桃屋の創作テキスト置き場
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
■一つ屋根の下 5題 慣れていいものか、悪いものか■
「―――はぁ、ご帰宅」
「はい、ただいまあたし。カワハシお疲れさん、お帰りなさい」
同じ帰り道、同じように二人で帰って。
手にはスーパーの袋と、稽古着の入ったかばん。
荷物を預かってから、玄関の鍵を開けてやると、必ず一足先に玄関に入り、靴を脱
ぐ。
後ろ手にドアの鍵を閉める俺に、必ず振ってくる、声。
「・・・一緒に帰ってきといて、お帰りはおかしくないか?」
言いつつ靴を脱ぐ自分の顔を、ともすれば相好を崩しそうになる顔を、彼女に見られないように下を向く事で隠しながら。
「そう?でも先におうちに入ったのあたしだから、カワハシにお帰りって言っても良いのよ」
「そんなもんかね」
「そうそう」
俺の手からスーパーの袋を奪い去ると、娘はぱたぱたとキッチンへ走って行く。
僅かに肩を落として、その背中を追いかける。
「今日遅くなっちゃったからねー。先にお風呂入ってて。その間にちゃっちゃかご飯
作っちゃうから」
「はいよー」
有無を言わせずバスタオルを押し付けてくる彼女の頭に一瞬掌を乗せ、言われるが
ままに風呂場へ直行する。
「何かアイツどっかのババアみてぇだよなぁ・・・」
出会った当初から所帯染みまくっていた彼女だが、最近特に、勿体無いと思うようになった。
それまではそれ程考えもしなかったのだが、アイツはまだ18だかそんくらいな筈で。
普通なら、遊びまくってる子供の年な訳で。
それなのに、こんなオッサンと一緒にいるおかげで、自由がなくなっちまってるんだ。
そう思ったら、とてつもなく申し訳なく思った。
俺にしては、珍しく。
渡されたバスタオルに目をやると、買ったばかりだと言っていたそれは、白地にピンクの水玉とゆー、なかなかどうして可愛らしい代物で。
自分で渡したくせに、あとになって『あたしが使うんだったのにー』とか怒られる訳だが、それもいつもの事なので、そのまま使わせて頂く事にした。
◇
毎日見てると次第に慣れて、見落としたりする部分も増えるだろうが、その割りに、目の前で自作の晩飯をほおばる娘の行動は、そう都合よくいかせないぞとでも言うかのように出来ているらしい。
現に今も、くしゃみが出そうな状態で魚に醤油をかけようとして、案の定くしゃみと同時にしょうゆをぶちまけてみたり。
自分でやったくせにそれに驚いて立ち上がり、その拍子に足をテーブルにぶち当ててみたり。
「あほ」
「ううう、いたい~ひどい~」
涙目になりながら、それでも醤油をふき取る彼女に、半眼になって苦笑する。
「疲れてるんだろ、早く寝ろな」
「うう~」
ぶつけた箇所が痛いのか、声ならぬ声のままで首を上下させる。
せっかくの晩飯が冷めてしまってはいけないので、俺は食事を再開させる。
大急ぎと言う割りにきちんと出来上がっているそれは、彼女の腕の良さの現われだろう。
一人こっそり感謝して、後片付けを引き受ける。
彼女が風呂場に向かった僅か跡に聞こえたのは、やはり先ほど想像したとおりの台
詞で、俺は思わず吹き出した。
◇
「明日は何時?」
「ん?明日は昼公演ないからいつもより遅くて平気」
目覚ましをセットしながら答えてやると、「やった!」と小さくガッツポーズを作る。
「これでお布団が干せる!」
「げ、寝ようぜたまには」
まさか家事が出来るからのガッツポーズだとは思わず、あからさまに嫌そうな声で答えてやる。
「カワハシ寝てていいよ。あたしがやるから」
事態を理解していない彼女は、いつも通りのきょろんとした目玉で見上げてくる。
もっとも、二人とも既にベッドの上なので、見上げると言う表現が正しいのかは、分からないが。
「お前ね、俺が寝てたらどーやって布団干すのさ」
「あ」
同じベッドに同じ布団で寝てる事実をすっかり忘れ去っていたらしく、ようやく恨めしそうな顔で俺を見つめた。
「・・・・早起き嫌い?」
「大嫌い」
即答どころか、少し彼女の台詞を食う勢いで断言した俺に、彼女はぽへっと枕に突っ伏した。
「けち」
「けちで結構。でも起きてやらない」
「ぶー」
ほっぺたを膨らませる彼女を、やはりいつもの様に腕の中に閉じ込めて。
「じゃあ、お前が起きたら起こしてよ」
「ええええ?」
「やなのか?」
「うえ、そうじゃないけど・・・」
腕の中で定位置に収まると、それこそ目を伏せて呟く。
「あんな気持ちよさそうに寝てるの、起こせるわけないじゃない」
恐らく自分にしか聞こえない程度のボリュームだったつもりだろうが、これだけ密着してれば聞きたくなくても聞こえてしまう。
思わず頬が緩みそうになったのを、腕に力を込めることで誤魔化して。
愛しい彼女のいつもの抱き心地に、目を閉じる。
もし万が一、このぬくもりが無くなったら、俺はどうするんだろう。
寝しなにそんな思いがよぎって、一瞬びくりとする。
いつの間にか、もう夢の中にいるらしい彼女の額に、静かに一度だけ唇を落として。
それも、いつもの事で。
くすぐったそうに僅かに身をよじる姿に、小さく微笑んで、再びまぶたを落とす。
最早彼女の存在が当たり前で、この現状に慣れきってしまっている自分としては、それが良いものか悪いものかの区別がつかない。
もっとも、「悪い」と分かったところで、離すつもりは無いのだから、結果は一緒か。
明日は少しは長く寝ていられそうだ。
いつもより少しだけ、長く。
再び眠る彼女の額に、二回目のキスを落とす。
少しだけ特別な今日は、いつもよりも一回多く。
「―――はぁ、ご帰宅」
「はい、ただいまあたし。カワハシお疲れさん、お帰りなさい」
同じ帰り道、同じように二人で帰って。
手にはスーパーの袋と、稽古着の入ったかばん。
荷物を預かってから、玄関の鍵を開けてやると、必ず一足先に玄関に入り、靴を脱
ぐ。
後ろ手にドアの鍵を閉める俺に、必ず振ってくる、声。
「・・・一緒に帰ってきといて、お帰りはおかしくないか?」
言いつつ靴を脱ぐ自分の顔を、ともすれば相好を崩しそうになる顔を、彼女に見られないように下を向く事で隠しながら。
「そう?でも先におうちに入ったのあたしだから、カワハシにお帰りって言っても良いのよ」
「そんなもんかね」
「そうそう」
俺の手からスーパーの袋を奪い去ると、娘はぱたぱたとキッチンへ走って行く。
僅かに肩を落として、その背中を追いかける。
「今日遅くなっちゃったからねー。先にお風呂入ってて。その間にちゃっちゃかご飯
作っちゃうから」
「はいよー」
有無を言わせずバスタオルを押し付けてくる彼女の頭に一瞬掌を乗せ、言われるが
ままに風呂場へ直行する。
「何かアイツどっかのババアみてぇだよなぁ・・・」
出会った当初から所帯染みまくっていた彼女だが、最近特に、勿体無いと思うようになった。
それまではそれ程考えもしなかったのだが、アイツはまだ18だかそんくらいな筈で。
普通なら、遊びまくってる子供の年な訳で。
それなのに、こんなオッサンと一緒にいるおかげで、自由がなくなっちまってるんだ。
そう思ったら、とてつもなく申し訳なく思った。
俺にしては、珍しく。
渡されたバスタオルに目をやると、買ったばかりだと言っていたそれは、白地にピンクの水玉とゆー、なかなかどうして可愛らしい代物で。
自分で渡したくせに、あとになって『あたしが使うんだったのにー』とか怒られる訳だが、それもいつもの事なので、そのまま使わせて頂く事にした。
◇
毎日見てると次第に慣れて、見落としたりする部分も増えるだろうが、その割りに、目の前で自作の晩飯をほおばる娘の行動は、そう都合よくいかせないぞとでも言うかのように出来ているらしい。
現に今も、くしゃみが出そうな状態で魚に醤油をかけようとして、案の定くしゃみと同時にしょうゆをぶちまけてみたり。
自分でやったくせにそれに驚いて立ち上がり、その拍子に足をテーブルにぶち当ててみたり。
「あほ」
「ううう、いたい~ひどい~」
涙目になりながら、それでも醤油をふき取る彼女に、半眼になって苦笑する。
「疲れてるんだろ、早く寝ろな」
「うう~」
ぶつけた箇所が痛いのか、声ならぬ声のままで首を上下させる。
せっかくの晩飯が冷めてしまってはいけないので、俺は食事を再開させる。
大急ぎと言う割りにきちんと出来上がっているそれは、彼女の腕の良さの現われだろう。
一人こっそり感謝して、後片付けを引き受ける。
彼女が風呂場に向かった僅か跡に聞こえたのは、やはり先ほど想像したとおりの台
詞で、俺は思わず吹き出した。
◇
「明日は何時?」
「ん?明日は昼公演ないからいつもより遅くて平気」
目覚ましをセットしながら答えてやると、「やった!」と小さくガッツポーズを作る。
「これでお布団が干せる!」
「げ、寝ようぜたまには」
まさか家事が出来るからのガッツポーズだとは思わず、あからさまに嫌そうな声で答えてやる。
「カワハシ寝てていいよ。あたしがやるから」
事態を理解していない彼女は、いつも通りのきょろんとした目玉で見上げてくる。
もっとも、二人とも既にベッドの上なので、見上げると言う表現が正しいのかは、分からないが。
「お前ね、俺が寝てたらどーやって布団干すのさ」
「あ」
同じベッドに同じ布団で寝てる事実をすっかり忘れ去っていたらしく、ようやく恨めしそうな顔で俺を見つめた。
「・・・・早起き嫌い?」
「大嫌い」
即答どころか、少し彼女の台詞を食う勢いで断言した俺に、彼女はぽへっと枕に突っ伏した。
「けち」
「けちで結構。でも起きてやらない」
「ぶー」
ほっぺたを膨らませる彼女を、やはりいつもの様に腕の中に閉じ込めて。
「じゃあ、お前が起きたら起こしてよ」
「ええええ?」
「やなのか?」
「うえ、そうじゃないけど・・・」
腕の中で定位置に収まると、それこそ目を伏せて呟く。
「あんな気持ちよさそうに寝てるの、起こせるわけないじゃない」
恐らく自分にしか聞こえない程度のボリュームだったつもりだろうが、これだけ密着してれば聞きたくなくても聞こえてしまう。
思わず頬が緩みそうになったのを、腕に力を込めることで誤魔化して。
愛しい彼女のいつもの抱き心地に、目を閉じる。
もし万が一、このぬくもりが無くなったら、俺はどうするんだろう。
寝しなにそんな思いがよぎって、一瞬びくりとする。
いつの間にか、もう夢の中にいるらしい彼女の額に、静かに一度だけ唇を落として。
それも、いつもの事で。
くすぐったそうに僅かに身をよじる姿に、小さく微笑んで、再びまぶたを落とす。
最早彼女の存在が当たり前で、この現状に慣れきってしまっている自分としては、それが良いものか悪いものかの区別がつかない。
もっとも、「悪い」と分かったところで、離すつもりは無いのだから、結果は一緒か。
明日は少しは長く寝ていられそうだ。
いつもより少しだけ、長く。
再び眠る彼女の額に、二回目のキスを落とす。
少しだけ特別な今日は、いつもよりも一回多く。
PR
■一つ屋根の下 5題 お揃いの弁当■
お揃いだなんてこっぱずかしいはずなのに、なんで当たり前みたいになっちまってるんだ?
◇
ばばあみたいに、朝早く起きるのは、洗濯と朝飯のため。
そう言えば、俺はあいつを拾った初日くらいしか、あいつより早起きしたことはないかもしれない。
百円均一で買ったでかいマグカップに、目一杯紅茶を入れ、俺の知らぬ間(どうせまだ寝ている間)に取ってきた朝刊を広げながら、その中身をゆっくり喉に流し込むのが好きなようだ。
もう少しは、いい食器ぐらい買ってやるって言っても、使えるし、安いし、かわいいから、これで十分。などと言う。
こっそり、「だって自分のお小遣いで買える範囲じゃないとね」なんて小さくつぶやく。
なんでこんなに遠慮するのだろう。
昨今の同世代は、言葉は悪いがもっとがっつりがめつくないか?
それとも まさかいまだに心開いてませんが何か?
とか、そーゆーアレか?
・・・・・・・・・・
だとしたらヤバい。
うっかり悲しすぎるだろ。
寝ぼけ眼のまま、俺はあいつの頭に顎を乗せる
「おもーい」
「おれはおもくなーい」
「なんだそりゃ」
苦笑したように笑って、椅子から立ち上がる。
「なあ」
「ん?」
俺はあいつの飲みかけの紅茶を一口すすりながら、
「これ、いいな」
「でしょ。気に入った?」
「うん。だから、 俺にも一個、買ってきてくんねぇ?」
「あはは、いいね、色違い。並べると絶対かわいい」
歯ブラシだったり、バスタオルだったり、
茶碗の次は、マグカップ。
そうやって、恥ずかしいはずのお揃いが、徐々に増えていく。
「あ、今日は練習半ドンだから、お弁当作った。帰り道に芝生の公園でたべよー、ね?おねがい」
たまにつくってくれる弁当も、もちろん毎日の飯も、当然ながら、お揃いだ
「おー、いいな。じゃちょっくら、頑張ってお仕事しますかね」
歯ブラシ
バスタオル
茶碗に箸にマグカップ
毎日のうまい飯も、
たまに作ってくれるうまい弁当も。
いつかそのうち
あいつが大人になったとき
一番のお揃いの、お誘いをかけようか
まだまだだいぶ先の見えない話だけれど。
お揃いだなんてこっぱずかしいはずなのに、なんで当たり前みたいになっちまってるんだ?
◇
ばばあみたいに、朝早く起きるのは、洗濯と朝飯のため。
そう言えば、俺はあいつを拾った初日くらいしか、あいつより早起きしたことはないかもしれない。
百円均一で買ったでかいマグカップに、目一杯紅茶を入れ、俺の知らぬ間(どうせまだ寝ている間)に取ってきた朝刊を広げながら、その中身をゆっくり喉に流し込むのが好きなようだ。
もう少しは、いい食器ぐらい買ってやるって言っても、使えるし、安いし、かわいいから、これで十分。などと言う。
こっそり、「だって自分のお小遣いで買える範囲じゃないとね」なんて小さくつぶやく。
なんでこんなに遠慮するのだろう。
昨今の同世代は、言葉は悪いがもっとがっつりがめつくないか?
それとも まさかいまだに心開いてませんが何か?
とか、そーゆーアレか?
・・・・・・・・・・
だとしたらヤバい。
うっかり悲しすぎるだろ。
寝ぼけ眼のまま、俺はあいつの頭に顎を乗せる
「おもーい」
「おれはおもくなーい」
「なんだそりゃ」
苦笑したように笑って、椅子から立ち上がる。
「なあ」
「ん?」
俺はあいつの飲みかけの紅茶を一口すすりながら、
「これ、いいな」
「でしょ。気に入った?」
「うん。だから、 俺にも一個、買ってきてくんねぇ?」
「あはは、いいね、色違い。並べると絶対かわいい」
歯ブラシだったり、バスタオルだったり、
茶碗の次は、マグカップ。
そうやって、恥ずかしいはずのお揃いが、徐々に増えていく。
「あ、今日は練習半ドンだから、お弁当作った。帰り道に芝生の公園でたべよー、ね?おねがい」
たまにつくってくれる弁当も、もちろん毎日の飯も、当然ながら、お揃いだ
「おー、いいな。じゃちょっくら、頑張ってお仕事しますかね」
歯ブラシ
バスタオル
茶碗に箸にマグカップ
毎日のうまい飯も、
たまに作ってくれるうまい弁当も。
いつかそのうち
あいつが大人になったとき
一番のお揃いの、お誘いをかけようか
まだまだだいぶ先の見えない話だけれど。
■睡眠ベタ恋 5Type 1.今の寝言だよね・・・?■
あたしがこの家に来てから、ずっと変わらない、日常。
朝起きて、顔洗って、洗濯機回したら、着替えを済ます。
寝室以外の部屋のカーテンを開けて、小さい音でテレビをつけて、天気予報をチェックする。
電化製品のありがたみを実感しつつ、常にあったかいお湯の出るポットからお茶をいただいて。
新聞を一階のエントランスまで取りに行って。
一度だけ、鍵をもたずに新聞を取りに行って、オートロックの自動ドア(出るときは自動ドア、入るときは鍵がいる)に締め出され、半泣きになったことがあるので、鍵はエプロンのポケットに入れて、行く。
洗濯機が回る音と、テレビの小さい音をBGMに、お茶すすりながら新聞を読む。
・・おもしろいなあ、新聞て。教科書より役に立ちそう、絶対。
腕まくりしたカットソーの上には、だいぶ前、初お給料で買ったマイエプロンひよこ柄。そろそろくたびれてきたけども、まだまだ使い倒す予定。
この家ときたら、エプロン無かったんだもの。
調理機材や器具、調味料は揃ってたし、毎日使っている形跡があったので、料理しないわけではないんだろうと、すぐに分かったけど。
なのに、あたしに「ご飯つくれる?」と聞いて、「置いてくれる理由」をすぐにくれたあの人は、なんだかんだ言って優しい。
そろそろ起きて来るであろうこの部屋の主のために、やかんでお湯を沸かす。
ポットもあるけど、ドリップのコーヒーを好む彼の為。
ついでに、ちょびっとそのコーヒーもらって、たっぷりの牛乳であたしもご相伴にあずかるのです。(ブラックは飲めない。苦くて)
ずっと半開きにしている寝室のドアから、寝ぼけ眼に寝癖全開で、起きて来た。
「おはよ」
「んー、はよ」
あくび一発。洗面所へ消えていく。
どうにも普段のイメージと、一番ギャップがあるのが寝起きだと、絶対思う。
ファンの人に見せたいもん、あの抜けきった状態を。
顔を洗うと、ようやく、なんとか目が覚めるのか、普通の足取りで戻ってくる。(寝癖も直ってる)
「はい」
「さんきゅ」
最近ようやくOK出るくらいに上手?に淹れられるようになった焼ける様に熱いコーヒーを手渡す。
受け取って椅子に腰掛けて、さっきあたしが見てた新聞を眺める。
あたしのマグカップには、ちょびっとくすねたコーヒー。牛乳注いで、レンジにかけてチンする。
彼の斜め向かいの椅子に座って、温かい自家製カフェオレを口に含む。
外はすごくきれいな青空のお天気。
毎日ちゃんと起きて、お仕事して、ご飯食べれて。
置いてくれるおうちがあって、
そこの主は、口は悪いけど優しくて
見ず知らずだったあたしを、何でこんなに良くしてくれるのか分からない位、すごく大事にしてくれて。
大事な人に、大事にしてもらえるのって、
ああ、幸せ。
ばーちゃん、あたし幸せだよ。
青空の向こう、育ててくれた大事なばーちゃんに、心の中で呟いた。
と、いきなり彼が、こちらを凝視する。
「・・・?」
声に出したわけでもないのに、何かはみ出たのかな、あたし。
カワハシは一瞬目を細めると、もっかいあくび。
なんだ、まだ寝ぼけてるだけか。
びっくり。
カフェオレをもう一口すすると、洗濯機が「洗濯終わった!」と電子音を鳴らす。
立ち上がって一歩足を踏み出した瞬間、手をものすごい勢いで引っ張られ、倒れこむ。
「ぎゃ!」
不細工な悲鳴を上げて、体を硬くするも、衝撃は訪れない。
そりゃそうだ。手を引っ張った張本人の腕の中だもの。
・・・腕の中?・・・・何故・・・??
何か一瞬で脳みそが回転し、何でかほっぺたが熱くなった気がする。
カワハシは腕の力を強めると、耳元で小さく短く呟く。
「・・・」
「え?」
問いかえすも、答えは返って来ず。
あたしはまた体の自由を取り戻す。
彼は何事も無かったかのように、再びコーヒーを飲んでいる。
洗濯機のふたを開け、洗濯物を取り出して、ベランダに干す。
日常と少し、いやだいぶ?あれあれ少しなのかな?違うことが起きて、動揺を隠せない。
その間も、あたしの耳は熱い。
今の、寝言、だよね・・・?
あたしはほっぺたを両手で押さえる。
寝言じゃないとしたら、彼はやっぱりエスパーかも知れない。
でも、どっちでもいい。ねえ、ばーちゃん、あたしはすごく幸せだよ。
この毎日が、やっぱりすごく幸せ。
あの人の毎日も、そうだと良いと、思う。
ううん、きっと、そうなんだろう。
あたしのと、意味は違うかも知れないけど、きっと「そうだ」って言ってくれるんだと思う。
だって、今も言ってくれたもん。
実は優しいあの人が、
俺も、幸せだ、って。
あたしがこの家に来てから、ずっと変わらない、日常。
朝起きて、顔洗って、洗濯機回したら、着替えを済ます。
寝室以外の部屋のカーテンを開けて、小さい音でテレビをつけて、天気予報をチェックする。
電化製品のありがたみを実感しつつ、常にあったかいお湯の出るポットからお茶をいただいて。
新聞を一階のエントランスまで取りに行って。
一度だけ、鍵をもたずに新聞を取りに行って、オートロックの自動ドア(出るときは自動ドア、入るときは鍵がいる)に締め出され、半泣きになったことがあるので、鍵はエプロンのポケットに入れて、行く。
洗濯機が回る音と、テレビの小さい音をBGMに、お茶すすりながら新聞を読む。
・・おもしろいなあ、新聞て。教科書より役に立ちそう、絶対。
腕まくりしたカットソーの上には、だいぶ前、初お給料で買ったマイエプロンひよこ柄。そろそろくたびれてきたけども、まだまだ使い倒す予定。
この家ときたら、エプロン無かったんだもの。
調理機材や器具、調味料は揃ってたし、毎日使っている形跡があったので、料理しないわけではないんだろうと、すぐに分かったけど。
なのに、あたしに「ご飯つくれる?」と聞いて、「置いてくれる理由」をすぐにくれたあの人は、なんだかんだ言って優しい。
そろそろ起きて来るであろうこの部屋の主のために、やかんでお湯を沸かす。
ポットもあるけど、ドリップのコーヒーを好む彼の為。
ついでに、ちょびっとそのコーヒーもらって、たっぷりの牛乳であたしもご相伴にあずかるのです。(ブラックは飲めない。苦くて)
ずっと半開きにしている寝室のドアから、寝ぼけ眼に寝癖全開で、起きて来た。
「おはよ」
「んー、はよ」
あくび一発。洗面所へ消えていく。
どうにも普段のイメージと、一番ギャップがあるのが寝起きだと、絶対思う。
ファンの人に見せたいもん、あの抜けきった状態を。
顔を洗うと、ようやく、なんとか目が覚めるのか、普通の足取りで戻ってくる。(寝癖も直ってる)
「はい」
「さんきゅ」
最近ようやくOK出るくらいに上手?に淹れられるようになった焼ける様に熱いコーヒーを手渡す。
受け取って椅子に腰掛けて、さっきあたしが見てた新聞を眺める。
あたしのマグカップには、ちょびっとくすねたコーヒー。牛乳注いで、レンジにかけてチンする。
彼の斜め向かいの椅子に座って、温かい自家製カフェオレを口に含む。
外はすごくきれいな青空のお天気。
毎日ちゃんと起きて、お仕事して、ご飯食べれて。
置いてくれるおうちがあって、
そこの主は、口は悪いけど優しくて
見ず知らずだったあたしを、何でこんなに良くしてくれるのか分からない位、すごく大事にしてくれて。
大事な人に、大事にしてもらえるのって、
ああ、幸せ。
ばーちゃん、あたし幸せだよ。
青空の向こう、育ててくれた大事なばーちゃんに、心の中で呟いた。
と、いきなり彼が、こちらを凝視する。
「・・・?」
声に出したわけでもないのに、何かはみ出たのかな、あたし。
カワハシは一瞬目を細めると、もっかいあくび。
なんだ、まだ寝ぼけてるだけか。
びっくり。
カフェオレをもう一口すすると、洗濯機が「洗濯終わった!」と電子音を鳴らす。
立ち上がって一歩足を踏み出した瞬間、手をものすごい勢いで引っ張られ、倒れこむ。
「ぎゃ!」
不細工な悲鳴を上げて、体を硬くするも、衝撃は訪れない。
そりゃそうだ。手を引っ張った張本人の腕の中だもの。
・・・腕の中?・・・・何故・・・??
何か一瞬で脳みそが回転し、何でかほっぺたが熱くなった気がする。
カワハシは腕の力を強めると、耳元で小さく短く呟く。
「・・・」
「え?」
問いかえすも、答えは返って来ず。
あたしはまた体の自由を取り戻す。
彼は何事も無かったかのように、再びコーヒーを飲んでいる。
洗濯機のふたを開け、洗濯物を取り出して、ベランダに干す。
日常と少し、いやだいぶ?あれあれ少しなのかな?違うことが起きて、動揺を隠せない。
その間も、あたしの耳は熱い。
今の、寝言、だよね・・・?
あたしはほっぺたを両手で押さえる。
寝言じゃないとしたら、彼はやっぱりエスパーかも知れない。
でも、どっちでもいい。ねえ、ばーちゃん、あたしはすごく幸せだよ。
この毎日が、やっぱりすごく幸せ。
あの人の毎日も、そうだと良いと、思う。
ううん、きっと、そうなんだろう。
あたしのと、意味は違うかも知れないけど、きっと「そうだ」って言ってくれるんだと思う。
だって、今も言ってくれたもん。
実は優しいあの人が、
俺も、幸せだ、って。
■睡眠ベタ恋 5Type 2.蛇の生殺しってこういうコトだ絶対■
まあ、これくらい特権がなきゃ、実際不貞腐れるかも知れん。
ガキくさいのは、百も承知だけど。
仕事が終わって、帰宅して、飯と風呂とストレッチを済ませて。
明日もマチネからあるので、早めに寝てしまおうと、ベッドに潜り込む。
最も、まだ本気で寝る体制ではない。
少しだけ度の入った眼鏡をかけて、ベッドサイドに置いてある読みかけの本を手に取る。
台本じゃないってだけで、若干嬉しくなるのは、職業病だろうか。
うちの娘分は、俺を「早く寝なさい」だのと言いつつ寝室に押し込んだくせに、自らはまだ洗い物なんぞをこなしている。
本人にそうさせられてるとは言え、後ろめたくない訳が無い。
あいつは、本当の娘でも、ましてや嫁でもない。
しかし、どうにも「家事は渡さん」とばかりの勢いなので、毎回負けてしまうのだが。
それでも、微妙に頼み事として、俺に役割を残しておいてくれるのだから、年の割りにと言っては何だが、なかなかのもんだと思う。
まあ、あいつの事だから、計算なんてこれっぽちも無くて、本気で純粋にやってるだけの事なんだろうけれど。
ある意味、それはすごい。
今までは寝酒だったのだが、どうにも娘分のお気に召さなかったようで、彼女が家に来てからは、寝酒から寝茶に変更になった。
ばばくさい位の健康志向らしく、おかげ様でタバコの量まで減りましたとも。
ヘビースモーカーな俺が。
これ、かなり奇跡。
もともと寝室では吸わない性質なので、そこだけは彼女のお怒りを免れた訳だが、代わりの寝酒はお怒りに触れたようで。
今では何だかよくわからん柄の書いてある、彼女的「かわいい」カップの茶でも、不満なんか無くなってしまった。
むしろ、これが無いと落ち着かないようなレベルだ。
大したもんだよ、ほんとに。
声に出さずに呟いて、苦笑する。
さっきから、手にしたハードカバーの本のページは、進んでいない。
隣の部屋からは、キッチンの水道の蛇口を閉める音。
もうすぐ、娘分もこちらの部屋にやって来るだろう。
その気配を確認して、手にしたページの進まない本を、また元のベッドサイドに戻す。
「まだおきてた?」
どうにも寒がりなのか、寝巻き代わりの長袖Tシャツに、フリース上下、もこもこ靴下まで着こんでやって来る。
「相変わらずフルモッコだな、お前」
「おかげ様で」
唇をとんがらせて言う。
そのまま何のためらいも無く、俺の横のスペースへするりと入り込んでくる。
「カワハシは湯たんぽいらずだね」
「まあな」
結果的に、布団を暖めておいた様な状態だ。
彼女は心底幸せそうな表情で、布団に潜り込む。
初めてこいつを拾った頃は、こんな表情するなんて知らなかった。
色々我慢して、悲しくて、頼れるものがなくて、でも助けてほしくて。
そんな顔だった、こいつが、
ただ、普通の生活で、こうして笑ってくれるようになったのが、
嬉しい。
本当だったら、拾ってすぐに高校に入れてやるべきだったんだろうが、いかんせん年齢も知らなかったし、学業から離れて長かったせいか、そんな考えが俺の中には浮かばなかった。
悪い事をした、と思う。
前に一度だけ、もう一度高校通うか?と聞いたことがあったが、すごい勢いで拒絶された。
その理由が、なんとも恥ずかしい理由だったので、年甲斐もなく閉口したりしたのだが。
まあ、恥ずかしかったのは、言われた俺だけど。
「さむいね」
「こっち来れば」
あんだけ着こんでまだ言うかと思うが、何故か女性は冷え性が多いようだ。
自分は違うので、その辛さが分からないが、確かに指先やつま先なんかは、驚くくらい冷たい。
「お前、鼻の頭までひやっこいのな」
「犬みたいでしょ」
そう言うと、彼女の体温より大分高いだろう俺のシャツの胸元に、それこそ犬の様に鼻を寄せてくる。
よく考えなくても、すごい体制だよな、これ。
毎度の事ながら。
俺の心なんて、勿論全く分かっていないようで、彼女は「あたたかさ」の素、つまり俺にへばりついてくる。
「・・・限度ありますよ、お嬢さん」
「冷たかった?ごめん。でもカワハシぬくっこいんだもの」
思わず漏れた呟きの真意を取り違え、いや、彼女的には正しい返答をする。
違うんだけどね、本当は。
この状況、誰にも見せられないと、本気で思う。
多分、普通に殺される。
主に珠子に。
そして、本人は自覚ゼロだが、案外多く寄せられている、彼女への好意の発信源の男共から。
ま、誰とは言わないし、言いたくも無いけどな。
「ある意味、見せてやってもいいかもな」
「なあにを?」
既に半分夢の中らしい彼女が、若干まったりした口調で問う。
「ん?こっちの話」
「ん・・」
娘分にばれない様に目を細め、密着する彼女を、布団ごと抱き寄せる。
ざまあみろってんだ。
見せ付けてやってもいいけど、でもこれ、案外辛いんだぞ。
何する訳でもないんだから。
いや、何もしないけどな、実際。
しないけど、思うところはあるだろう、男として。
そこでまた一つ苦笑する。
諸悪の根源は、既に夢の中に旅立った。
何でか知らんが、人の寝巻きをしっかり掴んで。
人の胸元に、気持ち良さそうに顔寄せて、寝息なんぞかけてくれちゃって。
ほら、これやられたら、結構かなり、いや大分きついだろ?
こいつに惚れてる男共よ。
俺じゃなかったら、もう耐えられないと思うぞ。実際。
だって、蛇の生殺しってこういう事だ。絶対に。
相手に自覚が無いだけに、余計性質の悪い。
なので、毎晩この攻撃に耐えなきゃいけない俺は、かなり偉いと思う。
たまに、昼間でも破壊力強い攻撃を食らう事もあるんだから、ほんとに俺は偉いと思う。
なので、偉い俺の唯一の特権を、また今夜も振りかざす事にした。
寝息をたてる彼女を、今一度きつく抱きこんで。
かけていた弱い度の眼鏡を外し、リモコンで電気をオフにする。
窓からこぼれる月明かりで、若干目がなれた頃。
他の誰にも見られる事のない、俺の腕の中で眠る彼女の額に唇を落として。
やっぱり、誰にも見せてやる訳にはいかねえよな、やっぱり。
頭の中だけで呟くと、彼女を追う様に、目を閉じた。
まあ、これくらい特権がなきゃ、実際不貞腐れるかも知れん。
ガキくさいのは、百も承知だけど。
仕事が終わって、帰宅して、飯と風呂とストレッチを済ませて。
明日もマチネからあるので、早めに寝てしまおうと、ベッドに潜り込む。
最も、まだ本気で寝る体制ではない。
少しだけ度の入った眼鏡をかけて、ベッドサイドに置いてある読みかけの本を手に取る。
台本じゃないってだけで、若干嬉しくなるのは、職業病だろうか。
うちの娘分は、俺を「早く寝なさい」だのと言いつつ寝室に押し込んだくせに、自らはまだ洗い物なんぞをこなしている。
本人にそうさせられてるとは言え、後ろめたくない訳が無い。
あいつは、本当の娘でも、ましてや嫁でもない。
しかし、どうにも「家事は渡さん」とばかりの勢いなので、毎回負けてしまうのだが。
それでも、微妙に頼み事として、俺に役割を残しておいてくれるのだから、年の割りにと言っては何だが、なかなかのもんだと思う。
まあ、あいつの事だから、計算なんてこれっぽちも無くて、本気で純粋にやってるだけの事なんだろうけれど。
ある意味、それはすごい。
今までは寝酒だったのだが、どうにも娘分のお気に召さなかったようで、彼女が家に来てからは、寝酒から寝茶に変更になった。
ばばくさい位の健康志向らしく、おかげ様でタバコの量まで減りましたとも。
ヘビースモーカーな俺が。
これ、かなり奇跡。
もともと寝室では吸わない性質なので、そこだけは彼女のお怒りを免れた訳だが、代わりの寝酒はお怒りに触れたようで。
今では何だかよくわからん柄の書いてある、彼女的「かわいい」カップの茶でも、不満なんか無くなってしまった。
むしろ、これが無いと落ち着かないようなレベルだ。
大したもんだよ、ほんとに。
声に出さずに呟いて、苦笑する。
さっきから、手にしたハードカバーの本のページは、進んでいない。
隣の部屋からは、キッチンの水道の蛇口を閉める音。
もうすぐ、娘分もこちらの部屋にやって来るだろう。
その気配を確認して、手にしたページの進まない本を、また元のベッドサイドに戻す。
「まだおきてた?」
どうにも寒がりなのか、寝巻き代わりの長袖Tシャツに、フリース上下、もこもこ靴下まで着こんでやって来る。
「相変わらずフルモッコだな、お前」
「おかげ様で」
唇をとんがらせて言う。
そのまま何のためらいも無く、俺の横のスペースへするりと入り込んでくる。
「カワハシは湯たんぽいらずだね」
「まあな」
結果的に、布団を暖めておいた様な状態だ。
彼女は心底幸せそうな表情で、布団に潜り込む。
初めてこいつを拾った頃は、こんな表情するなんて知らなかった。
色々我慢して、悲しくて、頼れるものがなくて、でも助けてほしくて。
そんな顔だった、こいつが、
ただ、普通の生活で、こうして笑ってくれるようになったのが、
嬉しい。
本当だったら、拾ってすぐに高校に入れてやるべきだったんだろうが、いかんせん年齢も知らなかったし、学業から離れて長かったせいか、そんな考えが俺の中には浮かばなかった。
悪い事をした、と思う。
前に一度だけ、もう一度高校通うか?と聞いたことがあったが、すごい勢いで拒絶された。
その理由が、なんとも恥ずかしい理由だったので、年甲斐もなく閉口したりしたのだが。
まあ、恥ずかしかったのは、言われた俺だけど。
「さむいね」
「こっち来れば」
あんだけ着こんでまだ言うかと思うが、何故か女性は冷え性が多いようだ。
自分は違うので、その辛さが分からないが、確かに指先やつま先なんかは、驚くくらい冷たい。
「お前、鼻の頭までひやっこいのな」
「犬みたいでしょ」
そう言うと、彼女の体温より大分高いだろう俺のシャツの胸元に、それこそ犬の様に鼻を寄せてくる。
よく考えなくても、すごい体制だよな、これ。
毎度の事ながら。
俺の心なんて、勿論全く分かっていないようで、彼女は「あたたかさ」の素、つまり俺にへばりついてくる。
「・・・限度ありますよ、お嬢さん」
「冷たかった?ごめん。でもカワハシぬくっこいんだもの」
思わず漏れた呟きの真意を取り違え、いや、彼女的には正しい返答をする。
違うんだけどね、本当は。
この状況、誰にも見せられないと、本気で思う。
多分、普通に殺される。
主に珠子に。
そして、本人は自覚ゼロだが、案外多く寄せられている、彼女への好意の発信源の男共から。
ま、誰とは言わないし、言いたくも無いけどな。
「ある意味、見せてやってもいいかもな」
「なあにを?」
既に半分夢の中らしい彼女が、若干まったりした口調で問う。
「ん?こっちの話」
「ん・・」
娘分にばれない様に目を細め、密着する彼女を、布団ごと抱き寄せる。
ざまあみろってんだ。
見せ付けてやってもいいけど、でもこれ、案外辛いんだぞ。
何する訳でもないんだから。
いや、何もしないけどな、実際。
しないけど、思うところはあるだろう、男として。
そこでまた一つ苦笑する。
諸悪の根源は、既に夢の中に旅立った。
何でか知らんが、人の寝巻きをしっかり掴んで。
人の胸元に、気持ち良さそうに顔寄せて、寝息なんぞかけてくれちゃって。
ほら、これやられたら、結構かなり、いや大分きついだろ?
こいつに惚れてる男共よ。
俺じゃなかったら、もう耐えられないと思うぞ。実際。
だって、蛇の生殺しってこういう事だ。絶対に。
相手に自覚が無いだけに、余計性質の悪い。
なので、毎晩この攻撃に耐えなきゃいけない俺は、かなり偉いと思う。
たまに、昼間でも破壊力強い攻撃を食らう事もあるんだから、ほんとに俺は偉いと思う。
なので、偉い俺の唯一の特権を、また今夜も振りかざす事にした。
寝息をたてる彼女を、今一度きつく抱きこんで。
かけていた弱い度の眼鏡を外し、リモコンで電気をオフにする。
窓からこぼれる月明かりで、若干目がなれた頃。
他の誰にも見られる事のない、俺の腕の中で眠る彼女の額に唇を落として。
やっぱり、誰にも見せてやる訳にはいかねえよな、やっぱり。
頭の中だけで呟くと、彼女を追う様に、目を閉じた。
■私の好きな人■
私より、一回り以上年上の彼が、無防備な顔で眠っている。
そう言えば、彼と私は実際いくつ違っていただろう?
そんなことを薄ぼんやりと考えながら、寝息を立てる彼の、額にかかった髪の毛をそうっと撫でる。
何故か目が覚めてしまい、頬杖をつきながら隣の彼を見つめる。
どれくらいの時間を、この人と一緒に居たのだろう。;
付き合ってどれだけ経ったか、指折り数えてみる。
それほど時間は経っていないのに、この人とずっと長く居たような気分になっている。
馴れ合いなのか、それこそ自然にそうなったのか。
どちらが良いなんて分からないけど、ただ、私にはこの人が心地よい。
あ、笑い皺だ。
目尻にうっすらと見えたそれは、いつものこの人の微笑みを思い出させる。
私を見る時の、何とも言えない暖かい眼差しや、
優しく髪の毛を撫でる手や、
名前を呼ぶあの声一つ取っても。
僅か微細な事ばかりだけれども、目を凝らせば、そこに感じるのは
この人に確かに愛されていると言う感触。
口には出さないけれど、とても心地よい。
ひとしきり彼の顔で遊んだ後、一つあくびをする。
腕にしたままの時計に目をやるが、まだ、起きるには早すぎる。
久方ぶりの二人揃っての休日だ。
普段出来ない朝寝坊も、良いだろう。
私は布団を鼻まですっぽりかけ直すと、私の大好きな人に近付く。
夕べのシャンプーの香りが感じられるほどの距離で、再びまぶたを閉じる。
横で私が動いたためか、寝ぼけただけか、
隣で眠る彼が一瞬目を開ける。
どうしたのと声を出すより早く、凡そ寝ぼけていたのだろうこの人は、無言で布団ごと私を引き寄せる。
そしてこの人の言う「定位置」に私が収まると、安心しきった様に再び寝息を立て始めた。
腕枕をされ、抱き込まれている状態で、少し、体制を変えると、私も彼の寝息に呼吸を合わせる。
すぐに睡魔が戻ってきて、私の意識を吸い取ってゆく。
寝しなに僅かに聞こえたあの人の、私を呼ぶ、恐らく寝言にさえ、
幸福を感じながら。
そうして私はまた、この人と眠る。
きっと、ずっとこの先も。
私より、一回り以上年上の彼が、無防備な顔で眠っている。
そう言えば、彼と私は実際いくつ違っていただろう?
そんなことを薄ぼんやりと考えながら、寝息を立てる彼の、額にかかった髪の毛をそうっと撫でる。
何故か目が覚めてしまい、頬杖をつきながら隣の彼を見つめる。
どれくらいの時間を、この人と一緒に居たのだろう。;
付き合ってどれだけ経ったか、指折り数えてみる。
それほど時間は経っていないのに、この人とずっと長く居たような気分になっている。
馴れ合いなのか、それこそ自然にそうなったのか。
どちらが良いなんて分からないけど、ただ、私にはこの人が心地よい。
あ、笑い皺だ。
目尻にうっすらと見えたそれは、いつものこの人の微笑みを思い出させる。
私を見る時の、何とも言えない暖かい眼差しや、
優しく髪の毛を撫でる手や、
名前を呼ぶあの声一つ取っても。
僅か微細な事ばかりだけれども、目を凝らせば、そこに感じるのは
この人に確かに愛されていると言う感触。
口には出さないけれど、とても心地よい。
ひとしきり彼の顔で遊んだ後、一つあくびをする。
腕にしたままの時計に目をやるが、まだ、起きるには早すぎる。
久方ぶりの二人揃っての休日だ。
普段出来ない朝寝坊も、良いだろう。
私は布団を鼻まですっぽりかけ直すと、私の大好きな人に近付く。
夕べのシャンプーの香りが感じられるほどの距離で、再びまぶたを閉じる。
横で私が動いたためか、寝ぼけただけか、
隣で眠る彼が一瞬目を開ける。
どうしたのと声を出すより早く、凡そ寝ぼけていたのだろうこの人は、無言で布団ごと私を引き寄せる。
そしてこの人の言う「定位置」に私が収まると、安心しきった様に再び寝息を立て始めた。
腕枕をされ、抱き込まれている状態で、少し、体制を変えると、私も彼の寝息に呼吸を合わせる。
すぐに睡魔が戻ってきて、私の意識を吸い取ってゆく。
寝しなに僅かに聞こえたあの人の、私を呼ぶ、恐らく寝言にさえ、
幸福を感じながら。
そうして私はまた、この人と眠る。
きっと、ずっとこの先も。
カテゴリー
最新記事
(02/24)
(02/24)
(02/24)
(02/24)
(02/24)
カレンダー
最新コメント
プロフィール
HN:
mamyo
性別:
非公開
ブログ内検索