桃屋の創作テキスト置き場
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■こんぺいとう 読み切り 大人の事情 ■
そう、『溺愛』と『恋愛』は別物だ。
だから、この感情は恋愛感情ではなく、娘に対する愛情なのだ。
◇
「姐さん」
「勇也」
珠子と勇也が二人、何故か何かを必死に堪えたような顔で、見詰め合っている。
「姐さん・・・」
「勇也・・・」
そのまま瞳を輝かせ、二人はがっし!と手に手を取り合う。
傍から見れば、ラブシーンに見えなくも無いくらい接近しているが、それもまたいつものことなので、誰も何も言わない。それどころか、誰も気にしていない。
「勇也、御覧なさい。しっかり目を開いて」
「姐さん・・・俺・・・もう・・・」
そこまでを妙に芝居がかった口調と動きでやってのけた二人。
しかし、限界は何時しか訪れるものである。
「あっはははははははは!見た?見た?見た!?」
「見たってば姐さん!ヤバイ!死ぬ!おもしろくて死ねる!?」
いきなりすごい勢いで笑い出し、あまつさえ目に涙を浮かべている始末である。
「ダサいダサい!ちかちゃんださーい!」
「川ちゃんのあの顔!!・・・あっははははは!!!」
二人はそのまま崩れ落ちそうな程、腹を抱えて、お互いの肩にもたれかかって爆笑している。
どうやら、最近めっきりいじられ役の千影の姿が、どうにもツボに入ったらしい。
「姐さん、張本人だよ張本人!」
「きゃー!ちかちゃんだー!」
ものすごいテンションの二人とは打って変わって、不愉快が服を着て歩いている状態の千影が、トイレから復活したのか、稽古場に戻ってくる。
珠子と勇也は千影を見つけるなり、再び爆笑する。
「もうやだ!ちかちゃんってば!!!」
「何だよクソ珠子!」
不機嫌な千影は、何故かゴキゲン満開な珠子に、意味も無く八つ当たる。
「もうやだ!川ちゃんってば!!!」
勇也も真似して千影の肩をぱしぱし叩く。
「何が!」
全く持って二人の行動の意図を把握していない千影は、不愉快な顔のまま、いつもより数段ドスの効いた声で怒鳴る。
「ういういよ、ちかちゃん」
「はあ?」
耳元で囁く珠子に、千影は眉を顰める。
「初々し過ぎよ」
そこまで言われて、やっと何の事か思い当たった千影は、バツが悪そうに、しかしより一層不機嫌な顔で眉を顰めた。
◇
いつも通りの『月鬼』の稽古場である。
しかし、いつもより若干緊張した空気が漂っているのも、事実である。
別にゲネでも通しでも無い、いつも通りの抜きでの稽古の段階なのだが。
先程から妙に落ち着き無く柔軟やらを繰り返している有住。
その様子を微笑ましげに眺めている、女形の先輩である志井。
何やら密談中の演出の笹林と、演出助手の菊本。
珠子に抱き潰されている輝愛(これはいつも通りだが)。
千影を盗み見ては、声を殺して笑い転げている紅龍と勇也。
そして、苦虫を噛み潰しきった顔の、千影。
「じゃ、いこーか」
演出、笹林の一声で、稽古が始まる。
有住扮する『あやめ』と、輝愛扮する『つばめ』の、二人の重要なシーン。
肉体を持たない『あやめ』と、彼女が生きるべきだった器に生きる『つばめ』が、初めて面と向かって出会うシーンだ。
『何だ、お前』
『私は、あやめ』
『あやめ・・?』
静まりきった稽古場に、二人の声だけが響く。
『そのあやめが、何の用だ』
輝愛の台詞を捉え、千影は内心彼女の成長に舌を巻いていた。
出会った時からは、想像も出来ない娘分の姿である。
しかし、すぐにまた先程と同様の仏頂面に戻り、への字に曲げた口で、煙草を矢継ぎ早に吸い込む。
どうにも、落ち着かないらしい。
しかし、そんな千影に構ってくれるはずも無く、芝居は板の上でどんどん進んでいく。
例の、千影がこれだけ不機嫌になっている原因のシーンが近付く。
・・・・・たかがキスシーンだろうが。
そう自分自身に言い聞かせ、出口に向かいそうになる足を、何とか地面に縫い付ける。
この仕事をして行くのならば、この先何回と無くそういったシーンは出てくるだろう。
自分も当然仕事としてやっているし、彼女にしてもそれは同じ事なのだ。
そこで、昨晩のやりとりが頭を掠める。
彼女の唇に、自分の指を乗せ、その上から口付けた。
その後に発せられた彼女の、『おわり?』と言う一言。
彼女にしてみれば、ただ思ったことを口にしただけだろうが、千影にしてみれば、やましい心のうちを見透かされたようで、えらくバツが悪かったのを覚えている。
―――見透かされた?何をだ?
くわえていた煙草を灰皿に押し付け、顔を手で拭う。
今までの自分だったら、相手が輝愛で無ければ、躊躇い無く唇を重ねていただろう事も、分かっている。
しかし、娘分の最初のキスを奪うのは気が引けて、敢えて、逃げた。
『お前は動けない
お前は私
私はお前
私の全て
飲み込むが良い』
朗々と言い放つ『あやめ』。
『あやめ』はそのまま目の前の『つばめ』の顎に手をかけ、息を吸い込む。
そして、
有住の唇が、輝愛のそれと重なる。
瞬間、輝愛の瞳が驚きで見開かれる。
―――あ・・あのヤローっ!!
まだ数本残っていた煙草の箱を、左手で握りつぶしていた事に気付いたのは、笹林の『じゃ、ここで一端切ります』の声が聞こえて、暫くしてからだった。
◇
何やら恐ろしい事を口走りそうになった輝愛に、アルミの灰皿を投げつけた後。
トイレから戻った千影は、有住の元へ一直線に歩いていく。
「・・・・あら~、川兄・・・・はい。どーぞ」
有住と談笑していた志井が千影を見つけ、苦笑する様な表情のまま、有住を差し出す。
「だ・・大輔さん!?ちょ・・・か・・・川橋さん、顔が怖いんですけど」
脅えまくる有住の背中をぐいぐい押す志井に、千影は肩を落として、
「大輔、いいって。別に浩春をどーこーしよーって気無ぇから」
千影の台詞に、『そうですか?』と微笑み、ようやく有住の背中から手を離す。
「お・・お芝居の中の事ですから・・・」
千影より10cmも身長の低い有住は、上から見下ろされて、まるで蛇に睨まれた蛙状態になっている。
「そうそう、芝居だからな」
「ですよねー」
冷や汗垂らしながら、引き攣った笑いで答える。
「でもな浩春、芝居だからって調子こいて舌入れんのはどーかと思うぞ、俺は」
眉間あたりに怒りマークを浮かべて、でも顔は笑顔のままの千影に、
「あ、ばれました?スイマセンついくせで・・」
「ざけんなっ!」
みなまで言い終わるより早く、千影のゲンコツが落とされる。
「いってー!!なんか無茶苦茶怒ってないですか!?」
「うんにゃ、普通にムカついただけ」
「何ですかそれ!」
「上下関係だ、この世界は厳しい~上下関係なのだよ、浩春君」
半眼の千影と半泣きの有住の間で、苦笑したまま大輔がなだめる。
もっとも、効果があったかは定かではないが。
「ガキが偉そうな口利くな。ってか、舌入れんな。ボケ」
去り際にもう一発平手をかまし、千影はすたすたと歩いて行ってしまった。
「な・・なんなんですかー?もう、大輔さん!」
残された有住は、横に居る大輔の顔を見るが、大輔は苦笑したまま有住の鼻をつまんで、
「まあ、半分はお前も悪いかな」
「なんれれすか」
未だに憮然とした有住に、大輔はようやく彼の鼻を開放して、
「まあ、子供に子供の事情がある様に、大人には大人の事情があるんだよ」
「僕、もう結構いい年なんですけど・・」
鼻をさすりながら呟く有住に、大輔は再び微笑んで、
「知ってるよ」
と、頭を軽く一回なでた。
◇
「んふふ」
「何だよ気持ち悪い」
いつもの様に帰宅して、風呂と食事を済ませ、あとは寝るだけ状態で、ベッドに寝転がっている二人。
「練習の甲斐ありですよね?」
ころんと転がった輝愛が、うつ伏せで頬杖を付いている千影の脇に引っ付く。
「・・・・・・・・ノーコメント」
嫌な事を思い出して、千影は思わず半眼になり、顔を逸らす。
「うええ~!?」
不機嫌な千影を見て、自分の芝居がダメだったのだと勘違いした輝愛は、まくらを抱えてため息一つ。
「・・・もっと精進します」
「いや、出来ればしないでくれよ」
「んへ?何で?」
まくらを抱いたまま、顔だけを向ける。
「・・・・何でも・・・」
しかめ面のまま、目線を外して答える。
「どしたのカワハシ、何かお悩み?」
両手を伸ばして、無理やり彼の顔を自分と向き合う様に向けさせる。
「お悩みなら聞くよー。助言は無理かもだから、聞くだけになっちゃうかも知んないけど」
言って、両手で千影のほっぺたを『にょーん』と言いながら引っ張る。
「お前はさあ、あんまり悩みなさそうだよなあ・・」
言って、ため息一つ。
そのまま彼女の両手をほどかせて、こないだの様に首に顔を埋めて、抱き締める。
「カ・・・カワハシ・・!!?」
「・・・ちっくしょ」
動揺してバンザイ状態になっている輝愛の耳元で、聞こえない位小さく呟く。
「カワハシ?」
「聞こえない。もう寝た」
「うそつき」
彼女の声を耳だけで聞いて、瞼を落とす。
―――やっぱり、俺がもらっておけば良かったかも。
そう思うこの気持ちも、きっと、恋愛感情なんかじゃない。
・・・はずだ。
考えるのを止めて、寝る事にしよう。
悪い夢を見ないように、彼女の香りを抱き締めたまま。
そう、『溺愛』と『恋愛』は別物だ。
だから、この感情は恋愛感情ではなく、娘に対する愛情なのだ。
◇
「姐さん」
「勇也」
珠子と勇也が二人、何故か何かを必死に堪えたような顔で、見詰め合っている。
「姐さん・・・」
「勇也・・・」
そのまま瞳を輝かせ、二人はがっし!と手に手を取り合う。
傍から見れば、ラブシーンに見えなくも無いくらい接近しているが、それもまたいつものことなので、誰も何も言わない。それどころか、誰も気にしていない。
「勇也、御覧なさい。しっかり目を開いて」
「姐さん・・・俺・・・もう・・・」
そこまでを妙に芝居がかった口調と動きでやってのけた二人。
しかし、限界は何時しか訪れるものである。
「あっはははははははは!見た?見た?見た!?」
「見たってば姐さん!ヤバイ!死ぬ!おもしろくて死ねる!?」
いきなりすごい勢いで笑い出し、あまつさえ目に涙を浮かべている始末である。
「ダサいダサい!ちかちゃんださーい!」
「川ちゃんのあの顔!!・・・あっははははは!!!」
二人はそのまま崩れ落ちそうな程、腹を抱えて、お互いの肩にもたれかかって爆笑している。
どうやら、最近めっきりいじられ役の千影の姿が、どうにもツボに入ったらしい。
「姐さん、張本人だよ張本人!」
「きゃー!ちかちゃんだー!」
ものすごいテンションの二人とは打って変わって、不愉快が服を着て歩いている状態の千影が、トイレから復活したのか、稽古場に戻ってくる。
珠子と勇也は千影を見つけるなり、再び爆笑する。
「もうやだ!ちかちゃんってば!!!」
「何だよクソ珠子!」
不機嫌な千影は、何故かゴキゲン満開な珠子に、意味も無く八つ当たる。
「もうやだ!川ちゃんってば!!!」
勇也も真似して千影の肩をぱしぱし叩く。
「何が!」
全く持って二人の行動の意図を把握していない千影は、不愉快な顔のまま、いつもより数段ドスの効いた声で怒鳴る。
「ういういよ、ちかちゃん」
「はあ?」
耳元で囁く珠子に、千影は眉を顰める。
「初々し過ぎよ」
そこまで言われて、やっと何の事か思い当たった千影は、バツが悪そうに、しかしより一層不機嫌な顔で眉を顰めた。
◇
いつも通りの『月鬼』の稽古場である。
しかし、いつもより若干緊張した空気が漂っているのも、事実である。
別にゲネでも通しでも無い、いつも通りの抜きでの稽古の段階なのだが。
先程から妙に落ち着き無く柔軟やらを繰り返している有住。
その様子を微笑ましげに眺めている、女形の先輩である志井。
何やら密談中の演出の笹林と、演出助手の菊本。
珠子に抱き潰されている輝愛(これはいつも通りだが)。
千影を盗み見ては、声を殺して笑い転げている紅龍と勇也。
そして、苦虫を噛み潰しきった顔の、千影。
「じゃ、いこーか」
演出、笹林の一声で、稽古が始まる。
有住扮する『あやめ』と、輝愛扮する『つばめ』の、二人の重要なシーン。
肉体を持たない『あやめ』と、彼女が生きるべきだった器に生きる『つばめ』が、初めて面と向かって出会うシーンだ。
『何だ、お前』
『私は、あやめ』
『あやめ・・?』
静まりきった稽古場に、二人の声だけが響く。
『そのあやめが、何の用だ』
輝愛の台詞を捉え、千影は内心彼女の成長に舌を巻いていた。
出会った時からは、想像も出来ない娘分の姿である。
しかし、すぐにまた先程と同様の仏頂面に戻り、への字に曲げた口で、煙草を矢継ぎ早に吸い込む。
どうにも、落ち着かないらしい。
しかし、そんな千影に構ってくれるはずも無く、芝居は板の上でどんどん進んでいく。
例の、千影がこれだけ不機嫌になっている原因のシーンが近付く。
・・・・・たかがキスシーンだろうが。
そう自分自身に言い聞かせ、出口に向かいそうになる足を、何とか地面に縫い付ける。
この仕事をして行くのならば、この先何回と無くそういったシーンは出てくるだろう。
自分も当然仕事としてやっているし、彼女にしてもそれは同じ事なのだ。
そこで、昨晩のやりとりが頭を掠める。
彼女の唇に、自分の指を乗せ、その上から口付けた。
その後に発せられた彼女の、『おわり?』と言う一言。
彼女にしてみれば、ただ思ったことを口にしただけだろうが、千影にしてみれば、やましい心のうちを見透かされたようで、えらくバツが悪かったのを覚えている。
―――見透かされた?何をだ?
くわえていた煙草を灰皿に押し付け、顔を手で拭う。
今までの自分だったら、相手が輝愛で無ければ、躊躇い無く唇を重ねていただろう事も、分かっている。
しかし、娘分の最初のキスを奪うのは気が引けて、敢えて、逃げた。
『お前は動けない
お前は私
私はお前
私の全て
飲み込むが良い』
朗々と言い放つ『あやめ』。
『あやめ』はそのまま目の前の『つばめ』の顎に手をかけ、息を吸い込む。
そして、
有住の唇が、輝愛のそれと重なる。
瞬間、輝愛の瞳が驚きで見開かれる。
―――あ・・あのヤローっ!!
まだ数本残っていた煙草の箱を、左手で握りつぶしていた事に気付いたのは、笹林の『じゃ、ここで一端切ります』の声が聞こえて、暫くしてからだった。
◇
何やら恐ろしい事を口走りそうになった輝愛に、アルミの灰皿を投げつけた後。
トイレから戻った千影は、有住の元へ一直線に歩いていく。
「・・・・あら~、川兄・・・・はい。どーぞ」
有住と談笑していた志井が千影を見つけ、苦笑する様な表情のまま、有住を差し出す。
「だ・・大輔さん!?ちょ・・・か・・・川橋さん、顔が怖いんですけど」
脅えまくる有住の背中をぐいぐい押す志井に、千影は肩を落として、
「大輔、いいって。別に浩春をどーこーしよーって気無ぇから」
千影の台詞に、『そうですか?』と微笑み、ようやく有住の背中から手を離す。
「お・・お芝居の中の事ですから・・・」
千影より10cmも身長の低い有住は、上から見下ろされて、まるで蛇に睨まれた蛙状態になっている。
「そうそう、芝居だからな」
「ですよねー」
冷や汗垂らしながら、引き攣った笑いで答える。
「でもな浩春、芝居だからって調子こいて舌入れんのはどーかと思うぞ、俺は」
眉間あたりに怒りマークを浮かべて、でも顔は笑顔のままの千影に、
「あ、ばれました?スイマセンついくせで・・」
「ざけんなっ!」
みなまで言い終わるより早く、千影のゲンコツが落とされる。
「いってー!!なんか無茶苦茶怒ってないですか!?」
「うんにゃ、普通にムカついただけ」
「何ですかそれ!」
「上下関係だ、この世界は厳しい~上下関係なのだよ、浩春君」
半眼の千影と半泣きの有住の間で、苦笑したまま大輔がなだめる。
もっとも、効果があったかは定かではないが。
「ガキが偉そうな口利くな。ってか、舌入れんな。ボケ」
去り際にもう一発平手をかまし、千影はすたすたと歩いて行ってしまった。
「な・・なんなんですかー?もう、大輔さん!」
残された有住は、横に居る大輔の顔を見るが、大輔は苦笑したまま有住の鼻をつまんで、
「まあ、半分はお前も悪いかな」
「なんれれすか」
未だに憮然とした有住に、大輔はようやく彼の鼻を開放して、
「まあ、子供に子供の事情がある様に、大人には大人の事情があるんだよ」
「僕、もう結構いい年なんですけど・・」
鼻をさすりながら呟く有住に、大輔は再び微笑んで、
「知ってるよ」
と、頭を軽く一回なでた。
◇
「んふふ」
「何だよ気持ち悪い」
いつもの様に帰宅して、風呂と食事を済ませ、あとは寝るだけ状態で、ベッドに寝転がっている二人。
「練習の甲斐ありですよね?」
ころんと転がった輝愛が、うつ伏せで頬杖を付いている千影の脇に引っ付く。
「・・・・・・・・ノーコメント」
嫌な事を思い出して、千影は思わず半眼になり、顔を逸らす。
「うええ~!?」
不機嫌な千影を見て、自分の芝居がダメだったのだと勘違いした輝愛は、まくらを抱えてため息一つ。
「・・・もっと精進します」
「いや、出来ればしないでくれよ」
「んへ?何で?」
まくらを抱いたまま、顔だけを向ける。
「・・・・何でも・・・」
しかめ面のまま、目線を外して答える。
「どしたのカワハシ、何かお悩み?」
両手を伸ばして、無理やり彼の顔を自分と向き合う様に向けさせる。
「お悩みなら聞くよー。助言は無理かもだから、聞くだけになっちゃうかも知んないけど」
言って、両手で千影のほっぺたを『にょーん』と言いながら引っ張る。
「お前はさあ、あんまり悩みなさそうだよなあ・・」
言って、ため息一つ。
そのまま彼女の両手をほどかせて、こないだの様に首に顔を埋めて、抱き締める。
「カ・・・カワハシ・・!!?」
「・・・ちっくしょ」
動揺してバンザイ状態になっている輝愛の耳元で、聞こえない位小さく呟く。
「カワハシ?」
「聞こえない。もう寝た」
「うそつき」
彼女の声を耳だけで聞いて、瞼を落とす。
―――やっぱり、俺がもらっておけば良かったかも。
そう思うこの気持ちも、きっと、恋愛感情なんかじゃない。
・・・はずだ。
考えるのを止めて、寝る事にしよう。
悪い夢を見ないように、彼女の香りを抱き締めたまま。
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