の日差しを部屋いっぱいに満たす。
洗濯機を回し、換気扇をつけ、キッチンの窓を開ける。
ガスコンロにやかんを乗せてお湯を沸かしつつ、手早く朝食のおかずを何品か用意する。
そこまで来てふっと一息。
彼女一人しか起きていない時間。
唯一、彼女一人で一息つける瞬間である。
沸いたお湯でティーパックの紅茶を煎れ、やっと椅子に腰掛ける。
高梨輝愛(たかなし きあ)、十七歳。
身寄りが亡くなり、お金も底をつき、途方に暮れて「死んじゃおうかな」なんて思案していた所を「拾われた」のである。
この家に来て早一週間。
やっと彼の生活ペースにも慣れ、家の中の物、置き場所なんかを把握した。
お茶をすすりつつ、新聞に目を落とす。
・・・・そろそろ起こさねば。
輝愛は「よっこいしょ」と、いささかババクサイ掛け声と共に席を立ち上がり、先ほどまで自らも寝ていた寝室のドアを開けようと、ドアノブに手をかけ―――
ごっ!!!
いきなり開いたドアが、彼女の顔面を強打した。
「いいいっ!!」
本気で涙を流してうずくまる。
「・・鼻血出たらどうすんのよ」
だばだば涙を流しつつ、事の元凶に抗議する。
輝愛の眼前に、半眼のままたたずむ一人の男。
彼は謝罪するでもなく、輝愛を押しのけて洗面所へと消えていく。
しばらくして、やっと覚醒したような顔でキッチンに顔を出す。
「・・・・・・食い物の匂いがする」
―――動物か、アンタは。
内心ツッコミを入れていた輝愛の手から、ホットコーヒーの入ったマグカップを受け取り、先ほど輝愛が腰掛けていた椅子に座る。
「トーイ」
輝愛が「何?」と言って振り向くと、彼は自分で立ち上がらずに、マグカップを持っていない方の手でおいでおいでをしている。
その手招きに応じて近づくと、いきなり鼻をむぎゅ、と押さえられた。
「ふが!何ふんろよ」
「鼻血は?」
どうやら、先ほどのドアとの激突した事を言っているらしい。
しかし、その表情は少なくとも「心配している」顔ではない。
「――出てません。おかげさまで」
輝愛は、彼に盛大なあかんべをした。
「低い鼻がそれ以上低くなったら、可愛そうを通り越して悲惨だからな」
にやっ、と意地悪く笑ってコーヒーを流し込む。
輝愛の口が、への字に曲がったのは、言うまでも無い。
輝愛を「トーイ」と呼ぶ彼。
川橋千影(かわはし ちかげ)。
中肉中背と言うには、やや背が高い感があり、身体つきもがっしりしている。
美形とは言いがたい、男っぽい顔つき。
人工的な金がかった髪の毛。
愛用はTシャツにジャージと言う、明らかにやる気の見えない男である。
この男が、輝愛の「拾い主」なのだ。
・・・それにしても「トーイ」ってのはさあ・・・
おかずを温めなおしながら肩を落とす。
彼女の事を何故「トーイ」と呼ぶのか。
簡単である。
「おもちゃ」扱いなのだ。
・・・・・おもちゃは勘弁してほしいなあ・・・
少々ふて腐れながら、テーブルに朝食を用意していく。
彼女が何回抗議しても、千影は彼女を「トーイ」と呼び続けた。
そのうち、抗議するのも馬鹿らしくなって、今ではその呼び名に慣れてしまっている。
「トーイ」
千影がお茶碗を片手においでおいでをしている。
一緒に座って朝食を食べろと言う事らしい。
輝愛が席につくと、千影は少し眉をひそめたように苦笑した。
彼が拾ったおもちゃ(トーイ)。
彼のもとに来てから、輝愛は、名前すら亡くした―――
「ひいっ!」
時計を見るなり、小さく、しかし心の中では絶叫する彼女。
がばっ、と威勢良くベッドの上に身を起こす。
「っつ!」
はっとして隣を伺う。
どうやら今の自分の叫び声でも起きないらしい。
ふうと一息小さくついて、ベッドから抜け出し伸びを一つ。
大急ぎで着替えと洗顔を済ませ、髪をポニーテールに結い上げつつ、早くもお馴染みになったヒヨコ柄のエプロンを身に着ける。
そこでもう一度時計に目をやる。
「・・・・あ、一時間見間違えてた」
・・・・・
・・・・・
・・・・・まあ、毎朝の事ではあるのだが。
家中のカーテンを開け放ち、朝の日差しを部屋いっぱいに満たす。
洗濯機を回し、換気扇をつけ、キッチンの窓を開ける。
ガスコンロにやかんを乗せてお湯を沸かしつつ、手早く朝食のおかずを何品か用意する。
そこまで来てふっと一息。
彼女一人しか起きていない時間。
唯一、彼女一人で一息つける瞬間である。
沸いたお湯でティーパックの紅茶を煎れ、やっと椅子に腰掛ける。
高梨輝愛(たかなし きあ)、十七歳。
身寄りが亡くなり、お金も底をつき、途方に暮れて「死んじゃおうかな」なんて思案していた所を「拾われた」のである。
この家に来て早一週間。
やっと彼の生活ペースにも慣れ、家の中の物、置き場所なんかを把握した。
お茶をすすりつつ、新聞に目を落とす。
・・・・そろそろ起こさねば。
輝愛は「よっこいしょ」と、いささかババクサイ掛け声と共に席を立ち上がり、先ほどまで自らも寝ていた寝室のドアを開けようと、ドアノブに手をかけ―――
ごっ!!!
いきなり開いたドアが、彼女の顔面を強打した。
「いいいっ!!」
本気で涙を流してうずくまる。
「・・鼻血出たらどうすんのよ」
だばだば涙を流しつつ、事の元凶に抗議する。
輝愛の眼前に、半眼のままたたずむ一人の男。
彼は謝罪するでもなく、輝愛を押しのけて洗面所へと消えていく。
しばらくして、やっと覚醒したような顔でキッチンに顔を出す。
「・・・・・・食い物の匂いがする」
―――動物か、アンタは。
内心ツッコミを入れていた輝愛の手から、ホットコーヒーの入ったマグカップを受け取り、先ほど輝愛が腰掛けていた椅子に座る。
「トーイ」
輝愛が「何?」と言って振り向くと、彼は自分で立ち上がらずに、マグカップを持っていない方の手でおいでおいでをしている。
その手招きに応じて近づくと、いきなり鼻をむぎゅ、と押さえられた。
「ふが!何ふんろよ」
「鼻血は?」
どうやら、先ほどのドアとの激突した事を言っているらしい。
しかし、その表情は少なくとも「心配している」顔ではない。
「――出てません。おかげさまで」
輝愛は、彼に盛大なあかんべをした。
「低い鼻がそれ以上低くなったら、可愛そうを通り越して悲惨だからな」
にやっ、と意地悪く笑ってコーヒーを流し込む。
輝愛の口が、への字に曲がったのは、言うまでも無い。
輝愛を「トーイ」と呼ぶ彼。
川橋千影(かわはし ちかげ)。
中肉中背と言うには、やや背が高い感があり、身体つきもがっしりしている。
美形とは言いがたい、男っぽい顔つき。
人工的な金がかった髪の毛。
愛用はTシャツにジャージと言う、明らかにやる気の見えない男である。
この男が、輝愛の「拾い主」なのだ。
・・・それにしても「トーイ」ってのはさあ・・・
おかずを温めなおしながら肩を落とす。
彼女の事を何故「トーイ」と呼ぶのか。
簡単である。
「おもちゃ」扱いなのだ。
・・・・・おもちゃは勘弁してほしいなあ・・・
少々ふて腐れながら、テーブルに朝食を用意していく。
彼女が何回抗議しても、千影は彼女を「トーイ」と呼び続けた。
そのうち、抗議するのも馬鹿らしくなって、今ではその呼び名に慣れてしまっている。
「トーイ」
千影がお茶碗を片手においでおいでをしている。
一緒に座って朝食を食べろと言う事らしい。
輝愛が席につくと、千影は少し眉をひそめたように苦笑した。
彼が拾ったおもちゃ(トーイ)。
彼のもとに来てから、輝愛は、名前すら亡くした―――
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