桃屋の創作テキスト置き場
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■innocence ―流転― ■
「見届ける者」
俺は、そういった役割を持っているらしい。
って言ったって、一体何を「見届ける」のか、誰を「見届ける」のか、なんて、全く持って知りはしなかった。
でも、それが俺の運命―さだめ―で、そこからは逃れられないらしい、って事だけは、確かなようだ。
くそったれ。
さだめなんて知った事か。
俺は俺の生きたい様に生きる。
何かの、誰かの言いなりなんてまっぴらだ。
だから俺は、奴を探す。
奴を探して、へばりついて、ずっと最後まで。
矛盾してるかも知れない。
それは既に「見届ける者」としての役割だからだ。
でも、ただ黙ってみてるなんで性に合わない。
言いなりになるのは嫌いだけど、自分の意思でかき回すのは好きだ。
だったら、
だったら、いっそ。
その流れに飛び込んで、自分の流れに変えるまでだ。
ただ見てるだけなんて、
哀しすぎるじゃないか。
―――なあ?
◇
俺は見事に、奴を見つけ出した。
まあ、「白銀」なんて大層な通り名で呼ばれてる割りには、当の本人は見る影も無いくらいの普通の優男。
こいつが本当にあの伝説の「白銀」なのかと、一緒に旅をするようになった今でも、にわかに信じがたい。
こんなひょろっこい奴の、どこに一体あんな力があるんだ?
純粋な力比べで勝負したら、十中八九俺の勝利だろう。
もしかしたら、こいつが「白銀」ってのは、何かの間違いじゃないか、って思うほど、奴は普通だった。
その容姿を覗いては。
真っ白い流れる長髪、色素の欠落したような瞳。
それだけで、十分だった。
こいつが「白銀」であると言う証拠には。
今も直、別段代わり映えも無く、俺達三人は連れ立って歩いている。
傍目には、よくいる旅人にしか見えない三人。
その三人が全員。「白銀」に関わる重要な人物であるなど、誰も信用しないだろう。
一般人の間では、せいざい昔話としてくらいの認識しかないから。
しかし、白銀は実在するのだ。
俺の目の前に。
「あ、なんかまた敵みたい」
もはややる気の欠落したような口調で、旅の連れの紅一点、ローディアちゃんが呟く。
今俺は彼女を落とそうと画策中なのだが、なんだかんだで白銀、もといもう一人の旅の連れ、シリウスが邪魔をする。
全くもって、遺憾な話だ。
彼女に惚れてるなら惚れてるで、正々堂々と勝負しろってんだ。
それをやる気が無いのなら、邪魔もしないでもらいたい。
まあ、それをしないんじゃないくて、出来ないんだろう、あいつは。
それを見ていて分かっちまうから、俺も決定打を打てないわけで。
ライバルとは言えど、同じ男として、あいつが可愛そうでもあるわけで。
「まーたケインのせいなんじゃない?」
ローディアちゃんが、ジト目でこちらに視線をよこす。
俺は適当に笑っておくだけにした。
「じゃあま、食後の軽い運動といきますか」
「軽いことを願う」
俺の軽口にシリウスが付き合う。
最近では、妙なコンビネーションも生まれてきてしまった。
不本意ながら。
めいめいが剣を抜き放ち、殺気の中に飛び込んでいく。
敵さんには悪いが、今回も速く終わりそうである。
なにせ、こちらには勝利の女神が筆頭におりますから。
◇
「そろそろ白状しても良いんじゃない?ケーイーン?」
ローディアちゃんが、腰の鞘に剣を納めながら、ジト目で俺を見る。
ちなみに、襲って来た野党どもは、見事に皆様のされていらっしゃる。
ね、勝利の女神の恩恵は、結構なもんでしょ?
「白状・・って、何の事?あ、ローディアちゃんへの愛の告白?だったらいつでもまかせて♪」
おちゃらけてみるも、彼女の視線は厳しいままだ。
・・・・お手上げですって。愛しい君にそんな顔されちゃ。
「―――分かった。話すよ」
観念してそう言うと、彼女は僅かに微笑んだ。
「俺も、そんなにたくさん情報をつかんでいる訳じゃないんだけど」
三人で地べたに腰を降ろし、俺は言い訳するように切り出し、躊躇する間すらなく、一気に確信をつく。
「シリウス、今までに暴走した事ない?」
ちらりと横目でシリウスと目を合わせる。
瞬間、彼の眉がぴくりと動く。
「―――あるんだ。で、それっていつ頃?最近の事?」
俺の問いに、当の本人では無く、愛しの彼女が口を開く。
敵認定:そのいち(シリウス)は、憮然とした表情のまま、しかし意外そうに彼女を見た。
・・・ん?もしや・・
「最近も何もつい最近よ。だって・・」
そこまで言って、彼女は一瞬シリウスに目線を移そうとしたが、何を思ったかそれを途中で止め、俺の瞳をひたり、と見つめて、
「ケインと初めて会った日の夜明け頃よ。彼が、おかしかったのは」
彼女の台詞に、シリウスは驚いたように腰を浮かしかけた。
・・・やっぱりか・・まいったね、こりゃ・・
目だけで彼に『座れ』と告げ、彼女との会話に戻る。
シリウスは、ややあってから、元自分が座っていた位置に、再び腰掛けた。
「やっぱりあんたが『白銀』なのか・・・」
俺はあぐらをかいた足の、右ひざの上に右ひじを乗せ、その上に頬杖をつくと言う、いささか器用な格好で、ぼそりと呟く。
「・・・どういう事?ケイン、あなた、何を知ってるの?」
ローディアちゃんが、真剣な表情で聞いてくる。
最も、彼女は身を乗り出したりとかはしなかったけど、その気配は、鬼気迫るものすら感じ取れる。
「分かった。知ってる限りを話す。ただ、俺も又聞きが多いし、俺が見た訳でも無い話ばかりだ。それに、いい話にならない事は確かだ」
俺はそこで一回呼吸を置いて、
「それでも、聞きたいか?」
彼女は、無言で頷く。
彼は、唇を噛み締めたまま、動かなかった。
「聞かないで平穏に暮らすって選択肢、間違ってないと思う。でも、聞きたいなら、俺は俺の知っている情報全てを話そう」
いつものおちゃらけた口調を捨て、至極真面目に言葉を紡ぐ。
「話して。ケイン」
躊躇しないローディアちゃんに軽く頷き、
「で、あんたはどうすんの?聞くの?聞かないの?」
わざと冷たくシリウスに言い放つ。
彼は、やはりしばらく無言で居たが、僅かに拳を握った後、
「・・・・聞いてやるから名前くらい覚えろ。シリウスだ」
そう言って、立ち上がった俺を見上げて、不器用そうに笑った。
「見届ける者」
俺は、そういった役割を持っているらしい。
って言ったって、一体何を「見届ける」のか、誰を「見届ける」のか、なんて、全く持って知りはしなかった。
でも、それが俺の運命―さだめ―で、そこからは逃れられないらしい、って事だけは、確かなようだ。
くそったれ。
さだめなんて知った事か。
俺は俺の生きたい様に生きる。
何かの、誰かの言いなりなんてまっぴらだ。
だから俺は、奴を探す。
奴を探して、へばりついて、ずっと最後まで。
矛盾してるかも知れない。
それは既に「見届ける者」としての役割だからだ。
でも、ただ黙ってみてるなんで性に合わない。
言いなりになるのは嫌いだけど、自分の意思でかき回すのは好きだ。
だったら、
だったら、いっそ。
その流れに飛び込んで、自分の流れに変えるまでだ。
ただ見てるだけなんて、
哀しすぎるじゃないか。
―――なあ?
◇
俺は見事に、奴を見つけ出した。
まあ、「白銀」なんて大層な通り名で呼ばれてる割りには、当の本人は見る影も無いくらいの普通の優男。
こいつが本当にあの伝説の「白銀」なのかと、一緒に旅をするようになった今でも、にわかに信じがたい。
こんなひょろっこい奴の、どこに一体あんな力があるんだ?
純粋な力比べで勝負したら、十中八九俺の勝利だろう。
もしかしたら、こいつが「白銀」ってのは、何かの間違いじゃないか、って思うほど、奴は普通だった。
その容姿を覗いては。
真っ白い流れる長髪、色素の欠落したような瞳。
それだけで、十分だった。
こいつが「白銀」であると言う証拠には。
今も直、別段代わり映えも無く、俺達三人は連れ立って歩いている。
傍目には、よくいる旅人にしか見えない三人。
その三人が全員。「白銀」に関わる重要な人物であるなど、誰も信用しないだろう。
一般人の間では、せいざい昔話としてくらいの認識しかないから。
しかし、白銀は実在するのだ。
俺の目の前に。
「あ、なんかまた敵みたい」
もはややる気の欠落したような口調で、旅の連れの紅一点、ローディアちゃんが呟く。
今俺は彼女を落とそうと画策中なのだが、なんだかんだで白銀、もといもう一人の旅の連れ、シリウスが邪魔をする。
全くもって、遺憾な話だ。
彼女に惚れてるなら惚れてるで、正々堂々と勝負しろってんだ。
それをやる気が無いのなら、邪魔もしないでもらいたい。
まあ、それをしないんじゃないくて、出来ないんだろう、あいつは。
それを見ていて分かっちまうから、俺も決定打を打てないわけで。
ライバルとは言えど、同じ男として、あいつが可愛そうでもあるわけで。
「まーたケインのせいなんじゃない?」
ローディアちゃんが、ジト目でこちらに視線をよこす。
俺は適当に笑っておくだけにした。
「じゃあま、食後の軽い運動といきますか」
「軽いことを願う」
俺の軽口にシリウスが付き合う。
最近では、妙なコンビネーションも生まれてきてしまった。
不本意ながら。
めいめいが剣を抜き放ち、殺気の中に飛び込んでいく。
敵さんには悪いが、今回も速く終わりそうである。
なにせ、こちらには勝利の女神が筆頭におりますから。
◇
「そろそろ白状しても良いんじゃない?ケーイーン?」
ローディアちゃんが、腰の鞘に剣を納めながら、ジト目で俺を見る。
ちなみに、襲って来た野党どもは、見事に皆様のされていらっしゃる。
ね、勝利の女神の恩恵は、結構なもんでしょ?
「白状・・って、何の事?あ、ローディアちゃんへの愛の告白?だったらいつでもまかせて♪」
おちゃらけてみるも、彼女の視線は厳しいままだ。
・・・・お手上げですって。愛しい君にそんな顔されちゃ。
「―――分かった。話すよ」
観念してそう言うと、彼女は僅かに微笑んだ。
「俺も、そんなにたくさん情報をつかんでいる訳じゃないんだけど」
三人で地べたに腰を降ろし、俺は言い訳するように切り出し、躊躇する間すらなく、一気に確信をつく。
「シリウス、今までに暴走した事ない?」
ちらりと横目でシリウスと目を合わせる。
瞬間、彼の眉がぴくりと動く。
「―――あるんだ。で、それっていつ頃?最近の事?」
俺の問いに、当の本人では無く、愛しの彼女が口を開く。
敵認定:そのいち(シリウス)は、憮然とした表情のまま、しかし意外そうに彼女を見た。
・・・ん?もしや・・
「最近も何もつい最近よ。だって・・」
そこまで言って、彼女は一瞬シリウスに目線を移そうとしたが、何を思ったかそれを途中で止め、俺の瞳をひたり、と見つめて、
「ケインと初めて会った日の夜明け頃よ。彼が、おかしかったのは」
彼女の台詞に、シリウスは驚いたように腰を浮かしかけた。
・・・やっぱりか・・まいったね、こりゃ・・
目だけで彼に『座れ』と告げ、彼女との会話に戻る。
シリウスは、ややあってから、元自分が座っていた位置に、再び腰掛けた。
「やっぱりあんたが『白銀』なのか・・・」
俺はあぐらをかいた足の、右ひざの上に右ひじを乗せ、その上に頬杖をつくと言う、いささか器用な格好で、ぼそりと呟く。
「・・・どういう事?ケイン、あなた、何を知ってるの?」
ローディアちゃんが、真剣な表情で聞いてくる。
最も、彼女は身を乗り出したりとかはしなかったけど、その気配は、鬼気迫るものすら感じ取れる。
「分かった。知ってる限りを話す。ただ、俺も又聞きが多いし、俺が見た訳でも無い話ばかりだ。それに、いい話にならない事は確かだ」
俺はそこで一回呼吸を置いて、
「それでも、聞きたいか?」
彼女は、無言で頷く。
彼は、唇を噛み締めたまま、動かなかった。
「聞かないで平穏に暮らすって選択肢、間違ってないと思う。でも、聞きたいなら、俺は俺の知っている情報全てを話そう」
いつものおちゃらけた口調を捨て、至極真面目に言葉を紡ぐ。
「話して。ケイン」
躊躇しないローディアちゃんに軽く頷き、
「で、あんたはどうすんの?聞くの?聞かないの?」
わざと冷たくシリウスに言い放つ。
彼は、やはりしばらく無言で居たが、僅かに拳を握った後、
「・・・・聞いてやるから名前くらい覚えろ。シリウスだ」
そう言って、立ち上がった俺を見上げて、不器用そうに笑った。
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■innocence ―漆黒― ■
「ローディア・グランシュス」
これが、あたしの名前。
「白銀の巫女」
それが、あたしの持つもう一つの名前。
婆様に教えられた、もう一つの。
その名前を持つものはは、必ず出会うんだって聞いた。
白銀、癸、黄金、そして、焔に。
それらはこの世界の命運に必要な者達で、白銀が現れたら必ず関わるんだって。
幼かったあたしは、それが一体どういう意味なのか分からずに、でも漠然とした恐怖を感じたのを覚えている。
―――なぜしろがねにだけ、みこがいるの?
そう聞いたあたしに、婆様は悲しそうな瞳をしたまま静かに語ってくれた。
―――それはね、ローディア。白銀と呼ばれし者は、必ず焔に討たれて死ぬからだよ。
「死」と言う言葉だけが、強く響いたのを、あたしは強く記憶している。
消え行く「白銀」に寄り添うのが、白銀の巫女なのだと。
―――あたしも死んじゃうの?
―――それは、お前がその時決める事さ
白銀と共に滅ぶか、
白銀を見届けるか。
―――いずれにせよ、辛い選択に違いは無いね。
そう呟いて、愛おしそうにあたしの頭を撫でる婆様の皺だらけの手は、微かに震えていた―――
◇
「白銀は、魔の器だ」
暗くなり始めた空の下、いつになく真面目な顔をしたケインが口を開く。
街灯も無いこの場所では、既に少し先ですらも影が落ちて、目視しにくくなって来ている。
あたしは静かに口の中で印を結ぶと、集めた枝に炎の術をかける。
まばゆい光が一瞬輝いた後、枝はぱちぱちと音を立てて燃え出した。
「俺はツテがあって、ある国の機密事項を把握してるんだ。その国で調べられるだけ調べた結果、出たのがその答えだ」
「・・・器?」
あたしは眉を潜める。
あたしが聞いたのは、白銀は覚醒すると魔族になると言う話だった。
そう告げると、ケインは「それも近いと言えば近い表現なんだけどね」と続ける。
「伝聞なんかでは、地域によって差異はあれど、おおよそそんな感じだ。でも、本当は少し違う。覚醒したら、魔族になるんじゃない。覚醒したら、ただ、無になる」
「無・・?消えてしまうとでも言うの・・・?」
問いかけるあたしの声は、震えては居なかっただろうか。
「消えるんでも無い、ただの『無』だ。消えもしない、現れもしない、ただの無。そしてその『無』の器に、魔族が憑く」
「身体を乗っ取るって、事ね」
「簡単に言えばね」
そこまで語って、沈黙した。
どういう事?
シリウスが『覚醒』して、『無』になる。
『無』になるとは、どういう意味なのだろう。
『無』は『無』であって、存在も具現もしない筈なのだが―――
もしくは、
あたしは、自分で至った考えに、背筋が凍った。
もしくは、
彼を媒体にして、虚無が広がるとでも言うのか。
虚無が広がると言う表現はおかしいけれど、あたしは他に適切な表現方法を知らない。
覚醒した白銀に虚無が収束し、彼を礎に、飲み込む。
そう、全てを。
しかし、もしそうだとしたら。
魔族なんか、添え物に過ぎないのではないだろうか。
彼が覚醒しなければ、彼が暴走しなければ。
それは、食い止められるんじゃないだろうか。
「残念な事に」
あたしの思考を遮って、ケインが口を開く。
「今回の『白銀』に関わるべきの黄金は、まだこの世に生を受けていないらしい。最も、黄金は必ずしも毎回白銀と共に在る訳でもないらしいけど」
白銀について、過去記されたわずかな記録にも、白銀が出現した際に、焔と癸は欠けた事は無いが、黄金に関しては、必ずしもそうではなかったとか。
「黄金は一体、何をすべき者なの?」
白銀の巫女であるあたしは、白銀に寄り添う者。最期を看取る者。
癸であるケインは、全てを見届ける者。
まだ見つかっていない焔は、唯一、白銀を葬れる者。
じゃあ黄金は?
あたしはその答えを知らない。
「黄金はね、再生だよ」
ケインが淡々と語る。
魔族に祝福を受け、覚醒と暴走を約束された白銀。
赤龍神・フォレディグスタンの加護を受けた焔。
青龍神・ディズアラグーシャの加護を受けた癸。
そして。
神族に祝福を受け、全てを浄化、再生させる能力を授かった、黄金。
そこまで聞いて、一気にのどが渇く。
だとしたら?
だとしたら―――
「じゃあ、黄金が居ない今、もし・・・もし・・・」
もし、シリウスが覚醒して、白銀になってしまったら?
「簡単な事だ。焔が覚醒した白銀を殺さない限り、この世界の終わりだ」
淡々と語るケインの瞳は、見た事も無い苦渋で満ちていた。
「ローディア・グランシュス」
これが、あたしの名前。
「白銀の巫女」
それが、あたしの持つもう一つの名前。
婆様に教えられた、もう一つの。
その名前を持つものはは、必ず出会うんだって聞いた。
白銀、癸、黄金、そして、焔に。
それらはこの世界の命運に必要な者達で、白銀が現れたら必ず関わるんだって。
幼かったあたしは、それが一体どういう意味なのか分からずに、でも漠然とした恐怖を感じたのを覚えている。
―――なぜしろがねにだけ、みこがいるの?
そう聞いたあたしに、婆様は悲しそうな瞳をしたまま静かに語ってくれた。
―――それはね、ローディア。白銀と呼ばれし者は、必ず焔に討たれて死ぬからだよ。
「死」と言う言葉だけが、強く響いたのを、あたしは強く記憶している。
消え行く「白銀」に寄り添うのが、白銀の巫女なのだと。
―――あたしも死んじゃうの?
―――それは、お前がその時決める事さ
白銀と共に滅ぶか、
白銀を見届けるか。
―――いずれにせよ、辛い選択に違いは無いね。
そう呟いて、愛おしそうにあたしの頭を撫でる婆様の皺だらけの手は、微かに震えていた―――
◇
「白銀は、魔の器だ」
暗くなり始めた空の下、いつになく真面目な顔をしたケインが口を開く。
街灯も無いこの場所では、既に少し先ですらも影が落ちて、目視しにくくなって来ている。
あたしは静かに口の中で印を結ぶと、集めた枝に炎の術をかける。
まばゆい光が一瞬輝いた後、枝はぱちぱちと音を立てて燃え出した。
「俺はツテがあって、ある国の機密事項を把握してるんだ。その国で調べられるだけ調べた結果、出たのがその答えだ」
「・・・器?」
あたしは眉を潜める。
あたしが聞いたのは、白銀は覚醒すると魔族になると言う話だった。
そう告げると、ケインは「それも近いと言えば近い表現なんだけどね」と続ける。
「伝聞なんかでは、地域によって差異はあれど、おおよそそんな感じだ。でも、本当は少し違う。覚醒したら、魔族になるんじゃない。覚醒したら、ただ、無になる」
「無・・?消えてしまうとでも言うの・・・?」
問いかけるあたしの声は、震えては居なかっただろうか。
「消えるんでも無い、ただの『無』だ。消えもしない、現れもしない、ただの無。そしてその『無』の器に、魔族が憑く」
「身体を乗っ取るって、事ね」
「簡単に言えばね」
そこまで語って、沈黙した。
どういう事?
シリウスが『覚醒』して、『無』になる。
『無』になるとは、どういう意味なのだろう。
『無』は『無』であって、存在も具現もしない筈なのだが―――
もしくは、
あたしは、自分で至った考えに、背筋が凍った。
もしくは、
彼を媒体にして、虚無が広がるとでも言うのか。
虚無が広がると言う表現はおかしいけれど、あたしは他に適切な表現方法を知らない。
覚醒した白銀に虚無が収束し、彼を礎に、飲み込む。
そう、全てを。
しかし、もしそうだとしたら。
魔族なんか、添え物に過ぎないのではないだろうか。
彼が覚醒しなければ、彼が暴走しなければ。
それは、食い止められるんじゃないだろうか。
「残念な事に」
あたしの思考を遮って、ケインが口を開く。
「今回の『白銀』に関わるべきの黄金は、まだこの世に生を受けていないらしい。最も、黄金は必ずしも毎回白銀と共に在る訳でもないらしいけど」
白銀について、過去記されたわずかな記録にも、白銀が出現した際に、焔と癸は欠けた事は無いが、黄金に関しては、必ずしもそうではなかったとか。
「黄金は一体、何をすべき者なの?」
白銀の巫女であるあたしは、白銀に寄り添う者。最期を看取る者。
癸であるケインは、全てを見届ける者。
まだ見つかっていない焔は、唯一、白銀を葬れる者。
じゃあ黄金は?
あたしはその答えを知らない。
「黄金はね、再生だよ」
ケインが淡々と語る。
魔族に祝福を受け、覚醒と暴走を約束された白銀。
赤龍神・フォレディグスタンの加護を受けた焔。
青龍神・ディズアラグーシャの加護を受けた癸。
そして。
神族に祝福を受け、全てを浄化、再生させる能力を授かった、黄金。
そこまで聞いて、一気にのどが渇く。
だとしたら?
だとしたら―――
「じゃあ、黄金が居ない今、もし・・・もし・・・」
もし、シリウスが覚醒して、白銀になってしまったら?
「簡単な事だ。焔が覚醒した白銀を殺さない限り、この世界の終わりだ」
淡々と語るケインの瞳は、見た事も無い苦渋で満ちていた。
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