忍者ブログ
桃屋の創作テキスト置き場
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■一つ屋根の下 5題  今更、という気もすれば■





 例えば、眠っている時にまじまじと見れる、顔の輪郭だとか、
 ふとした時に支えてくれる腕だとか、
 到底届かない背丈だとか。

 
 どう頑張っても、決して勝てない訳で。
 でもその理由を、あまりに当たり前すぎる理由を、ずっと失念していた自分に、大分、呆れたりもして。







「・・・・・・おはよ」
「おはよう」
 寝ぼけ眼のまま、背中からあたしを抱えるように肩に顎を乗せる。
 目の前に見える腕は、筋肉質で、あたしのとは到底違う。



 なんでだろ、おんなじ様に練習してるのに。



 やってる年月が違うからだろうか。
 でも、写真で見たあたしぐらいだった頃の彼も、今程までは行かないものの、しっかりとした体格だったのを思い出す。


 なんか、不公平だなぁ。


 以前彼にそう告げたら、眉尻を落として笑いながら言われた。
『しょうがないだろ』って。


 何が『しょうがない』のか納得できなくて、ほっぺたを膨らませたのを覚えてる。


「ねみ~」
 呟いて体重を乗せてくる彼の重さに耐え切れず、思わずずるずると下に沈んでいく。
「おもい~」
「あ、悪ぃ」
 ようやく多少覚醒したのか、慌てて背中から離れる。
 すっぽりと覆われていた背中から彼が離れると、一瞬、肌寒い様な気になる。


 椅子から立ち上がって振り返って、彼の方へ向き直る。
「輝愛?」
「むー」

 
 いくら背伸びをしても、やっぱり届かないし、腕を比べてみても、断然あたしの方がひょろっこくて。
 

「・・・ずるいなぁ」
「はあ?」
 思わずぽろりと出た言葉に、肩を落とす彼。
「何で、そんなに何でもかんでもあたしに勝っちゃうのよ」
「何が」
 訳が分からんと言った表情の彼に、やっぱりいつかのように頬を膨らませて。
「力も強いし、背も高いし、声も違うし、あたし何にも勝てないんだもん」
 一個くらい、何かあなたより勝ってたいのに。
 そう言うと、目の前の起き抜けの彼は、寝癖のついたままの頭を後ろ手にかいて、笑った。
「あ、ひど」
「だって・・お前、そりゃ無理だろ」
「何でよ」

 一通り笑い終えて、目尻に浮いた涙を指で拭いながら。



「だって、俺は男で、お前は女なんだから」



「へ・・?」
「だろ?男の腕力なんかに勝つ必要、ないだろうが」
「・・・・」


「だって、せっかくお前は女の子なんだから」


 力仕事は男の俺に任しておけば良い訳で、それはお前が負けてるとかじゃなくて。
 だって、俺はお前に勝てないトコたくさんあるぞ?
 お前が気付いてないだけで。


 そう言って、彼はいつもの様に笑った。


 そうだ、あまりに当たり前すぎて、忘れていた。
 

 そう、例えば、彼のよく通るテノールの声とか、
 あたしがすっぽり入ってしまう腕とか、
 よっかかってもびくともしない背中とか。

 
 言われて、今更気付く。


「でも、お前に勝とうなんて、俺は思わないぞ」
 だって、どうやったって勝てないのが、分かってるから。
 そう言うと、おでこに一瞬唇を落とす。
 赤くなったあたしの頬を面白そうにつまんで、
「やっぱりお前、面白いわ」
 と言い残すと、洗面所に消えていった。



 今更何を、と言う気がするけれど、忘れていた事。
 やっと少し気付いて、でも同時に分からないことも増えた。


 何でもあたしに勝ってるのに、あたしに勝とうと思わないって、どーゆーこと?


 顔洗って戻って来たら、もっかい聞いてみよう。
 なんだか、また笑われそうな予感がしなくも無いけれど。


拍手[0回]

PR
Comment
color
name
subject
mail
url
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
material by Sky Ruins  /  ACROSS+
忍者ブログ [PR]
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
プロフィール
HN:
mamyo
性別:
非公開
ブログ内検索
バーコード